【投稿論文】『核の傘に生じた綻び ~米国による拡大核抑止力終焉後の世界~』(原典:『The Broken Nuclear Umbrella  ~What Come After Extended Deterrence~』By Jennifer Lind & Darly G. Press, Foreign Affairs, 2026年July/August号、P76-89)

著者:ジェニファー・リンド & デリィル・G.プレス共著(それぞれ、ダートマス大学の准教授及び教授)

(第一章 論稿趣旨)

 米国同盟諸国は、この数十年間、自国安全保障を専ら米国の拡大核抑止力に依存した。彼らは自前の核兵器を断固断念する代わり、米国が提供する“核の傘”の保護下に生きる道に同意した。然し、この仕組みは、冷戦時代にこそ機能し得た。何故なら、当時、両陣営が争った賭け金は途轍もなく高額で、つまり、両者相互の存亡を賭け競う中、仲間の同盟諸国が制圧される事態を防ぐ為には、「譬(たと)え、自国が壊滅的損害を被るリスクを負っても、米国は核戦争を遂行するのだ」と、苟も辛うじて信ずるに足る“信憑性”を以って、時の米国指導者達は発言が出来たからだ。

  然し、この米国が担った核抑止システムを生んだ、当時の世界環境は既に遠く過ぎ去った。今も米国が尚、欧州に重大利害を保持するのは確かだが、今日の露西亜脅威は、嘗てソヴィエト連邦が欧州や亜細亜大半地域の征服を画した頃とは、比べるべくもなく限定的だ。つまり、今日の戦争は、東欧州内及び露西亜影響圏の境界線上にきっかり限定された地域を巡るもので、嘗てのように、全世界規模で覇権を争うものではない。

同様に、朝鮮半島は、嘗て冷戦時、不倶戴天と互いに仰ぐ自由主義と共産主義陣営が相まみえた主戦場だった。処(ところ)が、今日、同地域は、ピョンヤンの独裁者が権力を必死に固守せんとする中で、概ね地域紛争の様相を呈する。更に、現トランプ政権の「米国の核心利益を増進するのが、第一にして最重要」との方針は、「同盟諸国を守る為に米国の諸都市を焦土と化すことも辞さぬ」との約束とは両立し難いものとなった。

斯くして、戦争は最早、概ね地域紛争の範疇に属し、且つ米国が展開縮小を図りつつある今日の世界に於いて「米国が遠く離れた同盟諸国に代わり核戦争を遂行する」と軽信するのは困難と知るべきだ。

 従って、米国同盟諸国は「この米国の拡大核抑止政策が、今となっては“ハッタリ”ではなかろうか」と次第に懸念を抱き始めるのも無理なからぬ処だ。ラトビア、ポーランド、及び韓国の指導者達は、「米国が己の領土破壊を賭して迄、同盟諸国を守り通す」点に懐疑的だ。更には、競合する北朝鮮や露西亜の指導者達も又、この情勢から同じ結論を導き出し、それに基づき行動策定する可能性が大いにある。つまり、ワシントン政府による核の誓約に最早、信を置くことが出来なければ、米国同盟諸国は、自身の存続危機に纏わる最重要たる安全保障を確保する為に、新たな取り組みを必要とする点が自明なのだ。

 現在、拡大抑止戦略が直面する危機は、冷戦終結以来、徐々に醸成されて来た経緯がある。これ迄、同盟諸国が、米国側の約束履行の信頼性を疑うようなことがあると、ワシントン政府は都度、自らそれらの懸念を和らげようと躍起になって来た。即ち、米国は、公式声明を以って「友好国に対する条約義務履行」を宣言し、そして、潜水艦を友好国に寄港させ、或いは爆撃機を領空飛行させる等の軍事威示行動を挙行し、米軍の力と同盟条約義務を強調した。

然し、現実は明らかにその“正反対”であるにも拘わらず、「万事順調だ」と虚勢を張るのは、寧ろ危うい行為だ。何故なら、我々が、現行の拡大抑止戦略の弱点から目を背ければ、敵対者達が一層大胆化しその弱点を突く攻撃に踏み切る危険があり得るからだ。

一方、亜細亜と欧州の同盟諸国が、もし自分達の安全が保されない恐怖から、挙(こぞ)って自前の核開発計画を急ごしらえする事態になると、それが、又、敵対勢力が予防的先制攻撃を次々と仕掛ける引き金となり、紛争が急激にエスカレートすると云う、危険な将来シナリオの展開可能性すら秘めている。

世界に騒擾が拡大し兼ねないこの事態を回避するにはどうすべきか? それには、米国自身が、最早「世界中の全ての同盟諸国にとって、信頼に足る、核の安全保障提供者たり得ない」と云う現実を、先ず認めるべきだ。そして、場合によっては、友好諸国が自前で核武装することをも含め、今日の地政学的諸現実に一層適合する諸解決策が追求される中、斯く変容を進める同盟諸国に対し米国も又、順応していくことが肝要なのだ。

亜細亜に於いては、韓国との間に核共有合意を確立するのも選択肢の一つだ。具体的には、米国とNATO間の同取り決めを手本とし、万一、韓国が北朝鮮から攻撃を受けた際、米国が戦術核兵器の管理権限を韓国に移譲することを認めるものだ。或いは、もし、ソウル政府が、自前の核兵器製造に向け、最終的に核不拡散条約から脱退を決断する場合、ワシントン政府は同決定を支持し、且つ核武装化完成までの移行期間に生じる恐れがある諸危害から韓国を防衛すべきだ。

又、欧州に於いては、米国、そしてその友好諸国にとって最善策とは、現行NATO核共有計画を修正し、同盟の集団抑止力に関し、欧州自身による管理を強化することだ。即ち、仏国と英国――米国以外のNATO内、核保有2ケ国――は、欧州の米国依存度を減じ、且つ域内の最脆弱な加盟諸国をより効果的に保護すべく、新しいNATO核計画を策定する役割を加速させるべきだ。

 問題なのは「米国の諸友好国がより強固で自律的な抑止体制を構築出来るよう、米国がその手助けを行う」と云う考えが、ワシントン政府内の多くの者達にとり受け入れ難いと云う事実だ。その背景は、彼らは、核拡散を恐怖する一方、“世界の安全保障提供者”として米国が有した梃の効力を失いたくないからだ。然し乍ら、本件はそれら決断に就いて、ワシントン政府がとやかく口出しする問題ではないかも知れない。と云うのも、米国の同盟諸国の立場が脆弱である以上、現実に直面する諸危機を減じる為に、彼らが確固たる諸手段を実施していくのは正しい選択だからだ。その策とは、自前の核開発を通じ抑止力を手にするか、或いは、これ迄、米国が押し付けて来た、既に時代遅れとなった諸禁止条項を破るような、それ以外の諸手段を求めるものかも知れない。重要なのは、彼らが、自身の防護策として何れの道を選択するにせよ、ワシントン政府が為すべきは、その実現に向け彼らを支援することである。

(第一章 了)

*当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

文責:日向陸生

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