著者:ナイリィー・ウッズ (NGAIRE WOODS)
肩書:オックスフォード大学国際経済学教授、兼同行政大学院教授
(論稿主旨)
トランプ第二次政権は、実に短期間の内に、第二次世界大戦以降の秩序形成に資した多くの国際規範を覆した。
即ち、ドナルド・トランプ大統領は、直ちに米国のNATOに於ける役割を見直す一方、米国の防衛義務に関し、欧州や日本向け、及び“ファイブアイズ”(Five Eyes)と呼ばれる五ケ国諜報協定(豪州、カナダ、ニュージーランド、英国、及び米国)をも疑問視し始めた。
国際連合に於いては、米国は露西亜(ロシア)及び、ベラルーシや北朝鮮等、嘗ての敵対諸国の肩を持つ一方、歴史的な民主主義同盟諸国のその殆どを相手に対立した。
これらに慌て対応余儀なくされた、欧州の高官達は、今後、彼らが独自の核抑止戦力を確保する必要があるだろうか、そして、ワシントン政府が引き続き米軍を欧州大陸に維持するだろうか、と自問し始める始末となった。
然し、此処(ここ)で重大事として指摘されるべきは、前述した安全保障政策の再考は、トランプ政権が国際的な諸条約、諸機関、そして経済諸機構を否定したのを意味するのみならず、抑々(そもそも)これら組織体制を今日の姿に築き上げるべく最大貢献したのが、取りも直さず、その米国だったことである。
それにも拘わらず、トランプが第二政権発足初日に仕出かしたのは、次々と大統領令を発布し、国連のパリ協定(気候変動枠組み条約)や世界保健機構(WHO)から脱退し、そして米国による海外援助補給物資を90日間差し止めることだった。2月初旬に彼は更に命じ、米国が所属する全ての国際機関、並びに「米国が関わる、全ての国際諸会議と諸条約」に就いて、6ケ月間の内に全面的に見直すよう指示した。
加え、尚一層過激な行動に走る可能性もある。つまり、第二次トランプ政権の青写真として、シンクタンク、ヘリテージ財団が作成した“2025年計画書”からは、トランプが採用を目論む多くの政策が読み取れるが、驚くべきことに同書には IMFと世界銀行からの米国脱退も提言されているのだ。この両機関こそは、世界の発展と国際経済安定の礎(いしずえ)として、外ならぬ米国自身がこれ迄数十年間に亘り堅固な統制力で牽引してきたものであるにも拘わらず、である。
これら諸事を以って、「戦後秩序が崩壊して行く」と結論付けるのは容易(たやす)い。確かにトランプ政権は、世界の指導者としての米国地位を放棄し、善意ある覇権に終止符を打つかに見える。強大な米国権力が不在になれば、混沌たる暗黒森林の世が来ると、歴史家ロバート・ケィガン等が論じている通りだ。即ち、トランプ政権の露骨な権力行使により国際情勢の安定が蝕ばれ、「米国、中国、露西亜及び、力に物云わせる他の輩が、自分たちの勢力範囲を切り取り放題」とする世界が出現する可能性がある。この場合、従前に比べ戦争は頻発し、嘗て米国の緊密な同盟諸国も、その所在が欧州か亜細亜かを問わず、剥き出しの抑圧に晒され得るのだ。
然し、その一方、この種の秩序崩壊が不可避と未だ決まった訳ではない。嘗ての秩序は姿を消すかも知れないが、その後に混沌と紛争の世界へ陥るか否かは、旧秩序が拠り処とした国際諸機関を、これ迄に支持して来た多くの非米諸国が取る、今後の行動如何に懸かっているのだ。
米国主導権を抜きにしても諸国家間協力を引き続き維持し、又、二国間相対協議を専ら試みるワシントン政府を牽制することすらも可能にする、多くのやり方が存在する。従い、米国以外の諸国家はこの道を模索すべきだ。然し、その実現に当たっては、欧州諸国、日本、並びに亜細亜やその他地域の友好諸国を含む、戦後秩序の核を構成した諸国が、米国の機先を制し一致団結し、互いにの協力関係強化を図る必要がある。更に、これら当事者達は、静観を決め込み悪戯(いたずら)に時間を空費する猶予を持たぬだろう。と云うのは、その間にも、一定数の盟友達が離脱して行く危険があるからだ。トランプ政権は、米国の欲する通り世界をリセットしようと迅速な行動を売りに、その目的の為には、長年確立されてきた多国間諸合意を簡単に無視することも辞さない。従い、我々、非米諸国は、同様の迅速さを以って、それら国際体制を守護し補強すべく行動することが求められる。何故なら、斯かる国際体制の存在が今程必要とされる時はないからだ。
( 第1章 了 )
文責:日向陸生
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