【フォーリン・アフェアーズガイド2026年9月・10月号概要】(原典:Foreign Affairs, September/October 2026, by Council on Foreign Relation)

 当月号には、強烈な2篇が収録された(一方は悲観論、他方は楽観論で好対比)。前者は『AIが招来する新生物兵器時代の恐怖』だ(著者:エリザベス・シャーウッド-ランドール)。

AIの発達に伴い、人工的に作りだされたウィルス等の生物兵器を用いた攻撃により、いつ何時甚大な惨害が人類に及んでも不思議のない危機的状態にあることが報告される。

先頃、元アンソロピック社の研究員が、AIが人類を全滅させる危険を公表し話題を呼んでいるが、人類滅亡の一つのシナリオの可能性を示すものでもある。

 もう一つは、『放擲(ほうてき)された世界秩序 ~“米国主導下の秩序”終焉後の身の処し方~』(著者:マーク・レオナルド)。この著者は、比喩が巧だ。頼むべき国際秩序が回復し、明るい理想世界の訪れを切望する人々を譬(たと)え、マイホームを夢見て資産を投じた挙句、バブルが弾けて巨大マンション群建造計画が頓挫、建物は建築途上で棄却され、住処(すみか)も財産も失う羽目になった、中国不動産ブーム崩壊の罹災者達にその運命を重ねる。彼の見解は、既に破壊した世界秩序は、中国に空しく聳え立つ、経営破綻した巨大廃屋群棟と同様、今後美しく完成することも、旧に復することもない。残された道は、現実に中国で目撃された通り、破産した人々が、廃屋高層棟に舞い戻り、むき出しのコンクリート床にテントを張り、幕で部屋を仕切り、コンロで火を焚き、逞しく生き抜くことだ。即ち、著者は国際秩序が崩れ去ろうとする今日、各国は、この中国罹災者の諦観と根性を見習い対処すべきと推奨する、謂わば、恐るべき開き直り論を展開する。

 更に、もう一遍、特に日本人が注目すべき論稿が、『同盟関係を維持する方法 ~悲観論を捨て、新同盟国関係を構築せよ~』(カート・M.キャアンベル、ラッシュ・ドーシ共著)だ。当月巻頭を飾る論稿乍ら、内容自体はトランプ流秩序の正当化を試みる「体制寄り」提灯(ちょうちん)論文である。但し、その中で、我が国高市政権に関し「過剰な迄にトランプ政権に追従するその政治決断は不可解である」との言及がある。日本の対米従順姿勢には違和感あり、と当の相手側から表明されている事実を日本人はしっかと受け止める必要がある。

 扨て、当月号全体を改め概観すると以下通り。

当号は『米国同盟関係は終わりを迎えるのか?』との副題を表し、国際秩序を考察する3篇の論稿を掲載。上に紹介した二篇(『放擲された世界秩序』及び『同盟関係を維持する方法』)に加え、『民主主義には創造的破壊が必要だ ~政府を再生し有効機能させる方法~』(ジェニファー・ポルカ&アンドリュー・グリーンウェイ共著)を収録。

一方、中東情勢に関し、イラン問題を論じた2篇は何れも良論だ。即ち、ジョージ・ワシントン大学マーク・リンチ教授は、米国が積年踏み誤って来た中東政策は、今般トランプのイラン戦争によって止めを刺され崩壊したと認識し、この後に新たな秩序が到来する近未来を予想。今回の秩序転変の姿を、1956年にエジプトに対し英仏が帝国・植民地主義の最後っ屁の如く仕掛けたスエズ紛争によって結局は、既成秩序体制が終焉を迎えた歴史に重ねる(『米国の中東支配終焉 ~破綻した秩序に止めを刺すイラン戦争~』)。

 もう一篇は、今般、米国による軽率なイラン戦争開戦を経て、中東が今日直面した事態は、結局30年前と全く変わる処がない、と嘆くM&Aテキサス大学ガース教授からの寄稿だ。即ち、すったもんだの戦争騒ぎの挙句、それでもイランは依然健在で代理勢力に支配力を振う一方、威国(イスラエル)は、一層横暴化しパレスチナ問題を解決する処か悪化させ(ガザ地区完全破壊とウエスト・バンク併合を企画)、反威勢力との妥協を排除し永久戦争の構えにある。即ち、その皺寄(しわよせ)が、全て周辺の弱小湾岸諸国に跳ね返り続ける、という構図が不変なのだ(『進化を拒む中東情勢 ~砲声と憎しみの絶えることなき地勢~』)。

 中国関係では、同国過剰設備問題とレアアース戦略をそれぞれ扱う2篇を掲載(各々『次なる国際経済危機は中国を震源に襲う ~同国過剰設備の行き着く先~』、『中国が見出した最大の武器 ~希少資源支配策を北京政府が手に入れる迄の歴史を辿る~』)。

更に、米国国防問題に就いては、『戦争をする理由 ~トランプが道を踏み外した地点~』(著者:コーリー・シャーキィ)は、主権国家が戦争行為に踏み切る際の決断要件を考察し、トランプ批判と米国外交の正常なる軌道復帰を主張する良論だ。更にもう一稿は、新兵器開発と予算等諸制約の問題を論じた一篇、『米国防相が防衛改革を実現で出来ない理由 ~情報技術競争に打ち勝つ為の政策提言~』(ダーグ・ベック著)が寄稿された。

 以上9編に、冒頭触れたAIの論稿を加え、合計10篇が掲載された。各論概要以下の通りです。興味深い論稿は、別途、翻訳し掲載を予定します。

【フォーリンアフェアーズ誌 2026年9月・10月号 掲載論稿概要一覧】

<AIの脅威に関する論稿1篇>

(1)『AIが招来する新生物兵器時代の恐怖 ~人工病原体が襲う世界に備えよ~』 

著者:エリザベス・シャーウッド-ランドール

肩書:ハーバード大学ケネディースクール客員教授。彼女は同大学院ベルファー・センター内に設立された、生物学推進対策組織の責任者を兼務する(合成生物学、防免施策、対感染耐性強化)。バイデン政権下に大統領府内、米国土安全保障担当補佐官勤務(2021-25年)。

(『AI and the New Age of Bioweapons ~Preparing for a World of Synthetic Pathogens~』 By Elizabeth Sherwood-Randall)

「生物兵器が人類に襲い掛かる」。AI時代が招来した、この新たな危機に対し、生物学の第一人者の筆者が警鐘を鳴らす。即ち、生物学やウィルスの“専門家”でなくとも、今や誰でもAIとロボティクス技術を利用すれば、簡単に大惨事を引き起こせる、と云う恐ろしい事態が以下に説明される。

1)人工的に遺伝子改造された殺人病原ウィルスが突如人類を襲い甚大な被害を与え得る。嘗てSF世界の話が今や現実の脅威になった。それは生成AI複合技術の発達に起因する。

2)つまり、AI機能を使い今やウィルスの遺伝子を自在に操作可能で、自然界に存在しない病原体の創造が容易(たやす)い(例えば、人に容易に感染する鳥インフルエンザ等)。従来は、高度な医療専門家の手で実験室内での研究プロセスが必須だった。処が、今や、人に代わりAIとロボットが連携する所謂“クラウド・ラボ(クラウド実験室)”と呼ばれる機能が普及した。この“実験室”は依頼人からデジタルによる「注文」を受けると、「遺伝子設計」をし、更に「実験」と「評価」迄遂行して呉れる。それら実検検証を踏まえ、更に、今般「生物ウィルス」を委託契約で製造する専門業態が合法的に存在する。従い、前出の実験検証に基づいてこのサービスを利用すれば、依頼者の注文通りにその新ウィルスの生産が可能なのだ。そして、この生物ウィルスはネット配送により、何処の都市へも農場へも直接配送可能と云う訳だ。即ち、生物化学知識のない素人が、悪意さえあれば、最近利用可能になった上記諸道具を駆使することで、生物兵器による攻撃手段を簡単に手に出来るのだ(従来、この手のウィルス実験遂行・評価は、博士号資格を持つ研究員による熟練技能を必要とした。然し、AIの学習速度は凄まじくここ2年の進歩で既にAIがその能力を凌駕し、人間に置き換えが可能になったと云う)。

3)生物攻撃は致死性ウィルスで直接人命を狙うに止まらない。鳥・豚・牛など家禽、或いは、麦、米、とうもろこし等の農作物そのものが恰好の感染標的だ。疾病は国境を越え蔓延し、人類の大量病死、或いは世界的食糧難到来のリスクが間近に存在するのだ。

4)生物兵器攻撃の脅威に対し、嘗て核攻撃による報復能力を以って牽制する策が講じられた。今日、生物兵器攻撃者は国家体に限定されず、不特定多数化した為、核抑止力は機能しない。その結果、著者曰く、生物兵器による攻撃は未然防止が困難。従い、近い将来、斯かる襲撃が発生する前提に立つことが必要だ、と。つまり、取り得る対策とは、攻撃後の被害を最小限に食い止めるダメージ・コントロールしかないのだ。

5)具体提案は、有事の早期発見・追跡及び警戒システム構築(下水道調査、データ分析インフラ拡充)、緊急事態対応への法整備に加え、遺伝子改造とAI利用の生物学に関し米国と中国のハイレベル協議によるルール設定だ。筆者は、技術開発スピードを鈍化させるのは無理筋で、米国が最先端技術を確保することで、寧ろ悪用を試みる攻撃者達を牽制可能との立場を取る。

 <国際秩序・同盟関係に関する論稿3篇>

(2)『放擲された世界秩序 ~“米国主導下の秩序”終焉後の身の処し方~』 

著者:マーク・レオナルド。欧州シンクタンク、欧州外交評議会(本拠独逸)共同設立者兼代表

(『The Abandoned Order ~Learning to Live in a Post-American World~』by Mark Lenard)

「自棄(やけ)のやん八(ぱち)」論だ。秩序崩壊した今日、各国は自力で逞しく生きよ、との勧めだ。恰も、生活が苦しくなったら、国民全員はドロボーになって生きろと云うに等しい。地球温暖化による環境破壊もインターネット・データ乱用も、これら重大諸課題は完全無視し、ひたすら我が身の保全のみを眼中に置く、お気軽で無責任な論が堂々登場するのも、世紀末の特徴なのか? 趣旨は以下。

1)秩序が完全消失する世界が来る(国際秩序が崩壊し、もう元に戻らない)。

2)その理論的根拠は、キッシンジャーが提唱した国際秩序を支える2大支柱――「国際勢力均衡」と「規範」が共に崩れたからだ。換言すれば、戦後の秩序をある意味、善意を以って支えた米国や欧州は今や、共にそれに耐える余力と資源を有せず、そうかと云って彼らに代わって責務を引き継ぐ者も現れないことに起因するのだ。

3)従い、無秩序を前提とすれば、生存の為には、各国はミクロ視点の職人的手仕事の業(わざ)を駆使し、限定域内で融通無碍に強かであるしかない。何故なら、其処は炭素排出規制も、核不拡散条約も、国連改革も、WTOによる貿易問題仲裁も存在しない世界だからだ。

4)具体的提言は、欧州と印度太平洋諸国は、米国よりもNATOとの安全保障模索を推奨。日・

韓に就いては、自力の防衛努力に励み、中国と米国からの干渉を防げ、と言及がある。

処で、国家間の地政学的競争を表現する筆者の比喩は軽妙だ。従来は互いの国家を強固に結び付けた、資源や半導体サプライチェーン、輸送航路、金融手段を、今や逆手に取って締め上げ合う様子は、恰も、結婚した夫婦にとり、関係良好な時は互いの絆だった、家や子供やペットの犬が、離婚寸前時には、相手を痛めつける最大の武器になる、との笑えない譬えがある(ハリウッド映画『ローズ家の戦争』を彷彿)。

(3)『同盟関係を維持する方法 ~悲観論を捨て、新同盟国関係を構築せよ~』  

著者:カート・M.キャアンベル & ラッシュ・ドーシ共著

肩書:前者は、コンサル企業の”亜細亜グループ”会長。バイデン政権下に国務副長官を務めた。 後者は、ジョージタウン大学准教授。バイデン政権下国家安全保障会議参画(中国・台湾問題担当副責任者)

(『How Alliances Survive  ~The Case Against Pessimism and the Path to A New Allied~』 by Kurt M. Campbell and Rush Doshi)

 本論は、タイトルとは裏腹にトランプが招いた現状国際秩序を正当化し、同盟諸国は“耐え忍べ”との主張である。

1)米国と諸同盟国との過去亀裂の歴史を引き「もっとひどかった昔に比べ、トランプの振る舞いはまだましだ」と同盟諸国を慰留(ニクソンショックよりトランプ関税の方が被害な小なりとの論法)。

2)中国台頭と露西亜脅威が安全保障上の重大課題となる中、同盟諸国は米国になびくのが最善シナリオだと強調(トランプの関税策や同盟諸国への恫喝的防衛費増額圧力を肯定)。

3)その上で、2028年大統領選は「同盟体制改革」が中心点だと述べ、“トランプ大統領任期終了後には米国との関係が改善する”との欧州世論調査を引き合いに、新大統領(民主党?)就任により全て良くなる、と云わんばかりの牽強付会ぶりだ。

斯様に、主旨展開は稚拙で結論は楽観に過ぎると云わざるを得ないが、論稿中、日本に関し捨て置けない記述がある。即ち、平たく云えば「トランプからこれ程手酷い仕打ちを受けても、飽く迄、従順な対応をとる日本は、理屈を超え“魔訶不思議(magical)”な国である」と云う趣旨で日本政府を揶揄する表現である(*1)。

 これは訳者が兼ねて指摘して来た、高市政権の“対米妾外交”ぶりと軌を一にする見解ではあるものの、米国側識者から当該誌巻頭論文で斯くもあからさまに世界発信されたのでは、全日本人が赤面を免れ得ぬであろう。但し、これが世界から見た日本外交力の評点なのだと、先ずは認識することが肝要だ。

処で、論稿はトランプ第一次政権の手柄として、同盟国に圧力を掛け“応分の負担増加”を承服させた点を賛美する。即ち、当時「NATOに対しGDP比2%への防衛費増加目標を設定させ、日本に於いては防衛費倍増化に向け路線を敷かせた」実績を自賛。

これは、2016年当時日本の防衛費はGDP比1%弱であったのを、2027年度計画で同2%に引き上げる方針とした事実を指していよう。

 此処迄は既成事実として日本の実態である。然し、今後、2027年度以降の我が国防衛方針に就いては、米側の云いなりにならず、自主性を貫き我が国国民でしっかり議論を尽くすことを、訳者は強く求めたい。何やら、此処に来て、俄かに2027年~31年の5年間の防衛費は、先の5年間に比し倍増(2023年~27年の5年間見込み額43兆円に対し、次の5年間を70~80兆円)する政府方針の報道がしきりに伝えられる。一方、それに対し大きな異論が噴出することもなく世論が静かに受け止めているのは、既に不可思議にして不気味と云わざるを得ない状況ではないか。

*訳者注1)論文中、問題箇所の文章は以下(邦訳)

=米国関税政策とトランプが中国との緊張緩和へ政策転換したことを巡り、日本は心底立腹していた折、更に加え、高市早苗首相が中国から激しい圧力を受け続ける最中、恰も見殺しにするかの如く、ワシントン政府は明確に日本に対する援護を見送った。それにも拘わらず、日本政府は、まるで「日米同関係が以前と変わりなく良好」であるかのように振る舞うと云う行動選択を取ったことは、米国に対する彼らの解釈は理屈を超え、一種、不可思議な発想であることの一例だ。=(当該論稿P21より)

(4)『民主主義には創造的破壊が必要だ ~政府を再生し有効機能させる方法~』

著者:ジェニファー・ポルカ & アンドリュー・グリーンウェイ共著

肩書:前者は米国科学地術政策局副技術責任者として政府デジタル化プロジェクトに参画(2013-14年)、後者は、英国政府のデジタル推進局GDSに勤務(2012-14年)。   

(『Democracies Need Creative Destruction  ~How to Make Government Work Again~』 by Jennifer Pahlka & Andrew Greenway)

著者達は2010年代初頭に、それぞれが米国と英国政府のデジタル化に携わった経歴を持つ。その経験を踏まえ“政府改革の為の手法論”を展開する。

1)先進諸国家の政府機構が機能不全な問題を指摘する。嘗て、発展途上国が受け取った援助を横領着服せず国民の為にどれだけ正しく使うか、その度合いを「国家能力」なる尺度で測定した。処が、今や先進諸国こそが、自国機能再生を遂行する“国家の能力”が問われる事態なのだ。

2)不機能の原因は政治のフィードバック・ループが破綻している為だ(代表例:米国で、新たな連邦法規を策定する際、着手から実現まで5年間もの長期間を要する。つまり、投票者が選んだ大統領が、その任期中にその改革を実現することは不可能なのだ)。

3)順応性を失った機構は、規制と手続きを守る丈の抜け殻と化し“緩慢な死”が不可避だ。この段に至った組織は、その打開には最早「再生、或いは破壊」しかない(経済学者アンソニー・ダウンズの言)。

4)諸国事例を引用しつつ機構再生のポイントと手法論を展開(目的志向たれ、全面改革か部分改革か、融通性、等)

5)又、イーロン・マスクを始めビッグ・テック企業による市場占有で、国家主権が損なわれる問題に警鐘を鳴らす。(ウクライナの戦争継続能力の可否が、国家ではなくマスク氏個人の掌中にある)

<中東問題(イラン) 2件>

(5)『米国の中東支配終焉 ~破綻した秩序に止めを刺すイラン戦争~』

著者: マーク・リンチ(ジョージ・ワシントン大学教授)

(『The End of the American Middle East ~Iran and the Last Gasp of a Failed Order~』)

米国による中東支配は終焉し域内秩序は混沌状態に沈んだ。修復に向け、著者が望みを繋ぐのは、トランプの“後任”大統領が現行政策を捨て、民主主義と集団防衛に根差す政策転換を図ることだ。即ち、「対イラン軍事行動停止し外交努力によって域内安全保障体制に同国を組み入れ、ホルムズ海峡を解放、そして、威国(イスラエル)に対し、ウエスト・バンク併合停止並びにレバノン・シリアへの武力干渉停止」を要求することだ。これ程に事態悪化を招いた経緯が以下の通り説明される。

1)米国が35年間維持して来た中東秩序は、今般のイラン戦争で崩壊。同東地域に出現した紛争状態は、イランと威国(イスラエル)を利する一方、これを止める手立てを持たない米国に対し、周辺諸国からの信頼が完全に崩れた。その上、米国自身が一層取り留めない紛争へ引き込まれ、更なる軍事加担を余儀なくされる懸念がある。

2)この愚かな失敗は、2023年10.7のハマス武力行動に対する報復として、イスラエルによるガザ攻撃をバイデン政権が承認支持したことに端を発し、加え、今般トランプ政権がイスラエルと共謀しイラン戦争開始したことが、“米国モラル外交”に対し「死の一撃」を加えた格好である。

3)背景には米政権の人権軽視方針がある。つまり、自国世論を抑圧する当該中東諸国の独裁政権を米国が常に支援して来た結果なのだ。

(6)『進化を拒む中東情勢 ~砲声と憎しみの絶えることなき地勢~』

著者/肩書:F.グレゴリー・ガース3世、 テキサスM&A大学、大学院教授

(『The New Old Middle East ~Wars of Sound and Fury~』by F. Gregory Gause III)

米国政策に翻弄される中東・湾岸諸国の悲哀を論じる。数十年間、各種戦争と紛争を経て、結局は何も変わらない実情を嘆く。

1)中東湾岸諸国は、トランプ政権の信義に悖ったイラン攻撃に対し、米国に強い不信感を募らせ乍ら、地政学上の安全保障は猶も米国へ依存せざるを得ない(中国、露西亜及びトルコと反目する彼らにとって、他の選択がない)。

2)米国とイランの板挟みになる中、彼らはイランから報復攻撃を受け深刻な実害を被っている。

3)一方、彼らとイスラエルとの関係は冷却化し(UAEを除き)、アブラハム・アコードも衰退。

4)結局、ガザ紛争、そして今般イラン戦争の果てに彼らが直面した事態は、イランは滅びず、寧ろ一層大胆化し周辺へ影響を振い、イラン代理勢力も尚健在。イスラエルは、パレスチナ問題放置し(ガザ占領、西バンク併合を狙う)、反威勢力と妥協する気は一切なく永久戦争の構え。アラブ諸国にとっては、ガザ問題が未解決の上に、更に自国自身が平和と経済の損失を被る事態なのだ。つまり、過去幾年かに亘る同地域での流血紛争は、結局、何ら成果なく、只「怒りと大層な空騒ぎ」(“sound and fury”)に帰した(*2)。

5)

上記を踏まえた提言

 1 米国は中東所在現行基地を保持しつつ外交重視姿勢を取れ

 2 イランとの新核合意協議再開(ウラン濃縮規定を再度復活交渉)せよ

 3 国際協議によりホルムズ海峡解放を実現せよ

 4 パレスチナ人への自治権付与に向け米国は主導せよ(さもなくば、10.7事件再来する)

*訳者注2:当論原文副題の“sound and fury”は、ノーベル賞受賞米国人作家ウィリアム・フォクナーの小説表題『The sound and the fury』(1929年発表邦訳『響きと怒り』)をもじる。同句はシェークピアの『マクベス』中の主人公独白の台詞に由来。

<中国関係  2件>
(7)『次なる国際経済危機は中国を震源に襲う ~同国過剰設備の行き着く先~』

著者: マイケル・フロマン

肩書:米外交問題評議会会長。元米国通商代表部代表(2013-2017年勤務)

(『The Next Global Economic Crisis Could Be Made in China ~How Overcapacity Ends~』by Michael B.G. Froman)

中国の過剰設備が自国経済ひいては世界経済へのショックを与えるとの警鐘。

困難だが、中国のプラザ合意的取り決めと歯止めが必要と説く。

(8)通商(レアアース武器化問題)『中国が見出した最大の武器 ~希少資源支配策を北京政府が手に入れる迄の歴史を辿る~』

著者: グロリア・ショーン &ジェシカ・チェン・ワイス共著

肩書:前者はコルビー大学準教授、後者はジョンズ・ホプキンズ大学教授。

(『How China Found Its Most Potent Weapon ~The Real History of Bejing’s Rare-Earth Dominance~』by Gloria Xiong & Jessica Chen Weiss)

中国がレアアースと云う通商上の武器を入手する迄の歴史を総括した上で、米中間の貿易制裁スパイラルを止めるべしと提言する。

<米国防関係 2件>
(9)『戦争をする理由 ~トランプが道を踏み外した地点~』 

著者:コーリー・シャーキィ(シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所上席研究員)

(『Why We Should Fight ~And Where Trump Went Wrong~』by Kori Schake)

当稿はトランプの無軌道なイラン戦争に歯止めを掛けるには、議会の牽制力発揮が必要だと呼びかける論。

1)米国が戦争に踏み切るテスト要件として、兼ねてより所謂「パウエル・ドクトリン」が存在。

2)これが謳う6つの基本原則:

 1.外交及び軍事上の達成目標が明確である 

2.環境変化に応じ絶えず展開状況を再評価する

 3.政権指導者は、情報開示に透明であり国民と議会に諮った上で、その支援を取り付ける

 4.武力行使は、外交努力を尽くした末の、最終手段であるべき

 5.明確な出口戦略を設けることと国際支援を有すること

 6.軍事行動に対する国際支援を得ること

3)この「パウエル・ドクトリン」(*3)は結局、アフガニスタンとイラク戦争では順守されず、これら米軍事作戦は結局、不首尾に帰した経緯がある。

4)その後、同指針の影響力は長らく失われたとは云え、この諸原則をあからさまに否定した、初めての大統領がトランプなのだ。

5)同原則に反した戦争は必ずしくじる。就いては、今からでも軌道修正をなせ。議会よ目覚めよ、と。

*訳者注3)1990年イラクによるクウェート侵攻に伴い、米国が主導し国際連合軍で湾岸戦争を戦う際、当時の米統合参謀本部議長コーリン・パウエルが提唱した原則が「パウエル・ドクトリン」と呼ばれるようになった。但し、彼が後に米国防長官の地位にある際、実施したアフガン・イラク戦争で必ずしも同ドクトリンは厳守されなかった。

(10)『米国防相が防衛改革を実現で出来ない理由 ~情報技術競争に打ち勝つ為の政策提言~』 

著者:ダーグ・ベック。彼は、ハイテク企業幹部職(アップル社副社長)と国防省(改革チーム責任者)両用の職歴を持つ(アフガニスタンとイラク両戦役に参戦した退役軍人でもある)。これら見識から、戦場での技術革新が著しい昨今、米国防上の先端技術対応が緩慢な点等、改善提言。

(『American’s Missing Military Revolution  ~Why Washington Still Risks Losing the Tech Race~』by Doug Beck)

1)国防省の新兵器採用や購買システムが、未だ官僚的硬直性を脱し得ない実情を批判。

2)国防省、議会、民間企業の三位一体で新技術導入に関するシステム大改革実施を提言。

3)旧来手法撤廃と重要新規研究分野への予算集中投入を求める。加え、トランプの手法には批判的(AI等新技術は同盟諸国と共有し、且つハイテク企業も米国と同盟国の間で互いの市場へ相互乗り入れすべきだと、著者は開放路線を主張する)

4)尚、自身が閉口した経験を踏まえ、ハイテク企業から国防省への人材移転に際し、給与は1/10以下に減じる上、採用承認の審査で1年半も待たされる慣習の改善要望。

(了)

*当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

文責: 日向陸生

【当月号論稿一覧 Foreign Affairs 2026年 September/October】

1)『AI and the New Age of Bioweapons ~Preparing for a World of Synthetic Pathogens~』

By Elizabeth Sherwood-Randall (P138-153)

2)『The Abandoned Order ~Learning to Live in a Post-American World~』By Mark Lenard (P26-39)

3)『How Alliances Survive  ~The Case Against Pessimism and the Path to A New Allied~』 By Kurt M. Campbell and Rush Doshi (P8-25)

4)『Democracies Need Creative Destruction  ~How to Make Government Work Again~』

By Jennifer Pahlka & Andrew Greenway (P170-181)

5)『The End of the American Middle East ~Iran and the Last Gasp of a Failed Order~』   By Marc Lynch (P54-69)

6)『The New Old Middle East ~Wars of Sound and Fury~』By F. Gregory Gause III(P70-83)

7)『The Next Global Economic Crisis Could Be Made in China ~How Overcapacity Ends~』 By Michael B.G. Froman (P84-96)

8)『How China Found Its Most Potent Weapon ~The Real History of Bejing’s Rare-Earth Dominance~』By Gloria Xiong & Jessica Chen Weiss(P125-137)

9)『Why We Should Fight ~And Where Trump Went Wrong~』By Kori Schake (P40-53)

10)『American’s Missing Military Revolution  ~Why Washington Still Risks Losing the Tech Race~』By Doug Beck (P154-169) 

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ブログ責任者:日向陸生

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