【投稿論文】『国際法の縛りから逃れつつある戦争 ~ガザ紛争とウクライナ戦争で露呈した国際法の限界~』(原典:War Unbound ~Gaza, Ukrine, and the Breakdown of International Law~, Foreign Affairs 2024年5月・6月号、P84-96)

著者/肩書:オーナ・A.ハサウェイ(OONA A. HATHWAY)/ イエール大学法学校教授

(論稿主旨)

 ハマスによるイスラエル攻撃と、之に応じたイスラエルの反撃は民間人に悲劇を招いた。10月7日、その虐殺でハマスは、婦女子老人を含む、無防備のイスラエル市民を見つけ出し、1200名余りを殺害し約240名を人質に連れ去った。これに続きイスラエルはガザを空爆、地上侵攻を実施し、3万人以上を殺害(2024年3月時点)、内2/3は女性と子供達だった。このイスラエル攻撃によって、凡そ2百万人(ガザ人口の85%以上に相当)が移転を余儀なくされ、残された百万人以上の人々は飢餓の危険に瀕し、15万件以上の民間建築物が破壊された。今日、ガザ北部に機能する病院は最早存在しない。一方、イスラエル内のハマス勢力は民間建物を隠れ蓑に、同施設内或いはその地下のトンネル内で活動を続けるが、恐らくそれは、同諸施設が国際法により軍事攻撃の対象外と見做されるのを狙っての事なのだ。

 国際人道法、別称、戦争法又は武力紛争法の目的は、民間人を紛争時の最悪事態から隔離する事だ。同法の主旨は今日に於いても極めて明白だ。即ち「市民が戦闘に巻き込まれず、危害を受けずに保護され、且つ人道支援の提供を妨げられぬ」事だ。処が今般、イスラエル-ハマス紛争に於いて戦争法が機能しない。ハマスは依然人質を解放せぬ一方、学校、病院、その他民生施設を隠れ蓑に自身の拠点とし、片やイスラエルは、人口密集地帯に徹底攻撃を仕掛けた上、本来必要不可欠な救援物資の補給線を停滞させた。その結果、市民達は完全に荒廃したガザに取り残されている。

 今回のガザ紛争は、戦争法が破綻した一つの極端な事例と云えるが、この事態は突如発した訳ではない。少なくとも9/11以降、殊(こと)米国が主導した“テロとの戦い”に始まり、シリア内戦、そして露西亜(ロシア)のウクライナ侵攻に至る迄、この長期に亘り生じた一連の諸戦争が、民間人保護の概念を徐々に毀損して行ったのだ。この悲しき性を見れば、第二次世界大戦以降、各国政府が大変な尽力を注ぎ漸く法制化に漕ぎ付けた、人道的保護諸策は、今日に於いては、最早、物の役に立たなくなったと結論付けたい思いにも駆られるだろう。然し、それは間違いだ。国際人道法の体系に綻びが出始めたのは事実としても、同法体系の存在のお陰で、諸紛争の中にも、より多くの人道的配慮が維持され得るのだ。現実に、屡々(しばしば)発生する、全ての戦争犯罪行為に対し、法的保護の存在こそが、交戦主体に対し、民間人死傷者に歯止めを掛け、非戦闘員達に安全地帯を提供せしめ、更に人道支援物資を確保させるべく、持続的に圧力を掛ける効果を発揮するのだ。何故なら、交戦者達は、これらを破れば国際的に処罰される事を知っているからだ。

 第二次世界大戦で辛酸を嘗めた米国及び同盟諸国は、1949年に第四次ジュネーブ条約を採択し、戦争遂行に際し遵守されるべき諸規則を詳細に定めた。斯様に、重い歴史の産物として発展を遂げて来た、この戦争法の有効性が厳しく問われる中、9/11以来、寧ろその弱体化に寄与して来た米国自身が、今こそ、自ら同諸法の刷新と強化への行動を取るべき時なのだ。

(次章以下順次掲載)

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は一切AI機能不使用です。

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