【緊急掲載】『脆弱な露西亜(ロシア)経済がプーチン最大の弱点だ ~制裁強化によりウクライナ戦争停戦交渉にプーチンを着座させる策の提言~』(原典:The Russian Economy Remains Putin’s Greatest Weakness ~Harsher Sanctions Could Push Him to Negotiate with Ukraine~, Foreign Affairs Web版、2024年12月9日付発表)

<訳者口上>

 ウクライナ戦争をトランプ新政権下で成功裏に停止させる為の方策を、論者が提言する。露西亜情勢専門家の論は一読の価値を持つ。しかし、同論は、要は、トランプ大統領を如何にして動かすか、即ち、彼の得べき利益を餌にし、米国外交政策の誘導を画そうとするものである。今後、この手の献策が続出するであろう。トランプに阿諛追従し摺り寄り、私利を図ろうとする者は、邦国からも陸続出現するのが片腹痛い。百歩譲り、商人なら肉に群がる青蠅の如く、利を追う性は堰き止め難いとしても、苟(いやしく)も国家方針に係る重大事に関し、利を以って論じる愚は、孟子の既に唱える処だ。曰く「利を以って説けば、滅びざる者なく、仁義を以って説けば、王たらざる者なし」と。世界が狂騒を始める次の4年間、これ程、本邦に高い目線が求められる年はない。(日向陸生)

著者:セオドア・ブンゼル、エリーナ・リバコヴァ共著(Theodore Bunzel  & Elina Ribakova)

肩書:前者は、在モスクワ米国大使館政治部、並びに米国財務省に嘗て勤務。現在は、民間シンクタンク、ラザード・ジオポリティカル・アドバイザリー社 社長兼最高責任者。

後者は、米国シンクタンク、ピーターソン国際研究所、並びに欧州シンクタンク、ブリューゲルの非常勤上席研究員(国際経済)。又、キーウ経済大学の部長(国際関係)兼務。

(論稿主旨)

「7年戦争」最中の1762年のこと、当時のプロイセン、フリードリヒ大王にとり眼前の時局は極めて深刻と映った。つまり、露西亜皇帝軍が、既にプロイセン人を消耗し尽くし進撃を続け、今やベルリンに迫ろうとしていた。そして、この時、予想外の事態が起きた。即ち、露西亜女帝エリザヴェートが突然死去、そして彼女の後継者となった皇帝ピョートル3世はプロイセン贔屓(ひいき)で知られ、一転し露西亜の進軍を停止、和平を申し入れた上、尚もオーストリア連合軍との戦いを余儀なくされるフリードリに対し、露西亜軍の貸与さえ申し出たのだった。「ブランデンブルクの奇跡」とフリードリヒ自身が呼んだこの出来事は、「政局変化と新しい指導者の個人的感情移入は、国際紛争の結末をも逆転させ得る」顕著な事例を今日に伝える。

 ドナルド・トランプが米国大統領選挙で収めた大勝利は、露西亜にとり「プーチン王国の奇跡」と呼ぶには当たらぬ出来事だったかも知れない。然し、これによって、クレムリン政府がウクライナ戦争を加速させる結果となった点は否めない。

一方、トランプは、キーウに対する米国支援に懐疑的であり、この戦争の終結を約した。「24時間で戦争を終わらせる」との彼の公約は、大法螺(おおぼら)に聞こえるかもしれないが、それは、交渉による解決を望む合意がワシントン政府内に形成されつつあるのを反映するものなのだ。

 だが、1762年のプロイセン戦争の事例と異なり、今日の露西亜は絶体絶命に追い込まれた状況ではない。寧ろ、同国軍は実際に占領地を拡大している。戦況が自身に優位と確信するモスクワ政府に、妥協の用意は全くない。他方、キーウ政府は尚も戦闘継続中で、こちらも降伏を受諾する雰囲気に全くない。斯かる中で、闇雲(やみくも)に戦争終結を求めるトランプの意気込みを、安定的解決が確保されるような方向へと転じる為には、西欧陣営は先ず為すべきことが在る。即ち、モスクワ政府に対する圧力を強化し、西欧陣営にとり優位な交渉条件を得るべく、梃として活用できるような環境を整える必要がある。さもないと、著しく露西亜に有利な条件の下、もし拙速に停戦を迎えてしまえば、それはクレムリン政府に対し、次なる一層広汎な侵攻を再開する迄の、準備期間をみすみす与えたに過ぎない事態と為り兼ねない。

 欧州にとって幸い、露西亜は、ある決定的弱点を持つ。同国の経済だ。多くの観測者達は、「戦争開始と共に露西亜に課された経済制裁に効果がなく、同国経済は好調持続している」との杜撰(ずさん)な談話を真に受ける節がある。処が現実には、経済制裁は顕著な損失を露西亜に与え、その結果、同政府は政策展開の自由度を減殺されている。加えて、戦闘諸費用が膨張し、露西亜経済は今や危険水域に至る程に歪(いびつ)化している。即ち、戦場で何十万人と云う露西亜人男性が戦死乃至負傷して労働供給が縮小――実に、露西亜側に、先の10月で一日当たり1,500名の死傷者が発生している。 一方、防衛支出は国家予算を侵食する。更に、もし、モスクワ政府のエネルギー販売収入――露西亜経済の生命線に相当――加えて、欧州製の民生―軍事両用財輸入が顕著に減少すれば、同国は経済並びに軍事両面で危機的状況に陥る可能性が高い。

制裁の輪縄を引き締めることにより、モスクワ政府は巨額の出費を伴う、戦争継続努力は持続不能となり、戦争推進力は最早ポンコツエンジンの如く変調を来し、更に、国内には経済環境悪化に対する不満が充満する結果、プーチンは、ウクライナ側にとって、より有利な停戦条件をも受諾せざるを得ない圧力に曝されるかも知れない。

 露西亜のエネルギー販売収入と技術輸入に対し圧力を掛ける策は、米国ジョー・バイデン大統領に残こされた数週間の任期を活用して、ワシントン政府及び欧州の同盟諸国が直ちに行動可能な選択肢だ。幸い現在、原油価格とインフレ率は米国と欧州に於いて低下し、欧州諸国政府も、露西亜からのエネルギー流入を妨げることへの抵抗は、2022年往時に比せば、遥かに少ないからだ。そして、来年トランプが大統領就任した際、彼の政権はこの流れを歓迎し、寧ろ同策を一層発展させるだろう。何故なら、それにより、露西亜-ウクライナ間交渉に於けるトランプの指導力が増し、米国エネルギー諸企業は恩恵を受け、更に欧州からの政治的譲歩が確保され、これら進捗に就いて、トランプは全てを自身の勝利として宣伝出来るからだ。

(次章以降順次翻訳)

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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