【特集論文】『耐性試験に類するトランプ政権 ~現在の混乱した世界秩序は破壊的な指導者の下に耐え得るかを試される~』(原典: Stress Test ~Can a Troubled Order Survive a Disruptive Leader?~, Foreign Affairs, 2025年January/February号, P8-15)

著者: マーガレット・マクミラン(MARGARET MACMILLAN)

肩書: オクスフォード大学教授(国際関係史)。『戦争 ~紛争拡大のメカニズム~』、『世界の平和を壊した戦争 ~1914年への道程~』の著者。(原題、それぞれ“War:How Conflict Spread Us~”, “The War That Ended Peace ~The Road to 1914~”)

(論稿主旨)

 歴史家が将来予測に臆病なのは、それが無数の可変的要素と無限の可能性に満ちているとの理由に止まらない。人はその渦中の最中(さなか)に身を置く場合、事態の重要性を把握するのは中々容易でないのだ。

1989年、ベルリンの壁崩壊は、人々が新時代の始まりを瞬時に会得した事例だ。一方、1914年6月、サラエボでオーストリア大公のフランツ・フェルディナンドが暗殺された時、やがてこれが1千6百万人もの人命を奪い大陸を席巻する、恐ろしい戦争の幕開けになると見通した欧州の識者は皆無に等しかった。将又(はたまた)、2007年にアップル社CEOのスティーブ・ジョブズがアイフォン(iPhone)を世に発表した際、当時ハイテク技術の専門家達ですら、誰もその重大性を認識する者は居なかったのだ。

 昨年11月にトランプが米国大統領選挙に勝利して以来、私はアイザック・アシモフの古典的SF小説『ファウンデーション(The Foundation)』3部作を思い出さずに居られない。第二次大戦終結直後に出版された、この小説の中で、将来の人類は、ある天才数学者の殆(ほとん)ど云われるままに従順に暮らすようになる。と云うのも、彼は統計法則を駆使し、人々の行動を統制し、予め悲惨な出来事を予防し、最も博愛に満ち安定的と思われる数百年間を耐え得る規範提供を保証する事が出来たからだ。

処(ところ)が、これら想定の一切合切は“ミュール”なる人物の登場で完全に打ち砕かれる。彼は、超能力を身に付けた突然変異体で、何百万人と云う盲目的支持者を味方に付け、「既存秩序を転覆させ、過去の“予想不可能な混沌”へと世界を逆戻りさせる」と脅しを突き付けるのだった。

 果たして、トランプは現代の“ミュール”だろうか? トランプが協定と規範の破壊や諸機構の解体を好むのは両者の共通項だ。更に、彼個人に対する巨大な支持層を基盤とし、「事の針路を変じ、従来と異なる米国を創生し新たな世界を造る能力を備える者は、唯一自分なのだ」との主張を争点に問い、権力の座に上り詰めたのも双方の一致点だ。

先の大統領選挙は平穏に済み、多くの人々は安堵したが、トランプや彼の支持者達の発言を鵜呑みにするなら、共和党が、大統領、議会、及び従順な最高裁を支配した暁には、法規範を含む米国の統治手法に重大な変化が齎(もたら)される事を意味している。トランプは大統領就任前、彼が嫌う独立政府諸機関を廃止すると脅しを掛け、その他諸機関を自分の地盤に引きずり込み、軍事力を政治の道具化し、トランプの指名人事の承認を議会が拒否しようとすれば、“休会任命”で例外的に議会を迂回し乗り切ることを目論んだ。

彼は、米国の同盟諸国を公けに批判し、彼らの敵対勢力を一層激しく非難する。更に、彼は米国にとって国際法や規範は無価値であり又、国連、WTO、或いは世界保健機関(WHO)等の国際機関は便宜を生まぬと決めつけ、米国軍事同盟の根幹たるNATOをも軽視する始末だ。

 アシモフは科学者でありながらも、「歴史の展開を変える能力を一個人が保持する事態」に就いて、重要な諸問題の一事例を小説の中で取り上げた。つまり、特に、“その人物が権力を握り既存秩序を打ち砕く場合”である。それに関連し、彼はある質問も提起した。即ち、「もし、旧秩序が消散する運命に置かれ、現実に破壊されてしまった場合、それに寄与した個人の存在とは、果たして外部圧力によって生み出された、単に仕事の代行人の位置付けに過ぎぬのだろうか?」と。答えは、完全肯定でも完全否定でもない、その中間の何処かに存するであろう。即ち、歴史の諸事例が語る通り、外部の力が全てとは云わぬが、それが特定個人に極めて大きい機会と要因を与えることは確かだ。

もしも、1789年の仏国革命による混乱がなかったならば、出自が一般庶民に過ぎぬナポレオン・ボナパルトが権力の座に上り詰めることはなかったろう。又、ソヴィエト連邦崩壊後、もし新生政治体制がより確固に確立されていたなら、ウラジーミル・プーチンが権力のハンドルを握るには至らなかったに違いない。然し現実は、プーチンが、中国の習近平主席同様に、極めて私的な体制を打ち立て、強大な同国を彼の思うように形作り、そして国際秩序に大きな諸変化を与えているのだ。

 識者達は、第二次トランプ政権が米国と世界にとり如何なるものかを測ろうと余念ないが、それよりは、寧ろ「同政権の圧力に対し、米国民主主義と国際秩序が何処迄(どこまで)耐え得るのか?」こそが重要な問題だ。嘗て、世界が大恐慌に見舞われた際、英米の民主主義体制はその耐性を証したが、一方、独逸(ドイツ)と日本の体制は崩れ、そして世界は近代最悪の軍事衝突へ陥った。今日の米国は、民主主義が深く根差し、更に、連邦政府と各州との権力分散により、如何なる政権も行動制約を受ける仕組みが、保持されては居る。

 然し、諸組織の耐性と云うのは、それらが現実に直接攻撃に晒される迄、評価を下し難いのは過去の経験に見る通りだ。国際秩序も同様のことが当て嵌まる。今日の秩序は、1930年代に比せば、確かにより堅固で強靭に見えるものの、これ迄、”不可侵“と長く見做された諸規範が近年破られる事態が生じている。斯かる中、果たして、トランプが頻りと宣伝して来た、”一大変革“という目標を達成し、新しい時代へ幕を開けるか否かは、未だ不透明だ。或いは、それを阻む諸要因――既存の諸法律と米国政府の組織構造、国内の政敵、又は海外の敵対者達等、に直面し彼の行動が制約される可能性も在る。究極的にどうなるかは、彼の周囲の権力均衡と彼自身による権力行使の度合いに多く依存するだろう。

(以上 第一章 論稿主旨部完訳。後続諸章の翻訳は別途追加掲載予定)

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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