【投稿論文】『AIが招来する新生物兵器時代の恐怖 ~人工病原体が襲う世界に備えよ~』(原典:『AI and the New Age of Bioweapons ~Preparing for a World of Synthetic Pathogens~』 By Elizabeth Sherwood-Randall, フォーリン・アフェアーズ誌2026年9月・10月号、P138-153)

著者:エリザベス・シャーウッド-ランドール

肩書:ハーバード大学ケネディースクール客員教授。彼女は同大学院ベルファー・センター内に設立された、生物学推進対策組織の責任者を兼務する(合成生物学、防免施策、対感染耐性強化)。又、バイデン政権下には、大統領府内、米国土安全保障担当補佐官として従事(2021-25年)。

第一章 論稿趣旨

 科学の画期的発見が人類の飛躍的可能性を生み出すのは歴史の証する処だが、それは同時に大惨事を惹き起こす危険も孕んでいる。今日、人工知能(AI)と生物技術(バイオテックノロジー)、そして生物工学(バイオエンジニアリング)の融合は、既に我々の生活を一変させ、これら恩恵が及ぶ分野は、疾病撲滅の戦いから農作物収穫の飛躍的向上、更にはエネルギー問題への取り組みに迄拡大した。その反面、副作用として、これら融合技術は、従来思いもよらなかった程、より広範囲の人々が、いとも容易にこれを悪用出来る環境を生み出した。この脅威に対し、米国は現在全く無防備な状態なのだ。

  極(ごく)近い未来には、生物専門知識を持たない、ある小規模テロ集団の一派ですら、安全制約管理を搔い潜った、所謂“脱獄型AIモデル”にアクセスすれば、其処に蓄えられた世界一流の生物学の知識データ一式を悪用出来るようになる。具体的には、その一団は、このAIモデルを使い、従来の鳥インフルエンザ(H5N1)を進化させ人への感染力と致死性を増した新種ウィルスを設計可能だ。そして、今般、“委託契約方式”に基づき、デジタル注文に従いウィルス製造と実験をこなす、所謂、次世代型“クラウド研究室”なる「生物製造実験業態」が存在する。テロ組織が、匿名で遠隔地から発注を掛けると、この業者が依頼通りのウィルスを製造、実験した上、更には、生物製造工場に対し量産指示まで出して呉れるのだ。此処で大量に生み出された新種ウィルスは、テロ集団がネット航空配送システムを利用し、自身の身元を隠した儘に全米の主要家禽農場へばら撒かれる、と云う訳だ。

 すると、程なくして、全米の家禽、食牛、そして乳業産業が大打撃を受けるだろう。更にこのウィルスの感染が家畜から人間へと及べば、病状は激甚化し、何十万は疎か、何百万人が死ぬ。現行体制下では、米国公共諸機関も民間組織も、この感染蔓延を食い止めることはもとより、被害を最小化する力すら持たない。それは、現状に於いては双方の機関が共に、総合的戦略も、対抗するに必要な道具立ても保持せず、対応は後手に回り、諸機関間に連携なく、資源も不十分で、大感染を前にしても全く歯が立たない状態だからだ。そうこうする内、この新種ウィルスは国境を越え、食糧危機、感染蔓延、そして大量病死が世界中に巻き起こる事態に至るだろう。

 米国の政治家達は、長年、敵対諸国から生物兵器攻撃を受ける可能性に就き対策を講じて来た。即ち、ワシントン政府は自身の策定する「監視と国際的危機防止諸計画」に従い、斯かる生物兵器攻撃に対しては、核爆弾を含む重大な報復行動を示唆することによって、その抑止を成功裡に図って来た経緯がある。この戦略がこれ迄有効に機能した理由は、数ケ国の極(ごく)限定された政府丈が、危険度が極めて高い生物兵器開発能力を保持した背景に在った。然し、AIを用い多くの役者達が、彼ら独自で新種生物兵器の開発が可能になった世界に於いて、最早効力がない。つまり、今日、無法諸国家、テロ諸集団、更には一般諸個人ですら、その危険兵器の開発者為り得るのだ。

 斯くの如く、生物兵器開発は最早、巷で手軽に利用可能な技術と化し、従来手法によっては不特定多数の攻撃者達を抑止出来ない中、“生物攻撃を完全防御する手立ては存在しない”のだ。即ち、この事実に応じ、政治家達は新しい戦略考案を迫られる。つまり、「生物攻撃は発生する」との前提に立ち、「被害を封じ、如何に早く国家をその損傷から回復させるか」に主眼を置くべきだ。更に、犯罪者達を一早く特定し、責任を取らせる為には新しい諸手段を駆使することが必要だ。そして、結局は、生物攻撃に対し斯かる強靭性を備えることこそが、悪意ある役者達が生物攻撃を企てることを抑々断念させることに繋がる。これが、所謂“強靭化による牽制戦略”だ。

 上述した攻撃シナリオを熟考し研究する必要があるが、先ずは総括的戦略を打ち出すのが先決だ。

 米国政府は、洗練された生物モニタリング体制を起用することで、新種ウィルス病原体の出現に対し、一早く警報を発する能力を得る。抑々、この危機を生み出すことに一役買った、その同じAI技術の多くを動員することにより、連邦諸研究所は、ウィルスを設計したAIモデルに残されたログ・インの痕跡から、問題のウィルスの発生源を特定し、犯人達を追跡し標的化する作業を迅速化出来る。公共保健諸機関は、科学的な諜報データを効果的に集積する諸手段を駆使し、疫病の拡大を制止出来るだろう。バイオ製造部門は、予め交渉で取り決めた契約に従い、有事に際し、診療手法、治療法、及びワクチン製造の能力を加速させる。これらの措置により、危機そのものは完全には回避されぬ迄も、それを迅速且つ効果的に封じ込めることが可能だ。即ち、人間と家畜が危険な状況から保護され、感染は極小化され、農業生産が回復し、人々の信頼も復するのだ。

 処が、実情は、斯かる生物攻撃に対する強靭性が著しく欠けている。実例を挙げれば、2024年、鳥インフルエンザ(H5N1型)は家禽から乳牛や食牛、そして最終的には70名以上の人間へと感染拡大した。当時、米国土安全保障担当補佐官だった私は、大惨事へ至る潜在性を秘めたこの脅威に対し、連邦政府としての対応調整に当たった。

このウィルスは自然由来によるもので、意図的生物攻撃ではなかった。それにも拘わらず、斯かる古典的ウィルス感染事例に対してすら、我が国では、その予防、モニタリング、感染源特定、並びに事態への対応体制は、深刻な弱点を抱え力量不足であることが露呈した。即ち、感染事例と感染拡大に関するデータが入手困難だったのみならず、その内容たるや殆ど処置不可能な程に不完全だった。加えて、家禽、乳・食牛産業は本来一丸となり、十分な予防措置を総動員すべき処を、その実行は困難で且つ現実には極めて緩慢な対応しか取れないことが判明した。更には、米国市民の命を守るべく、十分な数量のワクチンを供給する手筈――即ち、mRNA式ワクチンを大至急で創造し、全米の薬品メーカー製造ラインを転用し量産体制に乗せる――を整える為には、相当な規模の新規連邦予算が新たに必要とされたのみならず、それを以ってしても、現実には、何ケ月経過しても、十分なワクチンが供給されることはなかった。

 AIが齎す生物攻撃の脅威に対し、米国は強靭性を備えた新たなシステムを構築するのは喫緊の課題だ。その際、我々は、この技術進歩が、逆説的一面を持つ点を認識することが重要だ。つまり、革命的大発見であるその技術革新が新たな脅威を生み出した。そして、これら諸脅威の度合いを途轍もなく危機水準へと導く、今般人類が手にした、この新たな道具立てこそが、同時に又、それら諸悪事に対抗する為に、我々が実装しなければならない必須のものなのだ。従って、この危機に対抗する体制整備作業に於いては、AI、生物科学、そしてバイオエンジニアリングを融合させた先端技術の強味を如何に一層引き出すことが出来るか――即ち、敵対者がこの同じ先端技術を悪用するのに先んじ――これを研ぎ澄ますことが肝要だ。

(第一章 了)

*当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

文責: 日向陸生

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