【社説】貿易戦争(Trade Wars)原本 Foreign Affairs 2021年 May/Jun号 巻頭P8

   経済の国際化は人々の結びつきを強めると考えられ、ここ数十年の間、外交政策に於いてもこの考えを主流とした。ところが、合意事項とも云えたこの認識がほんの数年の内に崩れ去った。世界の融和は際限なく加速的に進むという予言、及び、世界中の人々に繁栄と礼節とを齎(もたら)す事が期待された、貿易と海外投資に対する賛歌も共々消失した。これに代わり、近来、専ら次のような議論がなされている。即ち、世界の二大経済国家はそれぞれ、どれだけ世界の繋がりから自国を「切り離す」べきか、或いは、感染症拡大により諸政府は混乱し、物流供給網やワクチン物量を支配しようと目論む問題、又は、デジタル基盤の覇権構築を廻り、民主主義陣営対専制主義国の技術競争に関する問題である。この様に、地政学的な競合は和らぐどころか、貿易は一層競争を煽る手段を提供するかのようである。

 一方、今日の悲観的な諸見解も又、最近までの超楽観主義が見誤っていたと同様に、物事を見過ごす可能性があるだろうか? 過去200年間から、規則性を見出そうと試みる中で、ハロルド・ジェイムズは、今日、国際化は分裂と不調和の状況にあるに拘わらず、寧ろ、それであるが故に、今後、新たな国際化の波が到来するとの逆説的意見を開陳する。つまり、指導者達は危機に際し、当初は国家主義的姿勢を以って対応するのが常だが、遠からず、回復過程に於いてはより協調的で対外連携をより重んじる事を受け入れざるを得なくなるという論だ。

 ゴードン・ハンソンは、米国経済に対する所謂中国ショックに就いて、その度合いを証拠付ける有力な調査に基き、過去の貿易諸協定に関し、破られた約束や著しい痛手の数々に注目する。そして、バイデン政権が公約する、「労働者を中心とする」政策ですらも、貿易を正しい軌道に復するには十分でなく、より広範な追加手法が必要とされる点を論じる。

 アダム・ポーゼンは、貿易と開放政策を、米国の諸病状の原因と見做して非難するのは、とんでもない問題の掃き違いであると主張する。寧ろ元凶は、凡そ20年間にも及び、国際的経済関係に従事せず、逃げ腰でいた事こそが、不平等を助長し経済成長を損なって来たとする。又、オードリー・ウオンは、その注力ぶりが脚光を浴びている、一帯一路計画を含む中国の“経済的外交手腕”は、成功もすれば、又、往々にして裏目に出るとし、これらに対し、前稿同様、批判的評価を提供する。

 本特集の最後は、マシュー・スローターとデイヴィッド・マコーミックによる電子データの影響力に関する寄稿だ。世界貿易総量が停滞する中、国境を越えた電子データの往来は激増する一方、これらが、政治、経済、及び安全保障に与える重大な影響を制御する為の対応手法に関しては、国際的観点に於いて、まだ極僅かな動きしかない。彼らは、電子データが強大な力を持つ今日の世界に於いて、米国が新しいルール造りを主導すべき事を論じる。

 掲載した各論稿は、それぞれ見立ては異なり、それに従い、提言される処方が指し示す方向も一様ではない。しかし、これらの諸論は、いずれも、嘗ての古い前提は何が間違っていたかを明らかにした上で、ある共通項を持つ。それは、我々の将来は、何も不易の経済的潮流によって制される訳ではない。譬えそれが、愚かであれ賢明であれ、又は近視眼的か先見的かを問わず、詰まるところ、我々自身の手で如何なる政策決定を行うかという一点のみに、将来は掛かっているのだ。

                編集長 ダニエル・カーツフェラン

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