10年前、レオン・パネッタ米国防長官は、「サイバー空間に於ける真珠湾攻撃」を被る危険性に関し、殺伐たる警告を発したのだった。即ち、デジタル世界に対する攻撃により、現実世界で人命が失われ施設が破壊されると云う警鐘だ。その後、年が経過するに連れ、この懸念はある意味誇張されたものと判明した。つまり、パネッタ達が恐怖した、最も深刻なシナリオは結局現実に起きなかった。しかし、先の警告は、別の意味で、苟も控えめに過ぎたと云える。即ち、2012年当時の想像を遥かに越え、今日では、政府、企業、及び市民が皆等しく、広範囲で絶え間ないサイバー上の脅威に晒され、安全保障、政治、及び経営統治に関する諸問題が只でさえ溢れている現状に、更に輪を掛け、幾層もの危険と複雑さを加えているのだ。
被害が累積するに連れ、政治家達は対応を急ぐべく四苦八苦した。スー・ゴードンとエリック・ローゼンバッハは、この問題が困難な理由の一つが、サイバー空間の領域は、戦争か平和かの2元で形成されるものではない点を論ずる。この領域は、両極の中間に位置する範囲内に展開し、従って、サイバー攻撃はこの不透明な空間の何処かへ仕掛られる。それにも拘わらず、戦略家達は、この現実を弁えずに攻撃への対抗を試み、その結果何年尽力を重ねた所で、攻撃者側の優位性を崩す事が出来ずに居ると見解する。
一方、ジャクリン・シュナイダーは、最も注目すべきサイバー上の脅威とは、良好に機能する経済活動、効率的な政府、そして安定的な国際関係を支えている「信頼」そのものを損なう事を標的にする、その手法に在ると云う。「もし、信頼が失われる危険に直面しているとすれば、この新たな局面に於いて国家が生存し運営を図る為には、これ迄に図って来た諸手順とは異なる対策を採る必要がある」と提言する。
ジョセフ・ナイとディミトリー・アルペロヴィチは、それぞれの論稿で、政治家達は、サイバー上の脅威を、その他の安全保障上の諸問題とは根本的に異なるものと捉え対処して来た点を批判する。そして、ネイはサイバー攻撃による社会混乱を逓減するに当たり、体系的な規範を制定する手法を断念してしまうのは誤りであると主張する。「確かに、サイバー技術により、これ迄とは異なる様々な挑戦が出現するものの、それらを統治する為の国際的規範は、通常の場合と同じ方法で造り上げるべきものである」と彼は考える。即ち、数十年の歳月を掛けてゆっくりとしかし確実に築いて行くものなのだと。一方、アルペロヴィチは、「サイバー空間は決して独自に隔絶された世界ではなく、広範囲に及ぶ地政学上の戦場の延長上に位置する」と述べ、従い、その解決は、技術的に特化した狭い範囲の対応では手に負えず、地政学的な諸手段が求められる点を論ずる。
これら識者達が述べる適格な諸提言は互いに異なるものの、彼らの諸分析を通じ一つの共通項が見えて来る。それは、当問題が一層悪化する中、未だ我々が、その根底にある事実を把握しきれず苦戦している現状に対する懸念だ。有効な治療を施すには、先ず、明晰な診断が必要だ。 編集長 ダニエル・カーツ・フェラン
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