著者:マイケル・ベックリー (Michael Beckley)
肩書:タフツ大学准教授、兼シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所上席研究員
1898年、英国が、嘗て最強だった清帝国を切り分ける列強諸国に加った際、英国首相ソールズベリー侯はロンドンの聴衆にこう警告を発した。「今や、世界は生きる国と死に行く国とに二分されるのだ」と。生きる国とは、産業時代に台頭を遂げた大国――つまり、増加する人口、新機軸の技術、そして過去に例を見ない射程と破壊力を備えた軍隊を持つ国々だ。一方、死に行く国は、停滞する諸帝国を指し、汚職が蔓延(はびこ)り弱体化し、時代遅れの手法にしがみつき、そして廃墟へ向け没落して行く者達だ。ソールズベリーが恐れたのは、ある台頭国が衰退国と衝突し、世界が悲劇的闘争に放り込まれることだった。
今や、嘗てのような権力交代が生じる時代は終わりつつある。ここ数世紀内で初めて、国際均衡を転覆させる程には急速に台頭する国が最早出現しない事態になったのだ。優位な若い年齢人口構成、産業上の画期的発明、そして領土の占領等、嘗て諸大国を突き動かした諸要素は、既に役目を終え衰えつつある。最後の台頭国、中国も今やピークを過ぎ、経済は減速し、人口減少に直面する。日本、露西亜、そして欧州は10年以上も前に失速した。印度は若い国だが、人的資源とそれを力に変える国家施策を欠く。米国は、困難な内政諸問題――即ち、過大債務、成長不振、政治機能不全――に直面する中、他の競合諸国がより深刻な衰退に沈む事態に比較すれば、「まだ多少優(まさ)る」丈(だけ)の話しなのだ。
嘗て急躍進し現代地政学を形作った新興諸国も次第に動脈硬化に陥るのは免れ得ない。今の世界を譬えて云うなら、現職者による会員限定制倶楽部メンバーの老齢化が進行し、その周囲を中進国、発展途上国、そして破綻国家が取り囲んでいる、と云う状況だ。
謂わば、この「歴史の逆回転」は、重大な結果を齎す。これ迄、領土、資源、そして覇権を競い争う、台頭国の野望は、余りにも屡々、戦争と云う帰結を招いて来た。今後、世界は長い目で見れば、勃興国家が滅亡へ向かうこの循環をなしに済ませるかも知れない。然し、短期的には、景気停滞と年齢別人口構成変化の衝撃によって、甚大な危険が新たに生み出されるだろう。即ち、脆弱な国家は債務重圧と高失業により膨張した若者の不満(所謂ユース・バルジ:youth bulges)で屋台骨が座屈する。生存に必死な国家は衰退を喰いとめようと、軍事化と領土回復主義に転じる。経済的不安定から人々は過激主義を煽り、民主主義は腐食する。一方、米国は悪党のような相互主義へと標榜するだろう。
但し、新興国が勃興する時代は終わりを告げるが、その直後に、世界は暴力が少ない世になるかも知れない。
(論稿第一章 翻訳了)
文責:日向陸生
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