著者:アレクサンダー・クーリー、ダニエル・ネクソン共著
(Alexander Cooley & Daniel Nexon )
肩書:前者はバーナード大学教授(政治科学)、後者はジョージタウン大学教授(行政学)兼同大学内ウォルシュ外交政策大学院教授
第一章 論稿趣旨
「ドナルド・トランプ大統領の外交政策は如何なるものか」との問いに就き、専門家達はこれ迄久しい努力を費やし、それを特定するのに難儀して来た。と云うのも、当初、自由国際主義者としての感性をあからさまに否定するトランプを見た多くの者達は、彼を現実主義者の一派と関連付け、「権力尺度により万事を決定付けて国家利益を追求する人物」と理解した。然し、彼の第一期政権下、2017年に彼が策定した国家安全保障政策の中に「大国間競争」なる概念が呼び覚まされた途端、このフレーズこそが、彼の数々の策略を合理的に説明付け、謎を解く鍵に違いないと、外交政策筋の界隈では理解された。処が、最近、多くの者達が、今度はこれと正反対に「強大諸国が共謀して世界を切り取り、諸地域を各々の影響圏に組み入れる国際環境」をトランプは明らかに好む、との主張を展開した。これら相矛盾する様々な見解を通し、唯一、一貫性を見たのは、トランプは国際政治の舞台に於いて「取引重視」の接近法――自身の言葉を借りれば「芸術的な取引術」を――大原則に据えると云う、解釈点のみであった。
然し、結局、これら評価は全て誤診で、彼の手法を誤った範疇に整理していたことが判明した。識者達の抑々(そもそも)の間違いは、2025年版国家安全保障戦略中の記述「トランプ政権第一の目標は、“米国家の核心利益増進”にあり」と云う前提を真に受けたことにある。いみじくも、米国の外交政策、国家安全保障、そして国家構想を論じる際に、拠って立つべき大前提は何か?それは「国家指導者達は、政策設計に当たり、公共利益に資することを目的とし(譬え、これら指導者達が“公共の利益”と判断したその見識が、もし仮に過誤であったとしても)、彼ら自身が富を蓄積し、又は、個人的栄華を拡大させることをその動機とすること丈は決して許されない」と云う点なのだ。
これこそが「“米国”又は“ワシントン政府”と雖(いえど)も、ある原則適用の義務から免れられない」旨を、多くの外交政策評論家達がこれ迄議論してきた所以である。即ち、「国益は党利に優先し、高官達は公共の信に耐える公僕たれ」と。この指針によってこそ米国の国家利益が護持されると、先人達は考えて来た。
然し、トランプ政権は、この前提を破壊した。その順守に代え、トランプは特にその第二次政権に於いて、自身の利得を拡大することを第一目的として、外交政策を行使し、自身の富と立場を強化し、彼の血縁者メンバー、友人達、或いは忠誠を誓う者達と云った、お気に入りの小規模集団へ私的便益を与えている。最早、現在の米国外交政策は、大統領とその側近達の個人的利益に、大きく従属する状況なのだ。偶々(たまたま)、彼らの利益と正当な公共利益とが合致する場合もあるかも知れない。然し、殆ど大半の場合に、同政権が自己都合による取引を乱発する結果、峻別されるべき個人利益と米国民の利益との境界区分の劣化を招き、本来あるべき米国の国益が捻じ曲げられているのだ。
トランプ外交取引が彼の支持者達の懐を肥やす問題に関し、現状、多くの報道記事は、「それは彼の進める国家運営の本来目的ではなく、飽く迄も副次的に生じる事象である」との遠慮勝ちな姿勢を取っている。然し、これ迄長きに亘り米国外交政策の策定に貢献して来た、国家安全保障会議、国務省、並びに防衛省を始め、これら諸組織の独立性を打ち砕き、或いは完全に無能力化する試みを、トランプ政権は組織的にあからさまに進めていると云う事実こそが、同政権の外交政策が「盗賊政治」を根本原則としていると云う、明らかな証しではないか!
この諸機構を解体する行為は、間違いなく、今後少なく共10年間は米国政策策定能力を損ない続けるだろう。現状が盗賊政治である故に、所謂“一括取引方式” と呼ばれる手口の多用が罷り通る。この取引方式が悪辣なる点は、それにより、本来は明らかにされるべき、紛争解決手段や経済的諸取引の実情のみならず、更に加え、この「壮大な大規模取引」なるものにトランプの取り巻き連中を招き入れて私利を貪る実態(この場合、プロジェクトの巨大さ故に、内情を具(つぶさ)に第三者が監視しチェクするのは不可能に近い)迄をも、意図的に小さく折り畳み世間の目から隠蔽してしまう点にある。そして、「盗賊政治」の蔓延により、国際汚職の撲滅を掲げ、これ迄超党派で為し遂げた過去数十年間に及ぶ努力の結晶が、いとも簡単に崩壊する危機に瀕しているのだ。
一部には「トランプ政権は、極右思想を賞賛するその姿勢こそが深刻な問題で、これに比べ、彼の腐敗的取引は寧ろ軽度な事案である」と見做す識者意見がある。これは最も陥り易い過ちで、実は非常に注意を要する事態だ。つまり、保守的右派は、ファシスト擁護派や破壊容認の諸派と雖(いえど)も、”国益を重視する”構想を持ち合わせている。然し、トランプ政権下の場合には、恐ろしいことに「盗賊政治」と「政治理念」とは不可分なものとして結合している。更に悪いことに、この「盗賊政治」型国家運営方式は、国内と外交双方の領域に於いて、トランプが大統領を辞した後も消滅せず、病根の如く尚もホワイトハウス内で根付く公算が高いと云う点に留意が必要だ。
第二章 巨大波の到来
政治科学者のスティーブン・ハンソンとジェフリー・コプシュタインは、「トランプ主義」とは、国際的に広がる“世襲主義の波” の現象の一部で、その波がハンガリー、イスラエル、露西亜及びトルコといった国々をも席巻している、と説く。これら全ての諸国に於いては――その成功度合いにばらつきはあるものの――近代的で、官僚制度を有し、且つ往々にして民主主義であるその国家を、それら指導者達は、彼らの個人的権威、或いはその所属政党権威の延長線上へと再位置付けしようとしている。これら“新世襲主義”とも呼べる体制は、外見上の公正な手続と専門性の高い官僚機構を維持するように見える。処が、実態は、これら指導者達は取り巻き連中を特別な政治地位に任用して文民サービスの独立性を破壊し、支援者に報い、競合者を罰するのに都合良いよう、統制諸手段を組み換えて行くのだ。
新世襲主義体制に於いて、汚職は目的達成――忠誠を買い、提携関係を構築し、そして権力を統合する為――の手段と為る。但し、トランプの気質は、単に世襲的であることに止まらない。即ち、「盗賊政治」的なのだ。盗賊政治に於いては、汚職自体が最終目的だ。つまり、大統領執務室に居座り、その座にしがみつくことの意義は、統治者自身とその取り巻き連中を肥え太らすことにあるのだ。
規制、法的執行力、政府調達、更には外交政策迄も、全てが彼らの自己利益の為の取引手段となる。即ち、諸資源を搾取し、資金流入を管理し、一族や友人、そして同盟者達へ財産を横流しするのだ。
米国政治史は、多くの汚職事例に満ち溢れている。然し、時の経過に連れ、米国は、露骨な「盗賊政治」に対しては、特に、独立性を保した諸裁判所や議会による監視を代表格とする、積極的な防止諸策を、国政水準に於いて構築したのだった。殊に、記念碑的な動きは1883年のペンドルトン法(連邦公務員法)導入により、能力主義に基づく公務員任用を制度化し、当時蔓延していた猟官の慣習に歯止めを掛けたことだ。年月の推移に従い、更に追加的諸改革――政府調達に関する規則の厳格化、財務情報の開示要求、及び監査官制度の創設――等により、汚職の機会を減少させたのだった。
米国が近代的で統一された”外交局”を国務省内に確立したのは漸く1924年になってのことで、以降、総合試験に合格した志願者達が職務に就くようになった。時を経て、この外交業務に特化された専門性は、外国語や諸技量の獲得の為の職務員たちを訓練する下部組織を拡充させて行った。上級高官が彼らの知識や経験を若手職員に伝授するに従い、米国政府は比類なき外交資産を蓄積して来たのだった。
それにも拘わらず、米国は、他の成熟した民主諸国に比し、例外的な存在である。即ち、米国大統領は、裕福な政党支援者達を大使の任に任命し、より指導力を発揮する役職の充足には、政治的思惑に基づいて候補者を任命する。それでも、第二期トランプ政権発足の数十年前から、ワシントン政府は、極めて高度に組織化された外交政策の制度建付けに立脚し、それは、一面には、米国外交戦略に国益を反映させることを保するべく尽力した賜物だった。大統領は、これらの諸利益を特定するに於いて極めて幅の広い自由度を保持したとは云え、彼が単純にそれを命じることは出来なかった。無論、複数の大統領達は彼らの権限を踏み越えた事実があるのは確かだが、然しそれでも、共和、民主両党の議員達は、斯かる帝王的大統による侵犯に対し、議会の大権を守り抜くことを使命と見做して来た。
外交政策は、様々な官僚諸機構、例えば、国務省、国防省、CIA、及び国家核安全保障機構等によって策定される。これら全ての諸機構は、本来的にプロフェッショナルの文民官と軍人を以って充足される。そして、各機構が作成する報告は、特定分野、又は特定諸国や地域に特化したキャリア高官達の技能に依存する。つまり、その道の専門家達は、国家安全保障会議が調整を図る体制下に、熟議を重ねるのだ。それは、煩雑な作業でもあるのだが、この手順は多くの便益を有し、例えば、歴代政権を通じ政策の一貫性は維持され、これにより米国は諸条約を長期に亘り信頼性を維持し履行することが可能なのだ。
更に、この制度のお陰で、党派に属さない公僕達に対して、提案された取引が公共の利益に資するか否かの懸念を提起し、それらの実行可能性、或いは合法性に就いて質問し、又は、非道徳的振る舞いへの警笛を鳴らす権限が付与されているのだ。
トランプ政権の高官達は、大統領の政策推進を妨げようとする、所謂“影の政府”の企(たくら)みを排除したいのだと、訴えている。然し、現実に同政権が欲するのは、従順な取り巻き陣丈に止まらなかった。つまり、同政権は「政府の外交政策の仕組みを完全破壊する」ことを望んでいたのだ。その目論見は、米国際開発局(USAID)の完全解体が発表されたことによって、一層明白となった。同局は米国の海外援助諸案件を数十年間に亘り管轄し運営して来た、栄えある伝統の部署であったにも関わらず、である。
この試みは更により広範に実施された。2015年単年で、国務省内の1350名以上のキャリア高官と海外勤務職員が「組織膨張に歯止めを掛ける」との名目により首を切られた。又、同政権は、殊(こと)、国家安全保障会議(NSC)に対し尋常ならざる規模縮小を行った。この結果、マルコ・ルビオ国務長官が同組織を統括することになり、同組織運営の独立性は顧みられなくなった。
昨年7月、米メディア『ポリティコ』は、「現在、国家安全保障会議(NSC)には100名以下の人員が従事しているが、これは、バイデン政権当時の350名から異常な減少で、その結果、同会議が招集し実施された諸局横断会議の回数が激減した」旨を報じている。
更に昨年12月末、国務省は米国大使を大量召喚し更迭した。彼らは全員が外交官キャリア組で、おまけに、同省はこの措置を「“慣例”に従ったものである」と堂々表明したが、それは真っ赤な嘘である。
第三章 規範を破壊する“一括取引方式”と云う爆弾
これら一連の措置は、大統領のほんの一握りの友人や支援者達の手によって外交政策が切り盛りされる余地を生む。トランプにとって実質上の最高外交特使であるスティーブ・ウィトコフの例を考えてみて欲しい。大半の歴代大統領達は、長年外交政策に携わった専門家や地位の高い政治家を、彼の正式大使に任用する(通常は、国務大臣を起用)。トランプは、ニューヨークの不動産王で、政府や外交経験を全く持たないウィトコフを選定した。彼の功績と云えば、長年トランプの個人的友人と云う丈だが、この大統領にとってはそれが資格を満たす十分条件なのだ。トランプは、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、ハマスとイスラエル、及び露西亜とウクライナの交渉に際し、ウィトコフを派遣し、或いは屡々(しばいば)大統領自らが交渉に当たった。
その他の主要大使達も、トランプとの個人的繋がりによるものだ。彼は頻繁に彼の義理の息子ジャレッド・クシュナーを外交交渉に派遣している。又、トランプは、自身の娘、ティファニーの義父であるマサド・ボウロスを、アラブ及びアフリカ問題担当上級顧問、兼大統領顧問(アラブ及び中東問題担当)、更にアフリカ地域担当上級顧問、の職に同時に選出し、コンゴ共和国とルワンダの支援を受ける反乱組織との停戦交渉斡旋役に任命した。これら特使達は、曖昧な肩書と責務とが与えられることによって、通常、特に上級高官に求められる財務開示の類――彼ら個人の投資明細、ビジネス上の利害、及び潜在的な利害衝突の有無、等の情報公開義務から免れることを可能とし、2025年にボウロスの斡旋による、ワシントン政府とキンサシャ間の戦略パートナーシップ合意――コンゴに埋蔵する希少金属への優先的採掘権を米国企業に与えることが約された――は、現実には、彼や、トランプ、或いは同政権内の内部関係者達との利益相反を生み出しているのは明らかだ。
ボウロスは、この取引に関し「私的なものでも、隠し立てするものでも決してない」と釈明した。然し、調印式に際し、トランプは、この潜在的な棚ぼたに祝意を表し、「皆、たくさん金儲けができるぞ」と臆することもなく利権確保を公言する有様だ。
斯かる諸取引は、主権国家間での履行義務を伴う合意と云うよりは、寧ろ個人間の約束事に類するものだ。殊に、この場合、諸条件は意図的に曖昧化され―― 一部の局面を公にする一方で、その他の部分は後日追って公表されるか、或いは、遂に曖昧の儘葬られる。これらは典型的な「一括取引」の手法で、多様な諸要求、投資、ビジネス取引、そして個人的な見返りの報酬、更には防衛協定等を一纏めに括り、一つのパッケージとする方式だ。
無論、外交政策は常にある意味、取引を主体とする行為だ。つまり、諸国家は便益と引き換えに妥協を図り、これ迄の米国歴代大統領達も、外交的合意に達する為に、投資約束や経済関与を模索して来た。但し、忘れてならないのは、これら全ての諸合意は、既に制度上に確立された経路を通じ、且つ同制度内に設計された法的監視制度と「国益と交渉人の私的事業との明白な分離」の原則に基づき交渉されて来た、と云う点だ。
これに対しトランプ独特の手法は、諸案件の総合ドル金額が巨額な点を以って彼は自画自賛するものの、一方、その規模は、案件詳細を点検する人的能力を遥かに超えるものなのだ。即ち、諸案件を個別開示する代わり、種類の異なる複数取引を一緒くたにする手法を取る場合には、ある企業がトランプ陣営内インサイダーに利益の一部を提供する申し出をして、後からどさくさに紛れて、幾つかの取引が紛れ込む事態が発生した処で、これを確かめるのは一層至難の業なのだ。
トランプの高官達は、この巨大取引を構成する全ての諸取引事案が、”棚からぼたもち”式に米国労働者を潤すのだ、と強弁するが、現実には、これら利益は大統領の側近達や諸企業に向け還流する。即ち、この“パッケージ方式”は、汚職を可能とするのみならず、組織的にそれを曖昧化し隠蔽する効能を持つ。
この「一括取引」の典型が、2025年5月のトランプ中東往訪後に、発表された諸合意だ。同政権は、サウジ政府が米国経済へ6千億ドルの投資を約したことを大きく宣伝したものの、ホワイトハウスが公表した報告書類からは、この金額を裏付けすることが出来ないばかりか、複数の事案はバイデン前政権下に既に開始されているものだった。
11月迄に、これら投資見込み総額は1兆ドルへと更に拡大した。処が、其処には、F-35戦闘機の売却と云った、リヤド政府が長年来渇望していた事案――米国は国益の観点からそれ迄一貫しこれを拒絶して来た――を明らかに取引材料の一部として今回利用したに違いないにも拘わらず、本取引の全貌となると依然不透明の儘なのだ。
ホワイトハウスは、同様にカタール政府とも、カタール航空向けに総額960億ドルに上るボーイング社への注文(客室通路2本式大型ボーイング機で史上最大の契約)、及びレイセオン社やゼネラル・アトミック社と云った巨大軍需企業を巻き込む、420億ドルに上る防衛取引、更に、米軍受け入れに使われるカタール空軍基地の近代化に投じる380億ドルの事業が含まれる、この総括取引を自ら激賞したのだった。
これら諸事案を一纏めにすることが、トランプと彼の一族を個人的に利する取引となるのは明らかだ。去る5月、ヘグセス国防長官は、カタール政府がボーイング社の高級仕様ジェット機をトランプに贈呈したことを暴露。この機の改修には、推定見積10億ドルもの大金が米国民の血税で賄われる見込みで、更に、トランプは同機を大統領府を去った後も保有し続けるつもりだ。
更に、トランプ一族は、同国の政府系投資ファンドから資金提供を受ける不動産会社カターリ・ディアールとの間にブランド・リース契約を結び、高級ゴルフリゾート事案にも関与する。米国政府によるUAEとの公式取引の他に、トランプの個人事業組織は、新たな不動産巨大事業への投資を通じ、同首長国への足がかりを拡大した。即ち、2025年4月、トランプの息子、エリックは、ドバイに80階立てのトランプタワー建設計画を発表したのだった。
ウィトコフが行う取引も同様に、国家と個人の利益を混同するように見える。彼こそは、UAEアラブ首長国連邦の国家安全保障顧問の職にある、シェイク・タフヌーン・ビン・ザイード・アル・ナヒヤンが会長を務める、ハイテク企業向けに、米国からの高機能半導体輸出規制の撤廃合意を誘導した人物だ。それ迄、米国高官達は、同技術を中国が習得する手助けになる懸念からこれを禁止して来た事実があったにも拘わらず、である。
時期を同じくして、やはりタフヌーンが会長職にある政府系投資会社、MGX社は、20億ドルもの価値のステーブル・コイン(暗号資産)を、ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF)社から買い入れたが、この後者の会社はトランプ肝煎りの仮想通貨企業で、その共同出資者にウィトコフ及び彼の二人の息子、トランプ、そしてトランプの3人の息子達が名を連ねる。
本件に関し、ホワイトハウスは「ウィトコフが問題の半導体取引仲介に際し、彼の公共の立場をWLF社の利益目的で利用したことは決してない」旨を表明。又、WLF社も「スティーブ・ウィトコフは、WLF社に便宜を与える為に彼の政府の立場を利用したことは決してない」との表層的声明を発表した。
然し、実際、この合意は、MGXとWLFに加え、バイナンス社の3社が絡む、3方向の取引で構成されており、このバイナンス社の保有するステーブル・コインに対し、MGX社が投資を行うからくりになっている。(バイナンス社は暗号通貨取引運営企業で、同者創設者のチャンポン・ジャオは、米国の反資金洗浄規制法違反の咎で、米国で有期刑に服した人物)
トランプ流アプローチは、紛争解決交渉すらも、利益を搾り取る取引に変じる。ウォールストリートジャーナル誌による渾身の報告が強く示唆する処に依れば、ウィトコフとクシュナー――両名、ウクライナ戦争での和平交渉推進を支援した――その裏には、実は、米国が露西亜との間に行う世紀の大口一括取引から得る商内機会、例えば、現在凍結中の露西亜中央銀行の3千億ドルに上る資金を利用して、米露共同で宇宙探査や、北極圏の資源取引及び資源開発等を推進することこそが彼らの狙いだったのだ。
この米国と欧州の安全保障を根底から永久的に変ずる可能性を秘める、かくも重大な外交交渉に於いて、譬えクシュナーやウィトコフが、苟も個人事業を意図的に混同するようなことはないと仮定するにせよ、彼らが斯かる政府間交渉を取り仕切っているという事実そのものが、実は彼らの政治仲間達に不当な利益を齎し得る環境の出現を許していることは確かなのだ。
トランプの個人的友人ロナルド・ローダーは、トランプ第一政権の際、デンマーク領土のグリーンランドを買収するようトランプに提言した張本人で、彼自身がデンマークへの秘密特使を志願したと、「ニューヨーカー」紙は伝える。更に、昨年12月に、デンマーク新聞「ポリティケン」紙は、ローダーが、グリーンランドに所在の地元高官が共同出資するミネラルウォーター会社に出資した、と報じた(同紙は、知人を通じ、ローダーに本件に就きコメントを求めたが、返答はない)。
又、今年1月、ウクライナが自国で、有数のリチウム巨大埋蔵地区の採掘権を与えたその相手は、ローダーが参加する共同企業体である。ニューヨーク・タイムズ紙はこの件に就いて「キーウ政府は、先の露西亜との平和協議に際し米国指導者の後ろ盾を求めたと同様、今般トランプや同政権に人脈関係を持つ投資家達との絆を育成強化することにより、トランプとの関係を良好化する戦略を選択した」と記事で報じた。(タイムズ紙が本件に就きコメントを求めたのに対し、ローダー氏から回答はない)。
第四章 計画的解体
政府汚職に対する嫌悪感よりも、トランプ政権に対する支援をより優先する人々は、彼らが法規範を攻撃する為に恰好の言い訳を見出すものだ。即ち、彼らは、所謂“影の政府”では汚職と、庶民を搾取する不労行政官達が蔓延り、それを根絶する為には、救世主として英雄的破壊者が必要だ、との諸寓話を創作した。更に、トランプ自身による弁舌が公衆をすっかり麻痺させてしまった。つまり、彼自身の事業経歴と政治経験を通じ「生真面目にルールを順守するのは、自ら“ぼったくられる”ことに等しい」と常に考えて来た彼は、「“自己取引と脱税”は巧妙な交渉術である」と云う価値観を再設定したのだ。
然し、トランプ陣営による「盗賊政治」手法の外交策は、国際汚職と云う移転そして拡大しつつある問題に対し、ワシントン政府がこれ迄に積み上げた、不完全とは云え、極めて重要な尽力を破壊してしまった。過去30年間、自由な資本移動を助長することで経済成長を加速させた諸政策は、片や盗賊政治家やオルガルヒ達が資金を洗浄し海外にプールすることも可能としたのだった。
そして、これらの富は、成熟し確立された民主主義下にある諸国の公共秩序や公正な選挙制度に対し、海外から邪悪な影響を及ぼす力の源となった。その事例として、信頼出来る消息筋によれば、2016年、英国EU離脱(ブリエグジット)国民投票可決の裏には露西亜マネーの流入が寄与し、その結果、英国経済はその繁栄が覚束ないものと化したことを示唆。又、2022年、米国司法省の指摘によって、露西亜オルガルヒのアンドレイ・ムラヴィオフが2018年の米国中間選挙に於いて、米国内代理組織を経由し100万ドルを違法に投じた旨が明らかにされた。
このような環境に直面して、必要となったのが、2012年施行のマグニツキー法に代表されるような道具立てで、これは大規模汚職に関与した確証のある海外高官等に対しては、資産凍結や渡航禁止を課す権限が議会に付与された。
トランプの第一期政権では、中国の“一帯一路”構想を批判する主要な道具立てとして政府は「反汚職」を掲げたのだった。即ち、トランプの反対を押し切る形で、議会は反汚職への尽力を維持し、2017年制定“米国敵対勢力への制裁対抗法”(これによりワシントン政府は、イラン、北朝鮮、及び露西亜の汚職高官を標的とし、制裁を加える権限を強化した)を、大統領拒否権に抗する絶対多数(上下両院で2/3以上)で通過させた。又、2020年制定“ウィグル民族人権法”は、人権侵害に関わった関連諸団体に制裁を課し、制裁対象となった中国人高官達の資産を凍結する権限を与えた。更に2021年施行“企業透明性法”は、匿名のダミー企業に対し、それら便宜を享受する所有者達を特定するよう義務付けたのだった。
バイデン政権は、中国や露西亜が推進する“戦略的汚職”と闘うことを国家安全保障の重点策とした(引用されたこの語句は、2020年、当誌上掲載された、G.W.ブッシュ政権下の元高官エリック・エデルマンとフィリップ・ゼリコウ、他共著者による論稿中の“造語”)。即ち、当時バイデン政権は、トランプとは全く異なる手法で、「印度-中東-欧州経済回廊」のような諸案件を支援し、調達手続の標準化と中国インフラプロジェクトが仕掛ける“債務の罠”を回避することの重要性を強調した。そして、2022年3月、露西亜によるウクライナ侵攻直後に、米国司法省は、各省庁横断組織である“盗人捕獲(クレプト・キャプチャー)”特別チームを設立し、米国内に存在する露西亜オルガルヒ達の資産捜査とその捕捉に乗り出した。そして、米国政府は、これらオルガルヒ等の海外資産も凍結するべく国際的連携行動の調整に動いたのだった。
然し、二期目に入ると、トランプは決定的にこの軌道を逆行させた。2025年2月には、米国に於いて反汚職の金字塔的法律であった“海外腐敗行為防止法(1977年制定)”を停止した。政権側釈明は「同法律の問題含みの執行により、米国経済競争力が損われた」と云うものだが、これにより、海外汚職に携わる米国諸企業は連邦政府から起訴される懸念から一斉に解放された。更に、続いて3月、トランプ政権下に財務省は“企業透明化法(2024年施行)”の適用を米国諸業界に対して保留し骨抜きにしてしまった。
加えて、ホワイトハウスは、資金洗浄を通じ巨額の利益を得ている“暗号資産”産業に対する統制を骨抜きにした。即ち、2025年10月、米国証券取引委員会(SEC)が、暗号資産を営む諸事業体に対し、当時捜査中だった多くの諸事案を取り下げ又は終了した。
更に、4月になると、同政権は何と、司法省内の「国家暗号資産強制執行課」を解体し、「市場統合及び主要詐欺対応課」に対し暗号資産分野の調査停止を命じたのだ。
トランプは彼の恩赦権限を利用し、米国の反汚職諸規範を、一層、恥も外聞もなくぶち壊しに掛かっている。驚くべきことには、特赦で出獄した人物は、麻薬密輸等、“米国公共利益への致命的脅威に相当”すると、同政権自身が大宣伝して来た諸犯罪に直接関与した者達が含まれる。即ち、米国内闇サイト通販“シルクロード”の運営者として違法薬物販売の中心役割を担った、ロス・ウルブリヒト、更に、米国向け大規模麻薬密輸で有罪になった、元ホンジュラス大統領のフアン・オルランド、この両名共が恩赦の対象となった(元来の刑期はそれぞれ終身刑と懲役45年)。
昨年10月には、トランプは更に、前出のバイナンス社の創業者である、チャンポン・ジャオを特赦した。2023年、この人物が自身の有罪を認めた際には「バイナンス社は自社の基盤を利用しテロリスト、サイバー犯罪、そして児童虐待への資金提供を行った」との当時財務長官ジャネット・イエレンの正式報告書が司法省から公表されている事実があるにも拘わらず、である。
終章 盗賊達の同胞団体
官僚機構を専門家達により充当する理由として、最も重要なものの一つ――且つそして、平和交渉妥結に際し知識豊富な人材を選任する理由――とは、彼らならではの能力発揮を期待するからだ。それは、実施可能な諸示唆の助言と共に、正確な言語能力を確保した上で、交渉を成功裡に実行に移す為に不可欠な、ある種の基礎を政府間に築く能力である。この職能を無視して結ぶ、拙速な上に曖昧な合意は大概失敗する。現に、2025年6月のコンゴ共和国の停戦合意は、トランプを自己満足させる丈に終わり、M23反乱軍による進軍を止められず、同軍はコンゴ人の主要諸都市を占領し続けたのだった。又、10月には、トランプはカンボジアとタイが調印した“平和協定”を自らの手柄とすることを熱望した。然し、その合意は、共同宣言の域を出ず、肝心の国境線画定の問題を保留するばかりか、監視制度の確定にも至らなかった。そして、当然の如く、数週間後には、国境で衝突が再発した。
トランプの「一括取引方式」は、実は中国が世界各国向けに展開推進した手法に類似する。トランプは第一期政権中には、この中国のやり口をあれ丈強く批判していたにも拘わらず、である。その方式は、政府による諸投資が中国諸企業を利するよう、私的取引と融合させるものだ。そして、屡々、これら”一括取引”は、実は殆ど表に出ることのない、中国のエリート官僚達や現地相手先の政治的顧客との間に交わされる、副次的な取引によって補完される。この代表例が、マレーシア向けインフラ整備プロジェクトで、当件では汚職的体質に染まり且つ破綻に瀕していた同国の政府系投資ファンドへの資金注入を目的とし、北京政府が同計画の費用水増しを了承したのだった。
斯様に中国は国際汚職への明白な寄与を働いているが、とは云え、それでも、同国の場合、規範に基づく国際秩序に対し、まだ完全に背を向けてはいない。即ち、北京政府は尚も、一方では旧来の多国間諸機構と、他方、同時に自国内に急発展している新しい諸組織のエコシステム、この双方を共に重視し密接に関与を継続している。更に中国では、上級技術官僚による政府運営と専門家による監督に尚も一定の重きを置き、相当な諸資源を教育の高度化と研究開発に注ぎ込んでいる。実は、この姿勢によってこそ、中国は世界のクリーン・エネルギー転換の主導国に育った背景があるのだ。
これと対照的に、トランプ政権の場合、公海上での超法規的殺人、米国条約義務を無視した関税体制の実施に見られるよう、あらゆる意味で秩序を積極的に葬り去ろうとしている。
同政権は、本来持つ多くの強味――強固な結束で結ばれた同盟諸国とのネットワーク、世界に尊敬され、その有効性を果たして来た海外援助諸計画、そして善良なる統治機能を備えた諸機構、等――これこそが、嘗て、中国との競争に於いて、同政権の勝利を手助けするものと期待したものであったにも拘わらず、寧ろそれを破壊することに最大の努力を払っているのだ。
トランプや取り巻き連中が拠所とする「盗賊政治」が、彼らの生来気質丈の問題に止まるのならば、2029年初に彼らが舞台から去る迄の辛抱と思えば、我々の気持ちは安らぐかも知れない。然し、現実には彼らが行った“米国外交政策の機構破壊”策により、今後少なく共10年間に亘り、米国の政策決定の健全性が損なわれるだろう。
又、盗賊政治と極右派との融合は、汚職を一層持続化させる。この両者の結託は、米国に於いては、“トランプと、挑発を目的とする右派に属する回し者達との、単なる同盟関係”の域を最早超越し、次なる段階へ至った。つまり、将来、トランプ路線を継承すると見られる最も有力な者達――JDバンス副大統領やスティーブ・ミラー国家安全保障問題担当補佐官、等――が抱く「国益に資する構想」は、エソナショナリスト(民族集団に基づいた国家主義)の信奉に他ならぬもので、換言すれば“伝統的”な人種、階級、そして男女格差に基づく序列の復刻を前提としている。又、彼らは、オルガルヒ型によるの富の集中強化と、立場が劣ると云われている弱い国々からは自ら労せず搾取するやり口とを約束しているのだ。
盗賊政治外交と極右勢力が協力関係を結ぶのは不思議なことではない。大半の人々は汚職を嫌う。そこで盗賊政治家達としては、公共からの搾取行為を正当化する為に、何かしらのスケープゴートが必要だ。その際、この役目を充てがわれるのが、民族、人種、及び性的少数者で、彼らに批判の矛先を向けて自らの非を都合よく覆う訳だ。
一方、正真の保守信奉者達は、彼らの真の敵対者達――自由主義者、穏健派、及び多元主義的民主政治との闘争を展開する際に、盗賊政治家達が強力な同盟者となることと引き換えに、同政治体制下に彼らは「突撃隊」として仕えることを、寧ろ喜んで受け入れる。即ち、これら勢力は、根本的に夢想家的な極右主義者達で、諸機構や政治統治の諸事取り決めを破壊することを何ら苦としない人々なのだ。
これらが全て相俟(あいま)う結果、海外の横領政治家達にとって、米国を喰いものにすることがより容易となり、更に、この現象はトランプが大統領執務室を去った後も止みそうにはない。更に恐ろしいことに、米国外交が汚職の道具立てへと変容する事態は、既に自己増殖する悪の循環を生んでいる。と云うのは、ワシントン政府は、海外汚職を減じる処か、これを奨励する有様だ。斯くして、海外での汚職増殖が米国内に還流して来るからだ。
これらを踏まえれば、EU諸国が何をすべきか明白だ。第二次大戦後の米国同盟体制下の主要諸国と共に、「トランプ体制が自国の政治制度に対し、現在差し迫る甚大な危機」である点を今こそ認識し、対処することだ。そして、これら諸国一同が一致し、先ずは自国に於いて国際汚職の助長を許す、規制諸制度の抜け穴を修繕すべく極力迅速な行動を起こす必要がある。即ち、これら諸国は、苟も自国の投資不足があったとしても、これを露西亜系政商(オルガルヒ)や、横領政治家達、或いは投資収入を着服する政体からの海外資金を以って、充当するが如き行為は即刻停止しなければならない。
そして、規範を貴ぶ民主主義諸国である限りは、米国による報復の脅しに直面しても、この一線丈は決して譲ってはならない。何故なら、唯でさえ、トランプ政権は、欧州諸国の現在の民主主義諸政権を嫌い、他の体制、所謂ネオ・パトロモニアル(新世襲政治:互酬と私的人脈が支配する政治)を好む姿勢を鮮明化する中、現にバンス副大統領等の大物達は、“盗賊政治”で得た資金援助の恩恵を享受する欧州極右諸政党を後押し、動き回っている状況だからだ。
一方、肝心の米国議会に於いて、目下これら悪しき慣習に止めを刺すべく権力行使をする気配はない。これに鑑みれば、今後も米国の公共利益と安全保障が損なわれる事態は継続し、且つ一層加速するとの覚悟が必要だ。そんな中、外交を注視する識者達にも、ひとつ出来ることはある。即ち、トランプ外交を評し、やれ「現実主義」だ、「大国間競争」だ、或いは、単なる「取引至上主義」だのと呼び、事の真実を曖昧化し糊塗するのは直ちに止めよ。
その実態は“盗賊支配政治”でなくて、一体何だと云うのだ。このトランプ式外交政策は、“憲法に基づく共和国”なるものを再度米国に構築する望みに対し致命的脅威となるばかりでなく、海外諸国の民主主義の存続をも脅かすだろう。故に、本来あるべき“日の下に明白な正道と暗黙の規範”の両道から著しく外れた、このトランプ外交を、一々「大戦略」だと持ち上げ、褒めそやし正常な政策であるが如く云い繕う所作は、危険を一層深刻化させるのみであると弁えるべきなのだ。
(了)
*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。
文責:日向陸生
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