【社説】フォーリンアフェアーズ誌、創立100年を迎えて(Foreign Affairs at 100 ~The Magazine Makes a Century~原典:Foreign Affairs 2022 September/October号 P8)

 100年前、元、国務長官であったエリフ・ルートがフォーリンアフェアーズ誌創刊に際し、栄えある第一号として投稿、掲載された論稿は、1922年9月の当時に在っては、苦言として際立って見えるものだった。即ち、外交政策の発展は、最早、外務省諸局内に限定された問題ではないと云うのだ。彼曰く「民主主義は、自身の運命に係る問題の処理対応に就いては、彼らが専門知識知を欠き、他に選択の余地がない状況に導かれるにしても、自分達で管理する道を決断したのだ」と。然し、彼は続けて指摘し云う。斯様な決定を下したからには、これに見合う丈(だけ)の「根本的且つ重要な諸事実に関する知識、並びに国々の関係が依存する諸原則に関し、広く普及させる努力が為されなければならぬ」のだと。

 以来、幾千もの記事が本誌に登場した。それらの多くが、良くも悪くも、米国外交政策と国際関係の方針設定に影響を与えた ―恐らく、最も有名なのは、ジョージ・ケナンが署名“X”の匿名を使い投稿した論稿が、ワシントン政府がソヴィエト連邦封じ込め戦略を冷戦下に展開して行く基礎となった事例だろう。然し、他のものは、政策目的に対し異議を唱え、或いは、世界情勢に関する諸前提を問い質(ただ)して来た。これら全ては、冒頭に紹介したルートの論稿が訴えた基本的な要求、即ち、外交の実践家達、専門諸家、そして、米国並びに世界中により広がった読者層(彼の時代に比べ今や何百倍も拡大した)を網羅し、活発な議論が展開されるよう、その構想と設計を引き続き追求するものだった。 

 そして、今や、フォーリンアフェアーズ誌は2ケ月置きに郵便受けに配達され、スタンドの雑誌コーナーに並ぶ丈でない。読者は、フォーリンアフェアーズのウェブサイトで日々新しい記事を読む事が出来る。又、視聴者は、寄稿者達が彼らの議論を詳述する肉声を、我々のポッドキャストの「フォーリンアフェアーズ インタビュー」或いは他生放送配信から聞く事が出来る。又、読者は、毎週更新されるニュースレターのアーカイブスから過去の珠玉の記事も閲覧可能だ。我々はこれら近代技術を通し伝達される内容も無論含み、全てに対し創設来変わらぬ価値を維持すべく意を尽くして来た。即ち、議論に対する高い志、分析に於ける高度な明晰度、非凡な経験と専門知識に裏打ちされた著作者の信頼性の提供に加え、政策対応に対する視座 ―つまり、為されるべきものに対しては、その問題を是認する事なく、断固対処を為すべしとの主張を貫いて来たのだ。

 扨(さ)て、当誌は本号より、構成を一新した点に読者はお気付きだろう。従来の伝統を一層重視し、各号に掲載する本質的諸問題は、なる丈遅滞なく提供して行くが為の変更だ。現在、我々が居る時代は、国際関係が極めて緊迫し且つ不透明にして、更に米国外交は挑戦を受けつつ困難に直面した状況に在り、それらの度合いが此処迄甚だしき事は、近来記憶を遡る限り、如何なる時点にもその例を見ぬ程だ。時は、今や、過去の権力諸関係が、新しいものと衝突し交錯する転換期を迎え、それは独特にして多くの危険に満ちた道筋なのだ。

 今回、当号の多くの投稿論文は、歴史から永続するその影響力を辿ろうと試みる ―その手法は様々で、米国の権力と云う視点、民主主義と技術、或いは、中国と露西亜問題、又は、人類、そしてそれが外交政策策定に与える影響(本誌もそれに含まれる)等を通じ行われる。又、我々の書評家達も、当号では同様に、過去を振り返り未来を見つめ、過ぎ去った世紀と、来るべきこの先の世紀に生じる諸事の理解に資する、過去百年と未来の百年に重要な書籍をそれぞれ幾冊かずつ取り上げ、主要分野別に紹介し論評する企画とした。

 今回掲載した諸論稿は、創立時の編集長、アーチボルト・キャリー・クーリッジの言葉を借りれば「これら諸信念が、ここで何らかの合意点に至るものではない」。それに代え、これらが反映するものとは「真剣な支持に裏打ちされ、説得力に満ちた諸主張に対しては、それら見解相違を広く許容する」と云う彼が誓約した信条そのものである。彼は更に強調して曰く、フォーリンアフェアーズ誌は、著名付か匿名かに拘わらず、掲載された如何なる記事に関し、その主張見解に対し責任は負わない。当誌が負う責任は、それら諸見に対し此処に発表の場を与えた点に尽きる、と。

 冒頭紹介した、当誌初回号、第一論稿の中心的主張 ―優れた外交政策には、深く、開かれ、そして広汎な討議を必要とする旨― は、1992年9月当時に比べ、現在は然程(さほど)驚くべき指摘ではないかも知れない。それでも、我々が尽力するのは正にこの責務実現に在り、之(これ)は100年前と同様、現代に於いても極めて重要な点に変わりないのだ。  

末永きご愛読を願って止まない。

編集長 ダニエル. カーツ-フェラン (Daniel Kurtz-Phelan)

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