トランプ大統領の手掛けた米国外交政策は、歴史家達はどう評価するだろうか?「好意
的な評価はない」と本特集に寄稿したマーガレット・マクミランは述べる。略この4年間
、乱気流に揉まれるが如くの時を経て見れば、我が国の敵国は強大化する一方、友好国が弱体化、そして米国自体はと云えば次第に孤立が深まり、そして打ちひしがれている有様なのだ。
また、リチャード・ハスは曰く、「トランプは、不完全とは云え、価値ある仕組みを引
き継いで置きながら、代替案なきまま、この仕組みを破棄してしまった」と。その結果、米国並びに世界の事態は著しい悪化を見ることとなったと訴える。大統領は、彼の政党と行政府とを共に引き摺り回して、国家政策を彼好みのものに造り変えてしまったのだ。即ち、近視眼的利益に注意を注ぎ、金銭に執着し、これら以外は、何事にも全く興味を持たないという有様だ。
彼の対抗候補は、当選した暁には、トランプ路線を否認し、世界に対する米国の指導力
を回復することを宣言している。しかし、最早この段に及び、それが可能だろうか? というのは、世界の大半の目は、ワシントン政府に対し賞賛や尊敬の念が一切なく、恐れと同情の眼差が注がれる中、一方、更に国内では多くのトランプの支持者並びに批判者達が共々に、「もはや後戻りできない」という点では見解の一致を見ているのだ。
「ワシントン政府は、嘗ての居心地の良かった諸前提に単純に後戻りすることは出来な
い」と論ずるのは、トランプ政権の元国家安全保障担当副補佐官のナデイア・シャドローだ。大国間の競争が不可避であり、多国間の協調行動に参画するのは、最早騙されやすい人々だけだ、と云う訳だ。
オバマ政権下で同じく国家安全保障の副補佐官を務めたベン・ローズも、また、嘗ての
自由で開かれた国際秩序は死んでしまった、という点で同意見だ。しかし、ワシントン政府がやるべきことは、同秩序の回復に務めるのではなく、寧ろ、偽善を避けつつ、どのような恩恵があるかを検証し、そして世界的な不平等格差に立ち向かいながら、従来よりも優れた新秩序を構築すべきだと、と主張する。
上述した観点にも関連し、警官によるジョージ・フロイド及び他米国黒人殺害事件後、
今春来発生した、人種差別に対する集団抗議の諸活動は、国家による過去の過ちに対する報いと共に、闘争への準備開始を象徴すするものだ、と今回の後半特集記事では説明される。ケイシャ・ブレインは、米国に於ける市民権を廻る戦いは、常に、人間の尊厳を擁護する為の国際的な闘争の一部であったことを示す。
また、スザンヌ・メトラーとロバート・リーバーマンは、米国民の価値信条を廻る、緊
迫した議論というものは、政治が分断化し、経済的格差が広がり、行政執行権限が強化されている、といった背景がある場合に、特により一層危険を孕んだものになると云う見解を展開する。
一方、少なくとも警察改革に関しては、米国人がそれらを採用する準備が整っているの
かという点に於いて、まだ殆ど確証がない状況とは云え、幸いなことに、我々が参考にすべき国際的な恰好のお手本が複数あることを、ローレンス・ラルフは指摘する。
「米国は偽りではない。それは失望である」と政治科学者のサミュエル・ハンテイント
ンは嘗て著述した。更に、「しかし、失望であるということは、反面、それは希望でもあるが為なのだ」とも。現在、我々が直面している難題とは、正にその希望の光を灯し続けることであろうと、私は考えている。
ギデオン・ローズ 編集長
(了)
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