【投稿論文】『南米に生じた右傾化革命 ~トランプ時代に南米再構築を推進する力~』(原典『Latin America’s Revolution of the Right ~The Forces Remaking the Region in the Age of Trump~』, Foreign Affairs 2026, January/February号、P128-141)

著者:ブライアン・ウィンター (Brian Winter)

肩書:南米専門季刊誌『アメリカス・クオーターリー』編集長

  • (論稿趣旨)

 1959年、顎鬚(あごひげ)を蓄(たくわ)えた彼の反乱軍の一隊がハバナ市内に進軍して以降、2016年に老衰死する迄の半世紀以上の間、フィデル・カストロこそは、南米で事実上最も象徴的な指導者であり続けた。身を包む軍隊作業服と口に銜(くわ)えた細身のコイーバ葉巻をトレードマークとし、国連総会では米国を非難する耐久演説で名を馳せたカストロ(訳者補注:1960年国連総会中、カストロが演壇上で4時間以上に亘る米国帝国主義批判を展開した国連史上最長の演説)は、革命家達と他の国々の何百万の人々を魅了したのだった。

 彼はキューバを統治する丈(だけ)では満足せず、彼の思想を輸出しようと弛まず活動を続けた。そして、同盟諸国に対する彼の国際的ネットワーク並びに彼を賞賛する人々が数十年間に亘って拡大し、その影響は多くの各国指導者達へ及んだ。それは、チリのサルバドール・アジェンデから、ベネズエラのウゴ・チャベス、ジンバブエのロバート・ムガベ、そして、パレスチナ解放機構のヤーセル・アラファト議長迄も含む多彩な顔触れだった。

 民衆から“司令官”と慕われたカストロにも匹敵する程の、国際的知名度を得た人物が、今や南米に二人居る。処(ところ)が、彼らは両名共が、意外にも“右翼思想”を出自とする者達である。もしカストロがこの事実を知ったなら、墓の中でさぞかし仰天しひっくり返るに違いない。

一人は、“無政府資本主義者”を自称し、劇的な政府規模削減政策実行への熱意の象徴としてチェーンソーを振り回す、アルゼンチン大統領のハビエル・ミレイ。もう一人は、顎鬚を生やし、2000年以降成人を迎えた、所謂ミレニアム世代のエルサルバドル指導者で、国内外に熱烈な支持者を擁するナジブ・ブケレだ。

又、彼らが掲げるスローガンも、様変わりした。「勝利の道へと突き進め!」とキューバ革命で遍く叫ばれた標語は、今や、「自由万歳、こん畜生!」(“Long live freedom, damn it!”)とのリバタリアン(自由至上主義)派であるミレイの決め台詞に置き換わり、これが米国大学のキャンパス内で学生のTシャツに印字され、更には遥か遠くのイスラエル国の政治家達もが引用する有様なのだ。 

  

 カストロの全盛期と同様、この両名も、国際政争の場に於いて自国の実力を遥かに上回る影響力を発揮中だ。ミレイは、2024年の米国大統領選挙戦に勝利した、ドナルド・トランプと真っ先に面会した国家元首で、マー・ア・ラーゴ別邸で豪勢な歓待を受けた。トランプはミレイを「私が大好きな大統領」と呼び、おまけに、2025年10月には200億ドルのアルゼンチン向け支援融資――これは過去30年来、米国が如何なる国に提供した救済措置をも上回る規模である――を供与したのだった。一方、ミレイは国内の政府官僚機構及び非効率な役所仕事を果敢に削減し成功を収め、彼が政権を引き継いだ2023年に年率200%だった同国インフレ率は、2025年末迄に30%へ収束した。この手腕は、英国野党のケミ・ベーデノック保守党党首、伊太利亜のジョルジャ・メローニ首相、及び他の欧州右派の多くの者達から、見習うべき手本として賞賛を受けた(*後注)。又、この成果を以って、彼は、イーロン・マスクを筆頭とするリバタリアン(自由至上信奉主義)派シリコンバレーの巨人達から、謂わば“教祖”と崇められることになった。マスクが2025年2月、米国で保守党集会の場に於いて、ミレイのお家芸だった“チェーンソーによるパーフォーマンス”を壇上披露したのは記憶に新しい。

 一方、ブケレがギャングを一掃した行動は、彼が正式手続きや人権上の配慮に一切お構いなしの構えであるにも拘わらず、南米の多くの諸国、及び域内を越え広く彼の知名度を拡散させた(チリに於いては、81%もの人々がブケレを好ましいと評価し、他の如何なる諸国の指導者よりも支持率が高く、自国大統領を2倍以上上回る人気を集めた)。更にブケレの発信力は、世界中に1,100万人のTikTokフォローアーを持ち、これは世界指導者の中で、トランプに次ぐ規模だ。

 今日、南米の指導者達は、自国に限らず、同域内を広く変化させたいとの意思を抱く点に於いて、真に革命的な熱意を帯び、特にこれは右派思想の者達に顕著な傾向だ。更に、注目すべき点は、保守派指導者達が最近の多くの選挙に勝利し、且つ翌年に掛けて自国以外でも彼らが好まれていると云う事実だ。即ち、この現象は、南米が今や一世代間に一度起こるか否かの大きな変換点を遂げる用意が整いつつあることを示唆し、諸国が直面する諸問題――組織的犯罪、経済政策、米国や中国との戦略関係、その他諸々――への対処方法に関し、今後根本的な変化が生じる可能性を秘めている。

2025年を振り返れば、エクアドルの保守派大統領、ダニエル・ノボアが再選。アルゼンチンではミレイの党派が中間議会選挙で予想以上の大勝利を収め、彼の政策推進力が一層強化された。ボリビアでは約20年続いた社会主義統治が終わりを告げ、中道改革派のロドリゴ・パス・ペレイラが選出。保守的な大統領を求める声はコスタリカとペルーに於ける世論調査で優勢を占め、驚くことに、遠く離れたブラジルとコロンビアに於いても同様の傾向を生み、その上この2ケ国が2026年末迄に選挙を迎える状況にある。

 南米はそれぞれ異なる歴史と政治力学を持つ凡そ20の諸国で構成される為、全ての国家が一斉に右傾化する事態は考えにくい。然し乍(なが)ら、ある局面では、多かれ少なかれこの地域が同期的回帰を果たして来た歴史を忘れてはならない。即ち、キューバ革命の後、1960年代には域内の多くが、反動的独裁諸政権によって席巻された、そして1970年代は地域が挙ってキューバ革命に追従、1980年代には再民主主義化の大きなうねりが訪れ、1990年代になると「ワシントン合意」に基づいて親市場主義に沿った諸改革が進展、その後90年代後半から2000年代に掛けて、今度は所謂「ピンクの潮流」(真っ赤ではないとの意)と呼ばれる運動によりチャベスやその他、左翼指導者が権力の座に就いた。そして、今日、この地域に更なる再編成が進展するように見受けられる。この動きは、域外世界が南米に就いて想定していた諸前提をも覆す可能性を持つものだ。

 その帰結として、今後数年間の展開は、次の通り予想される。つまり、同地域は、麻薬密輸とその他犯罪を積極的に取り締まり、国内及び海外投資を歓迎する一方、片や、気候変動や森林破壊への憂慮と関心は薄く、更に、安全保障や移民問題、及び西半球に於ける中国の存在を限定的に止める等の政策に於いて、寧ろトランプ政権と広範な分野で優先度を共有するだろう。

 これ迄、米国に於いて“高圧的で国家主義的で且つ右翼”の米国大統領が登場した場合、同国は「南米に対し干渉主義を取った」歴史的事実がある。これに鑑みると、今般、南米域内にはこの動きに反発し左翼による抵抗が増進するとの予想を抱く向きが多いかも知れない。然し、少なくとも、ここ当面、事態はその逆で、トランプ大統領の復帰から最も恩恵を受ける南米の指導者達とは、彼を謗り反抗を試みる者達でなく、寧ろ、彼を賞賛し追従し、更には模倣する人々になるだろうと私は見ている。

(第一章 訳 完了)

*訳者後注: 【(参考)ミレイ大統領の経済改革概要について

1) 具体政策(2023年12月、同大統領就任以降実施)

彼の政策は“無政府資本主義”の理念に基づき、国家介入型経済を悪と見做す。

国家機構を改革し民営化、自由貿易を推進支持する。政府の役割を極小化し自由を最重視する、所謂“オーストリア学派”の立場をミレイは支持(景気変動平準化の為の政府介入を推奨するケインズ派とは正反対)。

1.財政圧縮策:

政府予算3割削減。省庁の半減、公務員6万人削減(人員比率で一割以上)。エネルギー向け等補助金カット。前政権が導入した減税措置撤回。

2.中央銀行機能・通貨改革策:

中央銀行による財政ファイナンス停止。同行バランスシート明瞭化。資本取引規制解除。ドル利用拡大。自国通貨ペソを対ドル50%切り上げ。(ミレイは中央銀行廃止、通貨ドル化を持論とする)。

3.経済政策: 民営化、投資拡大。自由貿易、FTA推進。

2) 成果:就任2年で、財政・金融・為替を立て直し正常化に成功。

1.財政黒字化。2025年プライマリーバランス黒字化(実に2008年以来)

2.インフレ率鎮静。訳文にある通り年率200%のインフレが30%へ収束。

3.GDP回復。2025年は5%程度に回復の見込み(前年実績はマイナス1.7%)

4.一方、政策実施によるトレードオフ結果とし、雇用減、公共サービス低下に当然直面。

3)<訳者所感>

 ミレイの成果は見るべきものがあり、論稿の通り、欧米の右派から経済立て直しの手腕が賞賛された。処が、世界屈指の債務超大国兼通貨激安国の我が国丈が我関せずとばかり、赤字国債への依存を続け、日銀は政府の出先機関に成り下がった儘、一層の通貨安と物価高を容認し、金融抑圧策(インフレによる国債返済の実質負担軽減)を当てにしつつ、財政悪化の道をひた走る。

 我が国の場合は、「ケインジアンかオーストリア学派か」との論戦次元から遥かにかけ離れ、「あなたは、借りたお金を返しますか、それとも踏み倒しますか」という小学生レベルの倫理問題にすら結論を出せぬ儘、断崖絶壁に向かい目隠しをして全力で走るが如き状態だ。政府が戦略目的の為に保有する“外国為替資金特別会計”と、個人が利殖目的で保有する“外貨建預金”との区別もつかぬ女性首相と阿諛追従しか能のない女性蔵相では、凡そ、ミレイ大統領から見縊られるのは確実で、野党もそれに劣らず全員経済音痴とくれば、もう日本国自体が世界から相手にされなくなるだろう。嘗て、アルゼンチンはハイパー・インフレで財政破綻し、国民も銀行預金凍結を余儀なくされた経験を持つが、どうやら、日本も行くところまで行き付かぬと目が覚めぬらしい。

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

文責:日向陸生

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