【訳者所感】
今日の日本を例えるなら、差し詰め、重大事故に遭い緊急搬送で病院に担ぎ込まれてきた患者に等しい。その男は、半切れのチンポから血を噴き出し、その局部を何とか回復して欲しいが、即、止血しないと命すらも危ない。処が、出て来た当直の医師は落ち着き払ってこう云う。
「では、まず額の傷から縫っていきましょう、それから、肘が骨折していないかレントゲンを撮ります」。
この医師の対応が、正しく、今の高市政権だ。要はやることが、ド外れて的外れなのだ。肝心の重大問題にどう対処してよいか解らず、かといって識者へ知見を相談するでもなく、外見丈は、たいそう勿体ぶるが、実際は独断で適当に処置しその場を凌ぐだけだ。そうこうする内、この患者は絶命するのが確実だ。
その“医者”が熱心に進める施術は、既に読者お馴染みの処方箋だ。国旗損壊罪、殺傷兵器輸出解禁、スパイ防止法、ガソリン補助金対策、食料品消費税減税、それに伴う外食産業や小規模事業者への救済対応、更には憲法改正議論、等々だ。これらは、一体全体、今行うべき緊急事案だろうか? これに対し、最大の出血箇所にして、円安・物価高の元凶たる財政再建には一向知らぬ顔で向き合おうとしない。
晩唐の詩人、杜牧は、秦王朝滅亡を安房宮殿炎上で詠っている。
「独夫の心は日に益々驕固(きょうこ)なり。戍卒(じゅそつ)叫び、楚人の一炬(いっきょ)、憐れむべし焦土たり」と。恰も、高市政権の将来に重なって見える。今日の政治家達が豪勢な衣装に身を包み連日国会論戦に励む姿は、栄華を極め誠に目出度い景色だ。杞憂であることを願う。
文責:日向陸生
【当月 フォーリンアフェアーズ誌 2026年5月・6月号 概要】
<特集論稿>
当月は、巻頭に『イランから生じた衝撃波』と題する特集を組み、関連4論を掲載した。
18世紀の仏国軍事家エルマン・サックスは、自著に断言して曰く、「道理に合わない戦争は、“阿保”の逃げ場所」だと。これは、正に、トランプ大統領とネタニヤフ首相の為にある言葉かと訳者は思うのだが、一方、今回の特集諸論に、両人の国際法違反を正面から糾弾する論が見られないのは食い足りない点として恨みが残る。
1)『イランの将来を形作る為の真の戦争 ~イスラム共和国の運命を決するのは誰か?~』
イランに精通する学者が同国将来を分析する。即ち、米・威(イスラエル)が今般、共同でイラン最高指導者カメネイを暗殺、排除した帰結は、イラン革命防衛隊(IRGC)にとり“制御機能を果たして来た重し”の消失を意味し、寧ろ今後同隊の独走化を危惧。同国安定化への道は、国内の改革派・穏健派が牽制力を備えるよう、米国が地道に彼らを支援する数十年掛かりの作業になると予言。一方、論稿中、イラン革命勃発から後にカメネイが(当初の劣勢を覆し)最高指導者へ上り詰めた歴史経緯総括の件には著者の筆が光る。著者はアフション・オストバー(米国海軍大学院教授)。
2)『第三イスラム共和国の行方 ~イラン戦争の意図せざる結末―イラン、中東、そして国際秩序の観点からの考察~』
歴史上、今般のイランを第三イスラム共和国と筆者は位置付ける。ホメニイ師の革命で発足した第一共和国は、内政固めと周辺の混乱化を目標とした。それを継いだカメネイ師の施政が第二共和国で、最高指導者の支配を機構化すると共に軍部を掌握し、且つイラン・イラク戦争からの復旧に努めた。今般のモジタバ師を指導者に据える第三共和国の課題は、革命防衛隊の掌握と国内治安維持にある。今般の米・威(イスラエル)との戦争に於いて、イランは予想外のしぶとさを発揮し、敗北を免れた点に於いては寧ろ「勝利」と呼べるかもしれない。然し、内政に於いて、最高指導者実質不在(モジタバ師は影武者として象徴機能可能としても)によって、革命防衛隊に対するバランサーの役を果たしえず、従来のような宗教と共和の切磋琢磨は消失、今後、同国保守化を予想。また、戦争により周辺諸国との不和が拡大した為、イランとして同地域への影響力拡大は今後望めない、と筆者は見立てる。著者はスザンヌ・マロニー(ブルッキングス研究所)。
3)『イラン・ショック ~エネルギー自給自足型経済転換への思わぬ落とし穴~』
今般のイラン戦争が引き起こした「供給危機」に対し、世界のあるべき対応として“対応マニュアル”を、大学実務教授達が提言する。
要諦は「外部からのショック防止策として、鎖国型の国内自給策に舵を切るのは誤りで危険」とのメッセージだ。サプライ・ショックに対しては、“節約”と“友好国と相互協力と依存を保ちつつ多様化し、国際貿易の効率を活用せよ”と説く。地政学に重きを置き、過度な自給策を取ると、市場のサインを歪め、国内価格高騰により国内消費者を守れない弊害が出る、と。何やら、頑なに国民に節約を呼び掛けない高市首相、コメ自給策で米価異常高値持続にへらへら笑いの絶えない鈴木農水大臣に聞かせたい言葉だ。ジェイソン・ボルドフ&メーガン・オサリバン共著(それぞれ、コロンビア大学国際公共政策大学院、ハーバードケネディー行政大学院、実務教授)。
4)『避けて通れないイラン問題 ~米国とイスラエルが新しい中東を構築する~』
イスラエルのシンクタンク(MIND)からの寄稿。良識ある一般人には到底、読むに堪えぬ、一方的自己弁護が展開される。アモス・ヤドリン、アフナー・ゴロフ共著。
<一般論稿>
(北朝鮮事案)
歴史事実として、北朝鮮は、75年前の金一族による独裁体制樹立以来の悲願であった「核武装化」を成し遂げた。此処に至る迄の道中は寧ろ悲惨だった。朝鮮戦争では多くの国民の血を流し、その後、国際社会から経済制裁を受ける中、大飢饉には人民が生の蛙を喰らい、それすら口にできない者達は大勢餓死した。国庫の助とすべく、隣国、露西亜や中国が民衆は出稼ぎ労役提供し、又、違法ハッキングで外貨をせっせと稼ぎ、挙句に今般はウクライナ戦争で兵士の命まで売り渡した。又、これ迄、政敵粛清は数知れない。決して褒められた施政でなく、世界は同国を“ならず者国家”と呼んだ。然し、金正恩は、兎にも角にも、“国家目標”を達成して見せ、国際的影響力を回復した実績を以って、今や国威は発揚され、国民の(少なくとも表面上)大きな支持を受けている、と訳者には見受けられる。
扨て、ここからは、デリケートな問題だが、「昇る北朝鮮に対し、下る我が国日本」の印象が否めない。今や北朝鮮は、中国と露西亜を天秤にかけ、米国としても一目置かざるを得ない存在になった。片や、日本は、中国とは相変わらず絶交状態、北朝鮮に関しては、日本近海にミサイルを打ち込まれる度に“厳重抗議”を繰り返すものの、未だ、拉致問題解決の糸口さえ掴めず、当の北朝鮮から“相手にせず”とすら云い放たれている状況だ。一体、どこでどう間違えてこうなってしまったのか。政治家も国民もよく考える必要があるだろう。もしも日本国民が臥薪嘗胆の辛抱力を欠き、リーダーが無能ならば、北朝鮮が益々強大化する一方、日本は早晩世界の孤児に落ちぶれる可能性を否定できないだろう。
扨て、当月号の一般論稿は、イランの核拡散に連なる問題として、北朝鮮事案に就き下記3篇が収録された。
5)『現状の北朝鮮を容認する策を提言する ~“冷たい平和”実現の効用~』
本稿は、北鮮が厄介な相手とは云え、既に同国が核を手にしてしまった以上は、「“核保有国”と認知した上で、hot warを回避し、“冷たい平和(冷和)”を模索する」のが米国の取るべき策と主張する。ヴィクター・チャ著(ジョージタウン大学教授、バイデン政権下の元国防省政策審議会委員)
6)『北朝鮮の勝利体験を分析する ~金正恩が手にした不可解な成功とは ~』
5年前の北朝鮮は、金正恩体制下、厳しい国際制裁下に喘ぐ中、世界から見向きもされないみじめな孤児だった。処が、その後数年の間に、大国間競争の狭間を、危険を賭し渡り歩く才覚を発揮し、兎にも角にも、その「世界に影響を振う」との観点からは“Big Player”へと急変貌を成し遂げた。然し、この状況が、今の米国にとり幾重にも厄介なのは、同盟諸国を含む各国が米国政権への不信感を募らせる中、更に、中国と露西亜の両国は今や共に、北朝鮮に利用される立場に変じて、米国の対中・対露西外交交渉に一層の制約が課せられてしまったことだ、と彼女は指摘。
著者はジョン・H. パク(ブリュッセル自由大学准教授)。 、
7)『北朝鮮を支える、危険な仲間達 ~露西亜と中国の存在が、北朝鮮の脅威を拡大させる~』
朝鮮南北問題は本来、韓国に委ねたい、と云うのが米国の本音だ。然し、今や北朝鮮は中国と露西亜の後ろ盾を獲得し、更にこの3国は共に核を保有する状況へと変容した。結果、米国は、外交上に中国と露西亜を牽制する為には、弥(いや)が上にも、北朝鮮問題が避けて通れぬ事案へと格上げされ、今後は寧ろ、同国問題に関与増大させざるを得ない、と主張。著者はオリアナ・スカイラー・マストロ(スタンフォード大学フリーマン・スポルギー国際研究所理事)。
<北朝鮮以外の一般論稿>
北鮮以外の事案では、次の3稿が興味深い。
8)『経済戦争を如何に生きるか ~分断された世界を渡る為の実地指導マニュアル~』
トランプ関税を契機に苛烈化した経済戦争下での身の処し方を提言、当月諸論稿中、特に輝きを放つ良論だ。場当たり的なトランプ関税や経済制裁策を批判。定石を外した経済制裁策により、案の定中国の返り討ちにあったトランプの醜態を非難(結局、レアアースの切り札に、しっぽを巻いて今度は米中G2を提唱)。又、米国のクリーン・エネルギーからの撤退は、中国独占を許し悪影響あるとして、化石燃料に安住する国策を否定。更に、国内ガソリン価格高騰回避を優先し、イラン・露西亜への経済制裁を緩和した政策を節操いと批判し、寧ろ、エネルギー転換で米国石油依存を下げるのが本道と主張する。一方、ガソリン価格に対する過敏性が象徴する通り、米国民は“窮乏生活”への耐久力が低い泣き所がある点との指摘は面白い。続けて、筆者は「米国民は覚悟を持って腹を据えよ」と呼び掛ける一方、「政府が戦略の健全性を正当な理由を国民に説明可能ならば、国民は窮乏にも辛抱するのだ」と主張。これは本邦に照らせば、正に他人毎でなく、我々国民、及び現高市政権にとって耳の痛い問題の筈だ。
結局、筆者が推奨する策は、中国・露西亜を仮想敵国としつつ、嘗ての冷戦時のようなブロック化を形成する中、同盟諸国と連携し経済安全保障と経済繁栄の両立が可能とする。著者はエドワード・フィッシュマン(外交問題評議評議会上席研究員)。
9)『米中競争の鍵を握る技術基盤 ~米国が中国より優位に立つ為に必要なこと~』
筆者が提言する米中競合への対処策は、安定感がある。単に”中国を叩こうとする“トランプ流と一線を画し、平和的共存下の競争を前提とする。AIや環境問題は人類共通の課題で、「核使用の判断をAIに委ねない」合意(2024年バイデン大統領と習近平が交わした)の継続、又、米国としても化石燃料一辺倒を修正し、クリーン・エネルギー産業を再振興すべきと主張。先端最重要技術は、極力対象範囲を狭く絞る一方、高いフェンスで中国に対し防御しつつ、同盟諸国とは共有しつつ、米国一国ではなく集団での対峙を提言。
又、国内産業の育成に関し、大化けしそうな高配当狙いのハイテク企業への偏重投資の風潮に警鐘を鳴らし、重要基礎産業の空洞化や一般労働者失職を防ぐよう、適切な民間資本配分を促す税制・融資を含む諸策を要望する(日本にとっても耳の痛い問題だ)。著者はジェイク・サリバン(オバマ政権下、当時最年少で副大統領安全保障補佐官勤務、又、バイデン政権下、大統領安全保障補佐官勤務した)。
10)『体制変換が必要なベネズエラ ~民主化転換への狭く厳しい道~』
トランプ大統領の石油利権目的の無責任な介入を非難する論だ。“金を生む牛”の獲得を狙い、経済改革を強行する一方、政治改革に熱がない。旧政権のロドリゲスを温存し大統領に昇格させた結果、彼女が内政に於いてフリーハンドを持ち、国民の望む民主化は遅れることを危惧する。著者はアーマスト大学教授のハビエル・コラレス(南米出身者)。
<これら以外の論稿2編>
その他、親トランプ陣営から以下2編を含むが、遺憾ながら、両論とも詳細紹介には値しないトランプ礼賛論だ。
(11)『新しい貿易秩序 ~破綻した国際経済の均衡を回復する為に~』
著者:ロバート E.ライトハイザー(第一次トランプ政権下にUSTR-米国通商代表勤務)
(12)『“集中”への大転換策 ~トランプ大統領が米国権力を再興させる~』
著者:A.ウェス・ミッチェル(第一次トランプ政権下、国務次官補勤務。シンクタンク、マラソン・イニシアチブ共同設立者)
【書評・図書紹介】
当月の巻末“新刊図書紹介欄”に、トマス・ピケティとマイケル・サンデルの対談『Equality ~What it Means and Why It Matters~』(邦訳名『平等について、いま話したいこと』早川書房)が登場した。
当該原書は、米国で昨年1月に発刊(本邦でも同時期に早々訳出)。その書が、一年以上遅れて今頃に、しかも、かなり小さな扱いで密やかに紹介された事実は興味深い。この「過激な迄の平等論」を訴える同書は、その拡散を快く思わぬ人々が多いだろう。即ち、トランプ一派に代表される金と政治権力を独占する者達だ。本件図書推薦の辞が掲載されるに至る迄、一定の猶予期間を設置する等、何かしらの忖度が働いたと考えて不思議はない。
本書内容は、正に“異端の平等論”だ。最低賃金ならぬ“最高賃金の上限設定”、“国会議員は籤引きで選出すべき”との案が訴えられる。全人類の給与格差は、最大限1:5迄に制限されることを理想とし、選挙は「“非”富裕者層に所属する人々」の代表議会勢力を強制的に拡大させる抜本的制度改革が必要、と云う訳だ。その他、累進課税、相続税、法人税強化、及び従業員による株式支配強化、等。ピケティは、先ずは各国が出来ることから着手しつつ、国家の枠組みを超え、世界の“非”富裕層が一致協力し、これら改革を推進するよう呼びかける。
これは、“パンドラの箱的な禁断の書”だが、しかし恐らくは、案外その方向性としては正しい。従来の月並みな不平等是正論に一石を投じるもので、日本にとっても政治変革のきっかけに資する書籍とし、再注目されるべきと訳者は考える。
【当月号 掲載論稿一覧】
<巻頭特集論文 イラン問題 4稿>
1)『The Real War for Iran’s Future~Who Will Determine the Fate of the Islamic Republic?~』AFSHON OSTOVAR (P8-16)
2)『The Third Islamic Republic ~A War’s Unintended Consequences―for Iran, the Middle East, and the Global Order~』 SUZANNE MALONEY (P16-23)
3)『The Iran Shock ~And the Dangerous Allure of Energy Autarky~』
JASON BORDODD & MEGHAN L. O’SULLIVAN (P30-37)
4)『The Iran Imperative ~How America and Isreal Can Shape a New Middle East~』
AMOS YADLIN & ANERE GOLOV(P24-30)
<一般論稿>
北朝鮮問題 三稿
5)『North Korea as It Is ~The Case for a Cold Peace~』
VICTOR CHA (P86-99)
6)『How North Korea Won ~The Strange Triumph of Kim Jong Un~』
JUNG H. PAK(P100-113)
7)『Kim’s Dangerous Liaisons ~Russia, China, and the Growing North Korea Threat~』
ORIANA SKYLAR MASTRO(P114-127)
<北鮮事案以外の案件3論稿>
8)『How to Fight an Economic War ~A Field of Mannual for a Ruptured Word~』
EDWARD FISHMAN (P40-56)
9)『The Tech High Ground ~What It Will Take to Gain the Advantage Over China~』
JAKE SULLIVAN (P70-85)
10)『Venezuela Needs Regime Change ~The Narrow Path to a Democratic Transition~』
JAVIER CORRALES (P143-153)
<その他、偏りのあるトランプ賛同論 2稿>
11)『The New Trade Order ~Restoring Balance to a Broken Global Economy~』
ROBERT E. LIGHTHIZER (P57-69)
12)『A Grand Strategy of Consolidation ~How Trump Can Revitalize American Power~』
A. WESS MITCHELL (P128-142)
<新刊紹介欄>
『Equality ~What it Means and Why It Matters~』 (P170)
THOMS PIKETTY, MICHAEL J.SANDEL
ポリティー社 出版 2025年発刊 128ページ
以上
興味深い論稿に就いては、訳文を順次、別途掲載予定。
*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。
文責:日向陸生
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