著者:マシュー・スローター、ディヴィッド・ウェッセル共著 (MATTHEW J. SLAUGHER & DAVID WESSEL)
肩書:前者は、ダートマス大学、国際ビジネス・タック校教授。元、大統領経済諮問委員会メンバー(2005-2007年勤務)。 後者はブルックリングス研究所 上席研究員、兼同所内ハッチンズ・センター財政金融政策理事。
(論稿主旨)
今日の米国は苦難の時にある。つまり、米国人は皆、根強い経済の停滞感に打ちひしがれているのだ。
主要な経済諸指標は良好だ。即ち、失業率は低く、インフレ率は落ち着きを見せ始め、米国は世界の中で最も豊かな国に依然変わりない。然し、次から次に出る世論調査はどれを見ても、殆(ほとん)どの米国人が、今日の経済状況と将来見通しに不満を抱いている。「景気が良い、又はとても良い」と回答したのは全体の1/4に過ぎない。更に、約八割は「我が子の世代が自分たちより良い暮らしが出来る」ことに確信を持てない、と回答した。
専門家達は、米国固有の重大諸案件に就いてここ幾年に亘り協議を続行して来た。例えば、社会の老齢化問題。増税に大衆の根強い反感がある一方、社会福祉支出が増加する為、連邦予算の赤字が年々拡大する事案だ。又、批評家達は気候変動による脅威拡大を吟味し、米国エネルギー分野の見直しが必要と理解している。又、彼らは、我が国経済が変遷するに連れ、国民の間に資産や所得格差が拡大する事態も承知している。更に、彼らは、米国の安全を脅かす海外の独裁者達に関し憂慮し続けて来た。
処(ところ)が、これら世間で行われる議論に於いて、実は諸問題の背景に存在する、ある共通要因――然も、それは米国が果たして諸難題に取り組めるや否やの形勢に影響を与える重要なもの――が余りにも屡々(しばしば)見落とされている。即ち、“労働生産性”である。
それは、労働者(一人当たり)が生み出す、財とサービスの数量として一般的に計算されるもので、この生産性こそが、国家の平均生活水準や、経済全体の成否を決する重大因子なのだ。
生産性が長年に亘り成長し続けたお陰で、今日の米国人は、祖父母達の世代より多くの財とサービスを享受することが可能なのだ――然も、費やす労働時間は彼らよりも少ないにも拘わらず。生産性成長は、賃金と利益上昇を加速させ、政府の財政収入も増加、これを以って米国は敵を圧する国防能力を構築することも可能になる。同時に、生産性が向上すればこそ、民主的で市場重視型社会の活力を誇示することにより、自国の所謂「ソフト・パワー」も増大するのだ。
第二次世界大戦終結以来1973年迄の間、米国産業(農業を除く)の生産性は年率2.8%と云う、活発なペースで成長を遂げた。然し、その後、米国の生産性成長率は半世紀に亘り大幅に減速する。つまり、1973年から1995年の間は、僅か年率1.4%に低迷。次の10年間は、年率平均3.0%へと再び高い値へ戻る。然し、2005年以降、労働生産性は年々僅かな伸びに止まり、年率平均1.5%を若干上回る程度だった。そして、コロナ感染症蔓延の間は、上下に変動を繰り返した。即ち、最初の一年は上昇し、翌年低落、その後、直近の統計に明るい兆しが見始めた。然し、この変化が傾向として定着したと見做すには、まだ、時期尚早な状況だ。
これら年率生産性の差異は、僅かに見えても、数十年単位では複利計算により天と地に匹敵する違いが生じる。2015年版「大統領経済報告」の試算によれば、1973年から2013年迄の間、もしも、それ以前の25年間(1948年から1972年)と同率の生産性成長を遂げていた場合には、2013年時点の国民所得は、実際の実績値より58%増加する。これを、国民各所得層に比例配分すれば、年間家計所得の中央値は3万ドル増加する勘定だ。
尤(もっと)も、1973年後の生産性減速は、米国に限らず、殆どの高所得諸国に共通する現象だった。実際は多くの国々が米国より深刻な停滞に見舞われた。例えば、英国は2008年から2024年の16年間で6.1%、即ち年率換算では僅か0.4%の生産性成長だった。
米国の生産性は、他国比較上は優位にあったものの、その成長速度は十分速いものとは云えなかった。そして、米国で生産性成長速度が減速する一方、中国ではそれが離陸し軌道に乗った。嘗て孤立し貧困国だった中国の発達を牽引し、今や米国に伍し経済及び地政学上、第一等の競合国へと変身させたのも、又、“生産性成長”の為せる技だったのだ。
自国に抱える難題と国際的課題、これら様々な困難に米国が十分に対処する為には、「生産性の復興」を引き起こすことが必要だ。それに当たり、経済学者達は、先ず少なくとも「どのような政策には効果がないか」を知っている。即ち、発明的アイデア、資本、及び人材の自由な移動に対し障壁を築く類の如何(いか)なる試みも、全て失敗に帰す運命にあるだろう(何れも、国家安全保障上必須な観点を超えた過度な制限は逆効果)。
同様に、気候変動や感染症拡大への対策取り組みに於いて、国際同盟や機構を踏みにじるような振る舞い、並びに、社会福祉増大を実現させる為の調査に対し、思慮なく政府投資を削減する策も、これ又、機能しないのは確実だ。更に、連邦政府赤字を運営する結果、生産性増進に資する民間投資をクラウディング・アウト(締め出し)する行為も、同じことだ。
一方、「生産性を向上させる手段が何であるか」を突き止めるのは容易な作業ではない。然し、どのような政策が少なくともより効率的な傾向を発揮しそうかという話ならば、その答えは我々の経済活動の中で既に自明だ。即ち、基礎研究への投資、学校教育と職業訓練への投資、更に、移民と国境を越えた投資を通じ国際経済との交流を維持することだ。
但し、これら諸政策を以ってしても、生産性は一朝一夕には改善しないのみならず、米国の場合は全ての国民が等しく経済好況の恩恵を受ける為の、別途諸策――生成AIによって職を奪われる労働者達を支援する為の予算割り当て等、が必要になるだろう。
それでも、もしワシントン政府が、上述した3拍子揃った諸策推進を再度、固く約するならば、米国にやがてより速い生産性向上が実現する。これこそが国家基盤であり、先ずはそれを優先的に為(な)し遂げ、然(しか)る後に初めて米国は、現在直面する、多くの容易なならざる国難解決へ取り組み開始出来るのだ。順番を違えれば何事も成就しない。
(了)
次章以下の翻訳は順次掲載予定
文責:日向陸生
*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。
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