【投稿論文】『盗賊統治型政治(クレプトクラシー)の到来 ~地政学を繰る権力に付随する富の私物化~』(原典:『The Age of Kleptocracy  ~Geopolitical Power, Private Gain~』 Foreign Affairs, 2026年 March/April号、P24-37)

著者:アレクサンダー・クーリー、ダニエル・ネクソン共著

(Alexander Cooley & Daniel Nexon )

肩書:前者はバーナード大学教授(政治科学)、後者はジョージタウン大学教授(行政学)兼同大学内ウォルシュ外交政策大学院教授

第一章 論稿趣旨

 「ドナルド・トランプ大統領の外交政策は如何なるものか」との問いに就き、専門家達はこれ迄久しい努力を費やし、それを特定するのに難儀して来た。と云うのも、当初、自由国際主義者としての感性をあからさまに否定するトランプを見た多くの者達は、彼を現実主義者の一派と関連付け、「権力尺度により万事を決定付けて国家利益を追求する人物」と理解した。然し、彼の第一期政権下、2017年に彼が策定した国家安全保障政策の中に「大国間競争」なる概念が呼び覚まされた途端、このフレーズこそが、彼の数々の策略を合理的に説明付け、謎を解く鍵に違いないと、外交政策筋の界隈では理解された。処が、最近、多くの者達が、今度はこれと正反対に「強大諸国が共謀して世界を切り取り、諸地域を各々の影響圏に組み入れる国際環境」をトランプは明らかに好む、との主張を展開した。これら相矛盾する様々な見解を通し、唯一、一貫性を見たのは、トランプは国際政治の舞台に於いて「取引重視」の接近法――自身の言葉を借りれば「芸術的な取引術」を――大原則に据えると云う、解釈点のみであった。

 然し、結局、これら評価は全て誤診で、彼の手法を誤った範疇に整理していたことが判明した。識者達の抑々(そもそも)の間違いは、2025年版国家安全保障戦略中の記述「トランプ政権第一の目標は、“米国家の核心利益増進”にあり」と云う前提を真に受けたことにある。いみじくも、米国の外交政策、国家安全保障、そして国家構想を論じる際に、拠って立つべき大前提は何か?それは「国家指導者達は、政策設計に当たり、公共利益に資することを目的とし(譬え、これら指導者達が“公共の利益”と判断したその見識が、もし仮に過誤であったとしても)、彼ら自身が富を蓄積し、又は、個人的栄華を拡大させることをその動機とすること丈は決して許されない」と云う点なのだ。

これこそが「“米国”又は“ワシントン政府”と雖(いえど)も、ある原則適用の義務から免れられない」旨を、多くの外交政策評論家達がこれ迄議論してきた所以である。即ち、「国益は党利に優先し、高官達は公共の信に耐える公僕たれ」と。この指針によってこそ米国の国家利益が護持されると、先人達は考えて来た。

 然し、トランプ政権は、この前提を破壊した。その順守に代え、トランプは特にその第二次政権に於いて、自身の利得を拡大することを第一目的として、外交政策を行使し、自身の富と立場を強化し、彼の血縁者メンバー、友人達、或いは忠誠を誓う者達と云った、お気に入りの小規模集団へ私的便益を与えている。最早、現在の米国外交政策は、大統領とその側近達の個人的利益に、大きく従属する状況なのだ。偶々(たまたま)、彼らの利益と正当な公共利益とが合致する場合もあるかも知れない。然し、殆ど大半の場合に、同政権が自己都合による取引を乱発する結果、峻別されるべき個人利益と米国民の利益との境界区分の劣化を招き、本来あるべき米国の国益が捻じ曲げられているのだ。

トランプ外交取引が彼の支持者達の懐を肥やす問題に関し、現状、多くの報道記事は、「それは彼の進める国家運営の本来目的ではなく、飽く迄も副次的に生じる事象である」との遠慮勝ちな姿勢を取っている。然し、これ迄長きに亘り米国外交政策の策定に貢献して来た、国家安全保障会議、国務省、並びに防衛省を始め、これら諸組織の独立性を打ち砕き、或いは完全に無能力化する試みを、トランプ政権は組織的にあからさまに進めていると云う事実こそが、同政権の外交政策が「盗賊政治」を根本原則としていると云う、明らかな証しではないか!

 この諸機構を解体する行為は、間違いなく、今後少なく共10年間は米国政策策定能力を損ない続けるだろう。現状が盗賊政治である故に、所謂“一括取引方式” と呼ばれる手口の多用が罷り通る。この取引方式が悪辣なる点は、それにより、本来は明らかにされるべき、紛争解決手段や経済的諸取引の実情のみならず、更に加え、この「壮大な大規模取引」なるものにトランプの取り巻き連中を招き入れて私利を貪る実態(この場合、プロジェクトの巨大さ故に、内情を具(つぶさ)に第三者が監視しチェクするのは不可能に近い)迄をも、意図的に小さく折り畳み世間の目から隠蔽してしまう点にある。そして、「盗賊政治」の蔓延により、国際汚職の撲滅を掲げ、これ迄超党派で為し遂げた過去数十年間に及ぶ努力の結晶が、いとも簡単に崩壊する危機に瀕しているのだ。

 一部には「トランプ政権は、極右思想を賞賛するその姿勢こそが深刻な問題で、これに比べ、彼の腐敗的取引は寧ろ軽度な事案である」と見做す識者意見がある。これは最も陥り易い過ちで、実は非常に注意を要する事態だ。つまり、保守的右派は、ファシスト擁護派や破壊容認の諸派と雖(いえど)も、”国益を重視する”構想を持ち合わせている。然し、トランプ政権下の場合には、恐ろしいことに「盗賊政治」と「政治理念」とは不可分なものとして結合している。更に悪いことに、この「盗賊政治」型国家運営方式は、国内と外交双方の領域に於いて、トランプが大統領を辞した後も消滅せず、病根の如く尚もホワイトハウス内で根付く公算が高いと云う点に留意が必要だ。

終章  盗賊達の同胞団体

 官僚機構を専門家達により充当する理由として、最も重要なものの一つ――且つそして、平和交渉妥結に際し知識豊富な人材を選任する理由――とは、彼らならではの能力発揮を期待するからだ。それは、実施可能な諸示唆の助言と共に、正確な言語能力を確保した上で、交渉を成功裡に実行に移す為に不可欠な、ある種の基礎を政府間に築く能力である。この職能を無視して結ぶ、拙速な上に曖昧な合意は大概失敗する。現に、2025年6月のコンゴ共和国の停戦合意は、トランプを自己満足させる丈に終わり、M23反乱軍による進軍を止められず、同軍はコンゴ人の主要諸都市を占領し続けたのだった。又、10月には、トランプはカンボジアとタイが調印した“平和協定”を自らの手柄とすることを熱望した。然し、その合意は、共同宣言の域を出ず、肝心の国境線画定の問題を保留するばかりか、監視制度の確定にも至らなかった。そして、当然の如く、数週間後には、国境で衝突が再発した。

 トランプの「一括取引方式」は、実は中国が世界各国向けに展開推進した手法に類似する。トランプは第一期政権中には、この中国のやり口をあれ丈強く批判していたにも拘わらず、である。その方式は、政府による諸投資が中国諸企業を利するよう、私的取引と融合させるものだ。そして、屡々、これら”一括取引”は、実は殆ど表に出ることのない、中国のエリート官僚達や現地相手先の政治的顧客との間に交わされる、副次的な取引によって補完される。この代表例が、マレーシア向けインフラ整備プロジェクトで、当件では汚職的体質に染まり且つ破綻に瀕していた同国の政府系投資ファンドへの資金注入を目的とし、北京政府が同計画の費用水増しを了承したのだった。

 斯様に中国は国際汚職への明白な寄与を働いているが、とは云え、それでも、同国の場合、規範に基づく国際秩序に対し、まだ完全に背を向けてはいない。即ち、北京政府は尚も、一方では旧来の多国間諸機構と、他方、同時に自国内に急発展している新しい諸組織のエコシステム、この双方を共に重視し密接に関与を継続している。更に中国では、上級技術官僚による政府運営と専門家による監督に尚も一定の重きを置き、相当な諸資源を教育の高度化と研究開発に注ぎ込んでいる。実は、この姿勢によってこそ、中国は世界のクリーン・エネルギー転換の主導国に育った背景があるのだ。 

 これと対照的に、トランプ政権の場合、公海上での超法規的殺人、米国条約義務を無視した関税体制の実施に見られるよう、あらゆる意味で秩序を積極的に葬り去ろうとしている。

同政権は、本来持つ多くの強味――強固な結束で結ばれた同盟諸国とのネットワーク、世界に尊敬され、その有効性を果たして来た海外援助諸計画、そして善良なる統治機能を備えた諸機構、等――これこそが、嘗て、中国との競争に於いて、同政権の勝利を手助けするものと期待したものであったにも拘わらず、寧ろそれを破壊することに最大の努力を払っているのだ。

トランプや取り巻き連中が拠所とする「盗賊政治」が、彼らの生来気質丈の問題に止まるのならば、2029年初に彼らが舞台から去る迄の辛抱と思えば、我々の気持ちは安らぐかも知れない。然し、現実には彼らが行った“米国外交政策の機構破壊”策により、今後少なく共10年間に亘り、米国の政策決定の健全性が損なわれるだろう。

 又、盗賊政治と極右派との融合は、汚職を一層持続化させる。この両者の結託は、米国に於いては、“トランプと、挑発を目的とする右派に属する回し者達との、単なる同盟関係”の域を最早超越し、次なる段階へ至った。つまり、将来、トランプ路線を継承すると見られる最も有力な者達――JDバンス副大統領やスティーブ・ミラー国家安全保障問題担当補佐官、等――が抱く「国益に資する構想」は、エソナショナリスト(民族集団に基づいた国家主義)の信奉に他ならぬもので、換言すれば“伝統的”な人種、階級、そして男女格差に基づく序列の復刻を前提としている。又、彼らは、オルガルヒ型によるの富の集中強化と、立場が劣ると云われている弱い国々からは自ら労せず搾取するやり口とを約束しているのだ。

盗賊政治外交と極右勢力が協力関係を結ぶのは不思議なことではない。大半の人々は汚職を嫌う。そこで盗賊政治家達としては、公共からの搾取行為を正当化する為に、何かしらのスケープゴートが必要だ。その際、この役目を充てがわれるのが、民族、人種、及び性的少数者で、彼らに批判の矛先を向けて自らの非を都合よく覆う訳だ。

 一方、正真の保守信奉者達は、彼らの真の敵対者達――自由主義者、穏健派、及び多元主義的民主政治との闘争を展開する際に、盗賊政治家達が強力な同盟者となることと引き換えに、同政治体制下に彼らは「突撃隊」として仕えることを、寧ろ喜んで受け入れる。即ち、これら勢力は、根本的に夢想家的な極右主義者達で、諸機構や政治統治の諸事取り決めを破壊することを何ら苦としない人々なのだ。

 これらが全て相俟(あいま)う結果、海外の横領政治家達にとって、米国を喰いものにすることがより容易となり、更に、この現象はトランプが大統領執務室を去った後も止みそうにはない。更に恐ろしいことに、米国外交が汚職の道具立てへと変容する事態は、既に自己増殖する悪の循環を生んでいる。と云うのは、ワシントン政府は、海外汚職を減じる処か、これを奨励する有様だ。斯くして、海外での汚職増殖が米国内に還流して来るからだ。

 これらを踏まえれば、EU諸国が何をすべきか明白だ。第二次大戦後の米国同盟体制下の主要諸国と共に、「トランプ体制が自国の政治制度に対し、現在差し迫る甚大な危機」である点を今こそ認識し、対処することだ。そして、これら諸国一同が一致し、先ずは自国に於いて国際汚職の助長を許す、規制諸制度の抜け穴を修繕すべく極力迅速な行動を起こす必要がある。即ち、これら諸国は、苟も自国の投資不足があったとしても、これを露西亜系政商(オルガルヒ)や、横領政治家達、或いは投資収入を着服する政体からの海外資金を以って、充当するが如き行為は即刻停止しなければならない。

そして、規範を貴ぶ民主主義諸国である限りは、米国による報復の脅しに直面しても、この一線丈は決して譲ってはならない。何故なら、唯でさえ、トランプ政権は、欧州諸国の現在の民主主義諸政権を嫌い、他の体制、所謂ネオ・パトロモニアル(新世襲政治:互酬と私的人脈が支配する政治)を好む姿勢を鮮明化する中、現にバンス副大統領等の大物達は、“盗賊政治”で得た資金援助の恩恵を享受する欧州極右諸政党を後押し、動き回っている状況だからだ。

 一方、肝心の米国議会に於いて、目下これら悪しき慣習に止めを刺すべく権力行使をする気配はない。これに鑑みれば、今後も米国の公共利益と安全保障が損なわれる事態は継続し、且つ一層加速するとの覚悟が必要だ。そんな中、外交を注視する識者達にも、ひとつ出来ることはある。即ち、トランプ外交を評し、やれ「現実主義」だ、「大国間競争」だ、或いは、単なる「取引至上主義」だのと呼び、事の真実を曖昧化し糊塗するのは直ちに止めよ。

その実態は“盗賊支配政治”でなくて、一体何だと云うのだ。このトランプ式外交政策は、“憲法に基づく共和国”なるものを再度米国に構築する望みに対し致命的脅威となるばかりでなく、海外諸国の民主主義の存続をも脅かすだろう。故に、本来あるべき“日の下に明白な正道と暗黙の規範”の両道から著しく外れた、このトランプ外交を、一々「大戦略」だと持ち上げ、褒めそやし正常な政策であるが如く云い繕う所作は、危険を一層深刻化させるのみであると弁えるべきなのだ。

(了)

今回、未掲載とした、論稿の2章と3章の翻訳は、追って追加公開予定。

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

文責:日向陸生

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