【投稿論文】『永遠に戦争を止めないイスラエル ~紛争解決の意思がなく、紛争を管理し続ける同国の歴史的体質~』(原典:Israel’s Forever War ~The Long History of Managing―Rather Than Solving―the Conflict~, Foreign Affairs 2024年5月・6月号、P110-124)

著者/肩書:トム・セゲフ(TOM SEGEV)/  イスラエル人歴史家

(論稿主旨)

 2023年10月7日は、イスラエル人にとり建国以来75年の歴史上最悪の日になった。僅か一日で、これ程大勢の人々が虐殺され人質に取られた事はなかった。重装備のハマス戦闘員、数千人が城塞化されたガザ地区境界壁を突破しイスラエル側へ侵入、数時間に亘わたり一方的狼藉を働き、多数の村々を破壊、イスラエル軍が秩序回復に至る迄の間、悍(おぞ)ましい残虐行為を続けた。イスラエル人はこの攻撃がホロコーストに匹敵するとし、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスを“新ナチス”と呼んだ。怒りと報復に駆られたイスラエル国防軍は、対抗措置として、ガザ地区に対し無際限の軍事侵攻を開始、ネタニヤフ首相は“完全なる勝利”を手にする迄イスラエル軍が戦う旨を約した。然し、この言葉が現実に何を意味するか、彼の配下の軍部にすら知る者はなかった。戦闘が止んだ後に如何なる事態になるか、ネタニヤフから明確な事前説明は一切ない。彼は「ガザ全域及びヨルダン川西岸地区の安全保障をイスラエルが担わねばならない」と唯(ただ)断言するのみだった。

 一方、パレスチナ人にとっても、今般のガザ戦争はこの75年来最悪の出来事だ。即ち、これ程に多くの人々が殺害され土地を追われたのは、1948年のイスラエル独立戦争時に生じた、所謂「ナクバ(nakba)」と呼び伝えられる、何十万人ものパレスチナ人が自分達の家屋放擲を強いられ、難民化した悲劇以来、経験ない事態だ。イスラエル人同様に、パレスチナ人も今回恐ろしい暴力行為が為されたと指摘した。即ち、今年3月末時点で、何万ものパレスチナ人生命がイスラエル軍攻撃で奪われ、その犠牲者に何千人もの子供が含まれ、更に住み家を失った人々は優に百万人を超えた。このイスラエル攻撃の狙いは、パレスチナ人にガザを放棄させ、全てのパレスチナ領土をユダヤ人国家に組み入れると云う一大計画の一環と位置付けられ、パレスチナ人もその意図を理解している(実際、同方針はネタニヤフ政権内の一部閣僚達が発案したものだ)。その一方、パレスチナ人達は、やがてガザに復帰出来ると云う幻想に依然固執もする。つまり、何時の日にか、由緒ある彼らの故国をイスラエル領内に取り戻す時が来ると云う信条だ。之はパレスチナ版シオニズムの一種と云えるものだが、イスラエルの過激派が描く野望が実現不可能であるのと同様、パレスチナのこの幻影も又、日の目を見る事は決してないのだ。

 現実には、シオニスト達がパレスチナにユダヤ人国家を建国する案を思いついた19世紀後半以来、ユダヤ人と之に対するアラブ人、双方側指導者達が共に、全てを包含する解決策を得るのは殆ど不可能である事は既に見抜いている。1919年と云う早い段階に於いて、ダヴィッド・ベン=グリオン(将来の初代イスラエル首相)は、パレスチナに平和が訪れる事はないと悟っていた。即ち、彼の見立てでは、ユダヤ人とアラブ人が共に彼ら自身の土地領有を主張し、お互いが自分達の国である事を譲らない。即ち「双方の間には深い谷が存在し、何人も之を埋める事は出来ない」事態なのだ。そして、彼が至ったのは「不可避な闘争に対し、最大限出来るのは、それを管理する――即ち特定範囲内に収める、又は限定し管理するのが多分精一杯で、最終的解決は期待できない」と云う結論だった。

 今回10月7日襲撃以来の数ケ月間、ネタニヤフを批判する者達は「彼が問題終結を後回しにして、紛争を管理しようとした」点を糾弾した。其処には、彼の従来諸対応がハマスを増長させ、又、アラブ諸国との国交正常化条約推進策はパレスチナ問題を脇へ追いやった背景があった。然し、こうした非難は、これ迄の歴史を読み違えたものだ。ネタニヤフがユダヤ人とアラブ人分断の元となる諸難題の解決を回避した事が、彼の重大な失敗なのではない。それらを回避する仕方が過去1900年代の如何なる者達に比べて、最も無能たった為、類を見ない悲劇的結果が伴ったに過ぎない。現にこれ迄、何れの陣営、及び彼らを代弁する国際仲介者達にとっても、“紛争管理”こそが正に唯一現実的選択肢で在ったと云うのが真実だ。抑々(そもそも)事の発端からして、この紛争は決定的利害得失や計算された諸戦略を巡る争いではない。寧ろ、常に宗教と神話――然も暴力的原理主義と救世主待望論に基づく偏見、夢物語や象徴といった物に常に支配され続けて来たのだ。斯かる不条理な紛争の本質こそが、決して問題解決を見ない原因だ。世界の指導者達は、今後も永続するその不合理な現実に向き合う事によってのみ、在りもしない将来解決策を空しく協議する代わりに、現実に即し緊急行動が求められる、この危機的状況に正しく対応する第一歩を踏み出す事が出来る。

(次章以降順次掲載)

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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