【投稿論文】『米国が、内に破綻しつつ手に入れた不思議な勝利 ~国内機能不全下に、米国が国際権力を保持可能な事態の解明~』(原典:The Strange Triumph of a Broken America ~Why Power Abroad Comes with Dysfunction at Home ~, Foreign Affairs, 2025年January/February号、P50-71)

著者: マイケル・ベックリー  (MICHAEL BECKLEY)

肩書: タフツ大学准教授(政治科学)、兼シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所非常勤上席研究員、兼シンクタンク、外交政策研究所、亜細亜計画部長、兼ニューヨーク市立大学シティー・カレッジ勤務。

 今や、米国が混乱状態に在ることはあらゆる事態が物語っている。国民の2/3は自国の進む軌道が誤っていると考え、略(ほぼ)7割の人々が景況は「良くない」或いは「貧しい」と回答した。政府は「信頼できる」と回答する人々が、2000年調査で40%を占めたのに対し、今日は僅か20%に半減した。国家に対する愛情も薄れ、愛国心が「とても重要である」と回答する米国人は、同じく2000年調査で70%だったが、今日、僅か38%に減じた。議会の二極化は、米国史上の「再建期」(Reconstruction:南北戦争後の南部諸州復帰策が実施された時期)以来の最高潮に達し、政治家が襲撃を受ける脅威は急増した。先般、大統領の椅子を再度目指した元米国大統領ドナルド・トランプは選挙キャンペーン中に二度の暗殺未遂事件に遭遇、結局、大衆から多くの票を獲得したが、その反面、米国人の多くは彼がファシストだと確信している。

斯かる中、一部の学者達は、今日の米国と嘗ての独逸(ドイツ)ワイマール共和制(同体制が後にナチス独逸へと変貌を遂げた)との類似点を比較し、又、他の学者達は、内部から腐敗が進んだ、ソヴィエト連邦崩壊末期の脆い長老支配体制に米国を準(なぞら)える。更に別の者達は、今や米国は内戦勃発の瀬戸際だと論じる始末だ。 

 然(しか)し、それにも拘わらず、米国のこの紛れもない機能不全は、驚くべきことに、米国権力に対し殆(ほとん)ど悪影響を与えず、同国は依然として強靭性を証し、更に複数の観点に於いて、寧ろ一層の増強すら果たしているのだ。

即ち、全世界に占める米国の富の比率は、1990年代の数値と現在も略(ほぼ)変わらない。又、エネルギー、金融、商品市場、及び技術と云った謂わば、国際経済活動の動脈に関し、その掌握の度合いは寧ろ強化された。更に、国際社会に於いて、米国は同盟諸国との関係を強化する一方、主要競合国たる中国と露西亜(ロシア)は次第に包囲されつつ在る。米国の高いインフレ率、巨額債務、及び生産性低迷は深刻な懸念には違いないものの、他の諸大国が、経済不振と歪(いびつ)な年齢別人口構成が相俟(あいま)う逆境に直面する事態に比較すれば、問題の程度は軽微だ。

正にこれこそが米国権力の矛盾なのだ。つまり、米国とは分断された国で、衰退軌道に在ると常に云われ続け乍(なが)ら、それでも、世界で最も裕福にして最大の権力を持つ国であり続け、これ迄(まで)一貫して競合諸国を寄せ付けない。

 斯様(かよう)に、一方で秩序を欠いた状態から、圧倒的支配力が生まれて来るのはどういう訳だろう? その答えは、広大な国土、成長軌道にある人口年齢構成比、及び非中央集権型政治体制と云う、米国固有の主要資産が、片や同時に、大きな負債をも造り出すからなのだ。

先ず、経済競争の面では、同国は謂わば、堅牢な城塞で、豊富な資源を蓄え、そして四方を海が囲んで他国からの侵略を妨げると同時に国際貿易には便が良い。又、競合諸国が人口減少に直面する中、米国では、高い水準の移民により労働人口の増加を享受する。更に、ワシントンでの議会政治停滞を物ともせず、同国の権力分散体制の下に、闊達な民間部門の活動は続行され、各種技術革新の実践が、競合他諸国に比べ遥かに迅速に行われる。これら構造的優位性によって、米国は、内には政治家達が些細な事象を巡り論争する間にも、他国より先んじて成果を挙げることが出来るのだ。

 然し、この海外に対する強味そのものが、他方で二つの主要な脆弱性を生み出す素(もと)になっている。

一つ目は、繫栄を謳歌する中心都市部と、片や低迷にもがき苦しむ地方部田舎(いなか)社会との分断を深め、経済格差が激甚化し、政治的二極化を一層加速させる問題だ。つまり、都市部は、国際化進行と移民により牽引される知的産業から大きな恩恵に益々浴するのに対し、多くの田舎地域では製造業と公共諸部門の雇用が減退し、発展から取り残され、都市部に対する怒りが醸成され、国家の一体感を揺るがしている。

二つ目は、外界から絶縁した地理的立地条件と蓄積された富のお陰で、米国は海外諸事象から孤立維持が可能だとの感覚が育(はぐく)まれ、その結果、軍備と外交能力の双方に対し過小投資が慢性化する。処(ところ)が、一方では、米国の絶大な国力、国民の多様性、そして民主主義的諸機関の存在と云う構成諸要素が影響し合う結果、海外に於ける一連の野心的諸利益を追求し、結局、米国は世界に乗り出して行くのだった。この「孤立主義」と「国際社会関与主義」との綱引きが行き着く処は、云わば“空虚な国際主義”とでも呼ぶべきもので、米国が国際舞台で指導力の発揮を試みるものの、往々にして、当初に期した目標の完全達成に必要な資源を欠いた儘(まま)、迂闊に頭を突っ込んで諸紛争を悪化させ、挙句の果て高い代償を払うのだった。

 上述したこれらの脆弱性――国内には分断と対外には戦略の破綻と――が共に合わさって自国の安定と安全を脅かし、米国権力に固有な特徴である“二重性”が様々な箇所に生み出される。即ち、経済繁栄と市民の生活破綻が並存し、比類ない物質的豊かさを誇る一方、軽薄な外交政策がそれを屡々(しばしば)浪費し、或いは、貿易と移民は国を富ませるものの、社会構造の中に緊張を生み、労働者社会を荒廃させる、等々である。

従い、米国の指導者に求められる資質とは、これら複数矛盾の舵取りを行うことだ。もし、米国が自国の諸野心と保有する諸資源との釣り合いを取り、国内の様々な分断に橋渡すことが出来たとしたら、同国の権力保持が可能なだけでなく、更に世界秩序の安定化に寄与するだろう。一方、さもなくば、既述したこの“米国権力の矛盾”が、ある日、米国崩壊のシナリオを招来し兼ねない。

他国を寄せ付けない米国の力  

 米国は依然として経済超大国で、全世界GDPに占める同国比率は26%で、この値は1990年代初頭、「米国一強時代」と呼ばれた時から不変だ。2008年時点では、米国とユーロ圏の経済規模は略(ほぼ)同等だったが、今日、米国がユーロ圏規模の2倍に拡大した。又、所謂グローバル・サウス諸国(アフリカ、南米、中東、南アジア、東南アジア)を全てすべて足し合わせたよりも、米国の方が尚、約1.3倍大きい。10年前の両者比較では、米国が1.1倍勝っていたので、差が寧ろ開いた。

更に、中国経済でさえも、今日のドル為替換算に基づき、米国のそれと比べると、縮小していることが判る。国際市場に於ける購買力を比較する際にドル建てが最も明瞭な尺度である。それにも拘わらず、問題は北京政府が自身の発表数字を盛る為、如何なる尺度を使おうと、中国の数字には阿(おもね)りの粉飾が含まれる。実は、中国経済規模は同国共産党が主張する程には大きくなく、殆(ほとん)ど成長していないのが現実だ。この経済環境が如何に憂鬱なものであるかは、その市民達が取った行動からも裏付けられる。

つまり、斯かる景況への不満を、彼らは資金逃避と亡命と云う態度で示し、中国市民が違法に国外に移した資産は、2021年から2024年の間で何千億ドルにも上り、同時に、この間、米国南部国境を渡る中国人の移民集団が急増、つまり、その人数が4年で50倍に膨れ当たったのだった。

 又、米国は、人口一人当たりの富の尺度でも他に抜きん出る。1995年時当時、日本国民は米国民よりも、平均50%より豊かだった(現在のドルレートで換算)。然し、今日、米国民が日本より140%豊かと逆転した。その結果、もし今、日本を米国の一州と仮定して平均賃金を比較すれば、米国最貧のミシシッピー州にも届かず、日本は最下位の地位に甘んじる。この状況は、仏国、独逸(ドイツ)、及び英国にも当て嵌まるのだ。

1990年から2019年の間に、米国家計収入の中央値は55%上昇し(税金支払い、所得移転後、及びインフレ調整済)、特に、母集団の2割を占める最下位層集団の所得は74%増加した。

大半の経済諸大国はコロナ感染症蔓延以来、賃金低下に見舞われたのに対し、米国実質賃金は上昇を維持し、2020年から2024年に掛け、0.9%と細(ささ)やか乍(ながら)ら回復を見た。多くの米国人、特に借家人や株式資産を持たない一般市民は、恒常的に高止まりしている住宅費用と食料価格に直面し、暮らしが悪化したと感じているとは云え、それでも、コロナ感染蔓延当時に比べ大多数の人々はより豊かになっており、特に、低所得労働者に於いては特に強い所得回復が見られた。つまり、2019年以降は、10分位による最下層所得集団の賃金は上昇し、その成長速度は中間所得層に比べて4倍、又、同分位の最高額層の集団に比べると、成長速度は10倍に至り、この結果、過去40年間に蓄積した賃金格差の内、1/3を巻き返し差の縮小に寄与したのだった。

今日、米国のミレニアル世代(2000年以降に成人を迎えた人々)は、ひと世代前の同じ年齢の人々に比較し、凡そ平均1万ドル(インフレ率調整後)余分に稼ぎ、更に持ち家を入手する人も増えている。

更に、米国中間層家計を、全世界の所得者集団の中で見ると、その多くは最も裕福な上位1~2%に位置しているのだ。

 この個人の富と非常に大きい同国経済規模の組み合わせこそが米国を多国と画したのだ。中国やインドとも(両国は人口が多いが貧しい)、或いは日本や欧州諸国とも(これらは豊かだが国が小さい)と異なるのは、米国がその巨大な規模と効率性とを兼ね備えることにより、他国を寄せ付けない物質的権勢を生み出した点だ。規模に頼るだけでは、譬(たと)え巨大な量を生産しても、一人当たりの高い生産性が伴わない場合には、産出物の大半が国内で消費される結果、国際的影響力を与えるに必要な余剰量が残らない。これは歴史が証する通りだ。19世紀、中国は世界最大の人口と経済を擁し、露西亜は欧州最大の国家だったが、両国共が、独逸、日本、そして英国等のより効率的な権力国家によって打ち負かされたのだった。

 米国は諸事経済的弱点を持つが、他の主要経済大国が抱える諸問題に比較すれば深刻度が少ない。例えば、“全要素生産性”(労働、資本、及び技術等、諸資源全を投じ、一国が如何に効率的に生産へと変じるかの尺度)に注目すると、米国に於いて成長は過去10年低迷しているものの、尚、プラスの値を維持する中、中国や欧州諸国ではマイナス値である(経済調査機関“全米産業審議会(The Conference Board)”調査による)。

又、米国の債務総額は巨額で、政府、家計、及び企業部門合計で、2024年にはGDP比率255%に上り、連邦債務利払いが連邦予算に占める比率は14%に増加し、今や防衛費の同比率18%に迫る勢いだ。それでも、米国債務は、先進経済諸国の平均値を継続的に下回る上、況してや対GDP債務比率が300%を越えて膨張を続ける中国より遥かに良好で、米国の同比率はピークとなった2021年から12%縮小した。これに対し、他の主要経済諸大国では負債負担が増大し続けているのだ。

 米国は、軍事同盟強化に加え、金融システム、エネルギー市場、消費者市場、及び技術開発と云った分野へ支配拡大することで、他諸国が活動展開する諸領域内を仕切る仕組みそのものを形成する力量を増加させた。典型例が“ドル”の影響力である。今や、世界の央銀行は外貨準備高の6割をドルで保有し――同比率は2004年の68%から低価したとはい云え、尚1995年当時の水準を維持する。国境を跨いた銀行負債、並びに外貨建借入金の双方共、その凡そ7割にドルが使われ――この比率は2004年より上昇――更に、全世界の外貨取引の9割をドルが占める。これらドルの支配的地位を活用すれば、ワシントン政府は制裁発動、安価な費用での借り入れ確保、更には他国の運命を自国と一体化することも自在なのだ。つまり、海外諸政府が巨額のドル建て外貨準備を保持する状況は、「彼ら自身の経済的繁栄が健全な米国経済によって支えられる」と云う仕組みの中に効果的に固定化され、この為に、米国に対し自国通貨切り下げや経済制裁策は、結局自身の外貨準備棄損に跳ね返るので発動が躊躇されるのだった。

 米国の国際影響力を一層高めたのが、自国エネルギー転換策だ。嘗て米国は、世界最大のエネルギー輸入国であったが、今や、露西亜やサウジアラビアをも凌ぐ、石油と天然ガスの主導的生産国へと変じた。同時に、米国はエネルギー効率化と再生可能技術を導入した結果、国民一人当たりの二酸化炭素排出量は1910年代以来、例を見ない程の低水準迄、削減を成し遂げた。

このエネルギーブームが寄与し、米国の石油と天然ガスは、国際紛争の際にも、低価に安定した。例えば、現在、欧州企業は、米国に比し2~3倍高い電力代を支払い、4~5倍高い天然ガスを購入し、この為、一部海外企業が俄かに米国へ移転する事態が発出している。

米国のエネルギー生産は、自国のみならず、その同盟諸国をも海外の威圧から遮蔽するのに貢献した。例えば、露西亜によるウクライナ侵攻後には、露西亜にエネルギー供給を重度に依存する欧州に対し、米国は自国の石油と天然ガスを送り不足分を贖(あがな)うべく助けたのだった。又、中国とユーロ圏とを合わせた規模に匹敵する、米国市場の巨大さは、海外企業や政府が世界で最も儲かる収益源への参加権利を閉ざされぬ為には、米国の貿易政策を支持せざるを得ぬとの圧力になるのだった。

 又、国際的技術開発に於ける米国の優位性が構造的強味を一層強靭化する。世界のハイテク産業の全利益の内、半分は米国諸企業によって稼ぎ出され、中国諸企業が占める比率は僅か6%に過ぎない。この技術革新に勝ることにより、米国諸企業がサプライチェーンに於いて極めて重要な地位を確保し、先に中国向け半導体輸出を多国間で協調し制限を掛けたように、ワシントン政府が供給網自体を絞る選択肢をも可能とするのだ。

これに加え、米国は軍事同盟を拡大し、競合諸国を包囲する能力とユーラシア大陸を網羅する展開力を強化させた。NATOはフィンランドとスウェーデンを加盟国に招じ入れ、一方、印度太平洋に於いては米英豪同盟(AUKUS)を主導し、又、日米豪印戦略対話(Quad)を立ち上げ豪州、印度、及び日本との間の連携強化を図った。更に、一時は緊張化した日韓や米国とフィリピンとの関係は改善され、防衛協力及び米軍基地へのアクセスが一段と拡大する素地を作りつつある。

 成長持続性の秘密

 批評家達は、米国が謂わば砂上の楼閣で、基礎に腐敗が進行するのを覆い隠し、その上に高い塔を築くに等しい、と非難する。つまり、彼らの指摘は、政府の膠着状態、国民の政府に対する信頼劣化、更に社会分断が、市民社会の根底に走るその亀裂を一層深め、遂には、米国の富と権力を支える支柱は不可避的に崩壊に至るだろうと、云う訳だ。

 然し「国内の争乱状態が必ずしも地政学的権力の衰退に直結しない」点は米国史が物語る。これ迄、実際、米国は内政危機から屡々(しばしば)復活して来た。南北戦争の後、再建時代(Reconstruction)と産業ブームが出現した。1890年代の経済危機の後、米国は世界の大国に仲間入りした。世界恐慌後に、ニューディール政策を振興させた。そして、第二次世界大戦後に、“米国の世紀”と呼ばれる先例ない米国優位時代の始まりを刻した。1970年代、スタグフレーション、社会騒乱、及びベトナム戦争やイランでの敗北に代表される閉塞感が去った後には、結局、経済と軍事力が復活し、冷戦の勝利を手にし、更に、1990年代のハイテク・ブームへと展開した。今世紀初頭には、アフガニスタンとイラクの悲劇的戦争及び大不況も相俟って、米国は衰退するとの予想が広がった。処(ところ)が、その20年後に、再び“米国の世紀”が始まったのだった。

 米国権力が保持する、この摩訶不思議な靭性の秘密は、幾つかの構造的な強みの中に見出されるだろう。先ず地理の観点から、米国は経済の拠点にして且つ軍事的要塞でもある。それは豊富な資源を誇り、航行可能な河川と深水十分な港に多く恵まれる。これら特徴は製造費用を安く押さえると共に、巨大な国内市場を相互に繋ぎ合わせ、又、洋上の回廊によって亜細亜(アジア)の最も裕福な地域や欧州へ連結すると同時に、それが濠の役を果たした。

この地理的遮蔽性のお陰で、米国は海外の脅威から守られ、軍隊が外地で動き回る余地を生む一方、同国が“安全な楽園”である点は世界に周知された。その結果、2008年の金融危機時の如く、譬(たと)え、その震源が米国に在ったにも拘わらず、国際的危機が生じると、資金が米国へ流れ込む傾向を生んだ。

 又、米国は、海外の科学者、技術者、及び起業家達を魅了し、これら人的資源を毎年何千人規模で惹き付ける。低技能移民労働者の入国は、一部業界で賃金低下を招いたが、一方、小売、フードサービス産業、農業、及び健康医療サービス等の必須業界に対し必要な人員を補給することを通じて、万が一、供給網障害や公衆衛生危機に瀕した際、これら諸分野の活動維持に彼らが寄与した事実を忘れてはならない。 

更に、高い出生率と相俟って、年間平均百万人を超える移民流入の存在により、米国は、労働最盛年齢人口が今世紀を通じ持続的に成長すると予想される、唯一の大国だ。対照的に、他の諸大国は急激な人口減少に将来直面する。中国の25歳から49歳の労働者人口は今世紀末迄に74%もの減少、独逸(ドイツ)は同23%、印度(インド)は同23%、日本は同44%、そして露西亜(ロシア)も同27%減が見込まれるのだ。

 米国政治システムは、往々にして行き詰まるように見える。然し、連邦政府、各州、そしてそれぞれ地域社会への権限委譲を特徴とする、非中央集権型構造は、中国、日本、露西亜及び英国に比べ、より高い教育を受けた米国労働力を一層強化することが出来るのだ。他の殆どの自由民主主義国は、民主主義確立の前に、先ず強大な国家を発展させた歴史を持つ。然し、米国は、先ず民主国家として誕生し、その後、1880年代になり初めて近代官僚制度を築き始めた。斯くして、自由を極大化し、政府は限定するように設計された、米国憲法制度は、国家権限を制限しつつ、商業の隆盛を誘導して来た。主要メディアは大統領選挙にばかり注目し、米国地方経済と民間部門の活性力を見過ごす傾向がある。

即ち、米国は、技術革新に於ける国際順位を、最高乃至それに準ずる位置に常に維持し、更に、事業着手に際し、所要諸手続きや資産登録、或いは契約実効迄に要する時間が、欧州諸国に比べ約半分で済む。その結果、米国人が迅速に起業すること、仏国、独逸、伊太利亜、日本、及び露西亜に比べ2から3倍、中国や英国に比しても1.5倍の速度で行えるのだ。

米国人労働者は、独逸人より25%長く就労し、時間当たり生産性は日本人労働者より4割勝り、更に、雇用と解雇をより頻繁且つ生産的に行う点に於いて、他の主要労働力より優れる。この各産業で高い順応性を持つ労働市場が危機からの回復に寄与する。現に、米国失業率は、2022年のコロナ感染症蔓延以前の水準に回復し――低失業率がこれ程長く持続した例は1960年代以降初めて――片や、G20加盟諸国の平均失業率は尚も7%近傍に留まっている。

 米国の非中央集権型制度は、業界を通じ技術革新の採用と規模拡大を推進するのに優れる。実は、この特徴こそが、長期成長維持の観点からは、発明そのものより一層重要な能力だ。他の先進諸国に比べ、米国の各地域では――実業界を例に取れば――中央政府の諸禁止事項によって課される制約が極めて少ない。つまり、連邦政府の出先機関は、広範に諸規制を設定するものの、各州が地域事情に応じ、それらを調整するのを認め、其処(そこ)では、様々に異なる手法が駆使され、投資を巡る競争が生じる。その結果、成功した諸発案が素早く拡散する傾向に在る。この技術伝播の優位性は、世界の5割を占めると云われる、米国の懐深いベンチャーキャピタル市場によって下支えされる。更に、世界上位10大学の内、7つ、そして上位200大学の内その1/4が米国に存する環境を利し、実業界と大学の緊密な共同体制が、この生態系を一層強化するのだ。

  政治科学者ジェフリー・ディングは指摘する。米国は自身が持つダイナミックな体系のお陰で、「新発明の技術から恩恵を受けること、その度合いは当の発明国よりも常に優ったのだ」と。つまり、第一次産業革命の際、英国が蒸気機関を発明するが、米国はこれを、様々な工場、鉄道、そして農業へとより集中的に応用し、それらは所謂“アメリカ方式”による大量生産を生み、同モデルによって牽引された米国経済が1870年代、遂に英国を抜き去った。又、第二次産業革命時、化学分野の研究を主導したのは独逸(ドイツ)だったが、米国は化学工業部門に秀で、それら諸進歩が、石油、金属工業、及び食品加工等、諸産業へ横断的に応用された。その結果、1870年から1913年に掛け、米国経済の成長速度は独逸より60%も早く、第一次大戦開戦前夜の段階で、その経済規模が独逸の2.6倍に達した。更に、冷戦期、ソヴィエト連邦が投じた研究開発費は、GDP比率で米国を凌ぎ、又、雇用する科学者と技術者の数は米国の2倍に及んだ。然し、巨大化した共産主義制度の下に諸資源は流出し、発展が阻害された。斯くして、1980年代迄には、ソヴィエトが、年間僅か数千台のコンピュータを製造するのが精々であったのに対し、米国企業の製造台数は既に何百万に上り、片やアナログ時代に藻掻(もが)くライバル国を尻目に、デジタル革命を先導して行った。

同様に、日本は半導体と消費家電分野をリードしたが、米国はこれら諸技術を広範な産業分野で統合させ、1990年代、日本の生産性が停滞したのに対し、米国はその大きな向上を遂げた。

 今日、米国は、技術革新の点に於いても、他国にリードを広げる。米国が稀に産業政策を実施する場合も、例えば、半導体や再生可能エネルギーに於ける最近の投資事例に見る通り、直接指導するよりは、インセンティブによる誘導や官民連携方式を取るのが一般的である。この為、新しい諸発見や新技術が諸分野を横断し有機的に拡散する。

これと対照的に、中国式の補助金主導型の、独裁体制モデルでは、経済を通じて生産性は改善されることなく、寧ろ、技術革新は孤立した領域内に滞留するのだ。

中国の場合、電気自動車や風力発電と云った、国際的に重要だと“政府”が判断した分野に優先便宜が図られる。然し、これら両部門のDGP比率は全体の僅か3.5%に止まり、主力を占める、肥大化した不動産と建設部門(これらの対DGP比率は凡そ3割)に於ける落ち込みを挽回するには程遠い。現に2021年以降、家計部門の資産価値が下落し、実に18兆ドルが消し飛ぶ事態に及んでいる。更に、中国ハイテク産業は、近年、何百万人もの大学卒業者に対し、十分な職を提供出来ぬ結果、現在、若者達の約5人に一人が失業中だ。

 中国が進める補助金頼みの経済モデルに伴う費用は莫大だ。電気自動車業界だけで、2009年以降、政府から受けた補助金額は2千3百億ドルに上り、同業界の上げる収益の内、極めて大きい割合を構成する。この補助金支出は確かに、政治的強いパイプを有する特定諸企業を復活させはしたが、その一方、民間の富を流出させ、消費を抑圧し、過剰供給能力、債務、そして汚職を増幅させた。然も、これらは、全て、本来、中国国民へ向けられるべき投資、殊(こと)、教育と健康医療分野の犠牲と引き換えになされたものだ。

 中国地方部には、全人口の半分近い人々が暮らすが、この点を無視した策により、凡そ3億人の市民が、近代経済社会に就労する為に欠かせない教育や技量を身に付ける機会を奪われた、と経済学者スコット・ロジールは指摘する。雁字搦(がんじがら)めの諸規制の存在と政治による抑圧的取締りとが相俟って、技術革新は一層制限され、新規起業案件数は、2018年の5万件から2023年には僅か1200件に激減している。斯様に、中国のハイテク産業収益が、米国のそれに比べて未だ遥かに少ない事実は、央集権型経済モデルの限界を如実に現わすものだ。

(次章以下の翻訳は順次掲載予定)

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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