【社説】戦後の世界~ウクライナ戦争により、過去の遺物とし嘗て忘却された危険と脅威とに世界は今、新たに直面する~ The World After the War~The War in Ukraine has forced a fresh confrontation with risks and threats once dismissed as relics~(原典:Foreign Affairs 2022 May/June号 P8)

 本号が発刊される頃、ウクライナでの戦争は未だ終結には程遠い状況であるに違いない。この戦争は、戦況が激しい一進一退の攻防になるか、占領を覆す為の内乱闘争になるか、或いは世界的破局へと進展するかは別として、何週間も、何か月も、いや何年にも亘って続く公算が高い。それは兎も角、最初のミサイル攻撃が開始された瞬間を以って、その侵攻が新時代の幕開けを画した事丈(だけ)は確かだ。そして、その新時代によって定義されるものとは、何もウクライナ戦地の顛末のみに限らず、全世界がこれに対処して取る諸行動をも対象なのだ。露西亜(ロシア)侵攻に対し激しい抵抗を以って、ウクライナ国民は、彼らが何を危機から守るべきかを力強く表現した。一方、その他の世界は、自分達にとっては、身を賭しても守るべきものは何かに就いて、理解しようと尚も取り組む最中だ。

 ロバート・ケーガンは「米国民は、望むと否とに拘わらず、際限なき権力闘争の一部分として参画する事を免れ得ないという点が、この戦争により鮮烈に呼び覚まされた」と論じ、更に「世の中には“米国による世界覇権”よりも始末に悪いものが尚存在する事が明らかになった」と説く。タニシャ・ファザルは、国際秩序の観点から、これ迄数十年に亘り安定維持を支えて来た大原則をこの戦争が脅かす点を論説し、「領土征服を禁じる規範は今や、第二次大戦終結以降、重大極まる脅威を帯び且つ最も露骨な手口によって挑戦を受けている」と述べる。又、ステイシー・ゴダードは、現存する国際的枠組みを捨て置くのではなく、逆にこの戦争は「国際諸機構を拠り所とする現実的政治」の重要性を示唆する為、西欧側政治家達は同戦略を採択し、中国と露西亜(ロシア)―両国は連携を図りつつも、それぞれ完全に別個な反現状体制派―によって増長されつつある諸挑戦を封じ込めるべき事を提唱する。

 一方、ダニエル・トレイスマンは、この戦争は、ウラジーミル・プーチンが抱く「反西欧国家主義の性質が出現した典型例であり、それは彼の怒りと自己を正当化する演説が如実に物語る通りで、それが次第に武力行使へと発展し、」最初は自国内で、そして遂に海外へと展開した点を述べる。そして、アンナ・リードは曰く、ウクライナ国民にとっては、この戦争は、他の多くの中でもとりわけ、彼らの歴史に対する攻撃であり、プーチンが軍事力並びに独裁主義的検閲体制―現実世界から神話的支配へと変容を夢想する試み―を行使するものだと説明する。

 この戦争は、嘗て昔物語として忘却された、様々な危険と脅威が、我々の前に尚も立ちはだかる現実を見せつけた。スティーヴン・コトキンが、過去と現在に亘る広汎な地政学分析に基づき見解する通り「露西亜(ロシア)との強権を巡る、西側諸国の競合が、比較的短期とは云え一時停止状態に在ったのは、実は、寧ろ驚くべき歴史上稀なほんの一瞬の出来事だった」点が、今や明白となったのだ。

                 編集長 ダニエル・カーツ-フェラン

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