(原典:『How to survive the AI shock ~A Policy Playbook to Avert Political Crisis~』By James A. Davidson & Matthew j. Slaughter , Foreign Affairs, 2026年July/August号、P164-177)
著者:ジェイムス・デイビッドソン & マッシュ―・J.スローター共著。前者はハイテク投資企業シルバー・レイクの創始者、後者はダートーマス大学タック経営大学院教授。
第一章 論稿趣旨
AI時代の幕開けは、世界経済と米国とに明るい未来を約束する。ここ数十年間、米国も多くの諸国同様、労働生産性の低調な成長率に苦しんだ。処で、“生産性”とは、労働者一人当たりが生み出す、“物とサービス”の数量である。これが、総じて経済の成功度合いを測る、唯一にして最重要な尺度なのだ。
生産性成長率が低ければ国民の平均所得も伸び悩む。近年、世界で次々と生じた政治的混乱の多くは、これによって誘発されたものだ。又、米国に於いては、「生産性向上が低調だった」ことが、政治の二極化と分断を招き、更に、多くの人々が“アメリカンドリームの緩慢なる死”を実感する事態を加速させる原因となった。
米国にとって、生産性ルネッサンスを呼び起こすことが火急の課題だ。そして、それにはAIが打って付けの促進剤となる。2024年の米国産業生産性は3%(農業を除く)と、ここ数十年間で最も高い成長率を示した(景気後退期とコロナ禍の次期を除く)。マッキンゼー調査(2025年発公表)によれば、“AIエージェント”と“AI搭載ロボット”が2030年迄に米国に齎(もたら)す経済価値は年間2兆9千億から6兆4千ドルに上り、この額を2025年の米国名目国内総生産(GDP)に対比すると、その9から20%に相当する。更に、これを全世界に換算すれば28兆7千億ドルの成長が期待出来るのだ。
セントルイス連邦準備銀行は、2025年の米国GDP成長の内、AI関連投資が全体の39%を占めたと報告、2026年は同比率が更に上昇すると予想。又、フィナンシャルタイムズ紙が報じる処では、米国のAI とクラウド・コンピューティング分野に於ける、所謂4大“ハイパー・スケーラー”企業――アルファベット、アマゾン、メタ、及びマイクロソフト――が、2026年に計画するAI関連への資本投下額は、4社合計で7千250億ドルに上り、これは、彼らが前年に投じた合計額凡そ4千100億ドルから77%の大幅増である。
AIの効能は、生産性の向上丈に止まらない。即ち、技術革新によって全く新しい財とサービスが見出される一方、既存商品に関してもより効率的生産手法が提供される。
多くの企業は日夜、AIを駆使し業務効率化の種を発見し、日常作業を自動化し、その果実を手にする。この一例は、“アルファ・ホールド”と呼ばれる、“ディープマインド社(2024年ノーベル化学賞を受賞した科学者達が在籍するAI企業)が開発したプログラムだ。それは、たんぱく質構造の発見と分析に要する工程を劇的に短縮し、画期的な新薬やその他の医療上の進歩に大きく貢献した。
斯様に経済的大きな利点を持つ半面、一方では又、AIが重大な政治的危機を生み出しつつある。即ち、“雇用破壊”が極めて急速に且つ広範分野に及ぶ点に於いては、現行政府が有する妥当相応な対処能力を遥かに超えるのだ。
尤もこの難題自体は、何も新しい話ではない。大概の場合、技術革新は常に、特定商品とサービスに於ける労働需要を減じて来たのは歴史に見る通りだ。但し、新発明は、必ずしも既存雇用を大規模に失わせて終わる訳ではなく、寧ろ、屡々(しばしば)それにより、旧態依然とした従来業務が消失する一方、その同じ職種内に於いて新しい業務と能力創出を実現させて来た。
1980年代初頭を振り返れば、当時、凡そ1,650万人の米国人が、オフィスで事務や管理補助業務に従事した。その後、情報技術が目覚ましい発展を遂げ、口述筆記やコピー取り等の秘書業務がすっかり自動化されたが、それにも拘わらず、今日、猶も、同規模の米国人達がオフィスに就労する。それは、彼らが以前とは異なる仕事をこなしているからだ。
一方、技術革新が、特定職務の需要を恒久的に減じる場合もある。つまり、馬車職人は自動車発明と共に姿を消し、タイプライターの使い手はPC黎明期に失職し、工場組み立てラインの労働者達は、ロボットやその他大型資本投下による自動化でレイオフされた。これら破壊は、生産性の成長には避けて通れぬ「本質的な性(さが)」と云える。つまり、時として、破壊は、既存雇用、企業群、更には、実にその産業全体にとって必要な条件であり、それによってこそ、新たな雇用が創出され、所得を向上させ、そして富の蓄積を可能とするのだ。
但し「創造的破壊」は、他方では屡々、特定労働者とコミュニティーを害する結果、政治的な軋轢を生む。この運動作用が真実である点は、少なくとも英国の産業革命以降証せられて来た。即ち、当時、英国の熟練機織(はたお)り職人達が、その発明と新しい機械導入に抗議し、工場を襲撃、動力織機と動力編み機を打ち壊した、所謂ラダイト運動が発生した。それから、凡そ2世紀を隔て、今度は、中国製の安価な輸出品が米国に氾濫し、多くの米国製品の需要が減じた結果、数千もの米国製造企業を損ない、そして多くのコミュニティーが空洞化した。
AIは多くの産業で労働需要を減じる点に於いて、「21世紀初頭に生じた“中国ショック”に類似した“AIショック”を齎(もたら)す」との見通しを裏付ける証拠が、今日蓄積しつつある状況だ。中国ショックは、特定産業に従事した、比較的高齢就労者にその影響が限定された。然し、今回来るべきAIショックは、被害範囲がより大きく且つ一層破壊的である公算が高い。と云うのも、この影響が及ぶのは、高齢層よりも若手層、そして低学歴よりも高学歴就労者が圧倒的多数である上に、更に、製造業主体と云う訳でなく、全産業界へ波が押し寄せる。更に、この革新は恐るべき速度で進捗する為、AIショックが与える反響も又、嘗ての中国ショックより遥かに急激と予想されるのだ。
AIショック伝播は、その影響範囲と速度に於いて、これら諸弊害に対し講ずべき緩和諸対策を見出す政府の能力を、上回って到来するかも知れない。もしそうなれば、その反動は甚大だ。例えば、AIの恩恵を抑圧し、或いは逆に削ぐような、新たな法律及び諸規制を制定するが如き民衆の圧力に対し、政治家達が屈してしまう国があったとしよう。すると、これらの国々こそは、「労働市場に対し十分な支援策を導入し、失職した労働者を救済することに失敗」した典型事例に相当し、その結果、AIによる生産性成長の機会を逸し負け組に堕す。この場合、これら諸国は、これ迄に経験したことのない、深い政治的混迷に直面することになるだろう。その上、彼らは、片やAIショックを和らげ、その果実を最大限取り込むことに成功した国々に対しては、彼らの人後に落ち、その背中を追い続けても永久に追いつくことがない。
処で、複数企業が、影響を被った労働者達の救済手段に着手する動きがあるのは歓迎すべきことだ。即ち、JPモルガン・チェース銀行のジェイミー・ダイモン会長兼CEO、及び、ベライゾン・コミュニケーション社のダン・シュルマンCEOは、それぞれ、AIに職を奪われた、或いはその恐れのある従業員達を支援する諸プログラムを発表した。
但し、民間部門内での解決諸策丈では、経済に遍く及ぶAIの諸弊害を全て網羅するのは不可能だ。AIショックに有効に対処するには、意義ある公的投資を、然も、直ちに実行することが必要だ。米国は、実に、斯かる対策は極めて不得手な特徴がある。労働市場に対する諸政策は時代遅れで、視野狭窄にして且つ資金も不十分だ。従い、離職した労働者達を支援し、そして再雇用させる為には、新規の税収源確保が必須なのだ。さもなければ、米国は決して、この大規模な衝撃を乗り切ることが出来ない。
嘗て“中国ショック”への対応を誤った、その二の舞を我々は踏むべきではない。その為に、二つの策をセットにした新政策が有効だ。即ち、税金を還付して職業訓練で新しい技量を身に着けさせると同時に、失業保険を充実させ再雇用促進を図る策だ。
これら新規の財政支出に必要な財源を何処に求めるべきか? 此処に我々は、「自社株オプション等の支給を対象とした、新規課税」を提言する。何故なら、AIの生み出す生産性大躍進が齎(もたら)す、巨額の棚ぼた的収益は、この経済的恩恵に最も浴する企業団体の経営幹部達が手にすることになる一方、抑々それは、技術革新が与える破壊的影響、並びに、最も手痛い打撃を受けた労働者達の犠牲を伴った上で成り立つ事実があるからだ。就いては、この利得が、より公正に分配されるべきものと我々は考える。
このAIブームは、米国経済を、如何なる経済学者を以ってしても完全な予測が及ばぬ展開へと変革していくこと丈は確かだ。斯様に不透明な時代に突入するに際し、上述した、諸政策こそが、AIによる恩恵を、新興革新諸企業、それら従業員達、そして全米中の各地域社会へ、最も広範に分かち合うことを可能とする最善策なのだ。
(第一章 了)
*当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。
文責:日向陸生
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