著者/肩書:エリザベス・エコノミー(ELIZABETH ECONOMY)/フーバー研究所上席研究員。元米国商務省中国担当顧問(在任2021-2023年)
(論稿主旨)
中国主席、習近平が世界を造り変える野望を抱く事は今や疑う余地がない。彼の望みはワシントン政府が保持する同盟諸国網を解体させ、“西欧”御都合主義として彼が非難する、価値観を国際諸機関から排除する事だ。更に、国際基軸通貨としての米国ドル本位制を破損させ、重要先端技術の中国移転を抑え込む米国の動きを終わらせようと目論む。では、習が構想する世界は如何なる物か。それは、共同安全保障体制から経済発展、更には、政治上の諸権利に関する中国価値観、並びに同国諸技術開発に至る迄、これら全ての分野に亘り、“中国が奉じる思想を土台として、国際諸機関と国際諸規範が設定される、新しい多極軸の秩序”である。もしこうなれば、中国は最早(もはや)主導権を争う必要もない。その時、世界の中心に中国が座す状態が、既に保障されたに等しいからだ。
習の演説を聞く限り、斯かる世界の実現は既に手の届く範囲に在るようだ。昨年12月に開催された中央外事工作会議に、彼は豪語し曰く、「中国は、今や自信に溢れ、独立の歩を進め、開かれた、そして多様性を包容する大国である。世界最大規模の国際協力基盤の創出に既に成功した我が国は、国際秩序の再構築を主導して行く立場だのだ」と(政府報道機関発表による)。演説では、彼が抱く国際秩序の概念が特に強調された。曰く、「“未来を共に共有する人類達の共同体”と銘打ったその構想は、“中国の国際取組指針”に始まり、やがてそれが“国際合意”へと進化を遂げ、今や四つ中国取組諸計画の推進を通じ実現されつつあるのだ」と(四つの計画:一帯一路構想、国際開発構想、国際安全保障構想、及び国際文明構想。それぞれ、2013年、2021年、2022年、並びに2023年発表)。
然し、この演説は、世間一般では、米国高官達を含め、概ね無視されるか軽視された。と云うのも、その内容が余りに尊大で自画自賛の公式声明だった為、例により北京政府の過大宣伝戦略と見做され、内容は相当割り引いて理解されたのだ。斯かる解釈がなされたのも頷ける面が在る。と云うのは、多くの中国構想諸計画は不首尾、或いは裏目に出ているように見受けられ、同国経済自体も目下、停滞に見舞われているからだ。又、闘争的な“戦狼”外交姿勢は習を個人的に満足させたにせよ、海外友好国諸国を獲得するには至らなかった。又、中国が世界的に不人気な事実を世論調査も裏付ける。中国と米国に対する好感度に関し、ピュー・リサーチ社は、2023年世界六大陸24ケ国を対象にある研究を実施した。その結果、中国を好ましく思う人々は回答者の28%に過ぎず、更に同国が世界平和に貢献していると回答したのは23%に止まった。一方、60%の回答者が米国を好ましく思い、更に61%の人々が米国は世界平和と安定に対し貢献すると答えた。
然し、習の抱く構想は、実は見掛けより、遥かに手強い物と認識すべきだ。即ち、中国からの諸提案が多くの国々に影響力を与える事が出来るのは、それら諸国が現行国際秩序から疎外され、不満が高じている背景が在るからなのだ。それに止まらず、習の構想は、ワシントン政府が有用な国際的諸役割を以って便宜を提供している国々にとっても、又、受け入れ可能なものなのだ。それは何故か。我々が最も留意すべきは、北京政府が推進する諸構想は、包括的にして、諸資源が惜しみなく注ぎ込まれた、一つの確固たる原則に基づく戦略に支えられて居り、この戦略が奏功し、今やあらゆる国々の政府と国民に同策略の目玉とする諸目論みが浸透していると云う事態である。つまり、北京政府は、これら技法を駆使し、特に多国間で構成される国際諸機構の内部や非民主主義主国家から新たな賛同者を得る事に成功した。そして、中国は、自らを変革推進の旗頭とする一方、米国を少数諸国家からしか支持を得ない既存制度の番人の立場に仕立ててしまったのだ。
米国政治家達は、中国の手法を軽んずるのではなく、寧ろ取り入れるべきだ。長期戦が不可避な米中競合に勝利するには、中国の問題提起する、その地殻変動を自身でも把握する必要がある。即ち、ワシントン政府は、国際秩序の改善、更には同秩序下で米国が果たす役割に関し、独自構想を明確に表明し且つ精力的に推し進めるべきなのだ。そして、この修正された秩序下には経済規模や政治体制の違いを越え、多様な諸国を包含すべきだ。又、中国が行うと同様、米国も投資を積極的に推進する必要があり、その対象分野は技術と軍事のみならず、国内安全保障増進と海外指導力発揮の為には、外交の基盤拡充へ厚く資源を投ずべきだ。
但し、我が国が、この競争に従事するとの腹を括る一方で、当面の米中二国間関係に就いては、寧ろ之を安定させる事こそが、米国の最終目標達成の観点から、その妨げになる処か、寄与する点を米国政治家達は心得る必要が在る。即ち、ジョー・バイデン大統領と習主席は、昨年開催された、両名首脳会談を足場として更に強化し、反中国的言動の煽動拡散を防ぎつつ、より機能的な外交関係創出を推進すべきなのだ。そうする事で、米国はより重要な課題に集中出来きる。つまり、今後長期間に及ぶ競合を戦い、そして最後に勝利する事を可能ならしめるだろう。
(次章以降順次掲載)
文責:日向陸生
*尚、当ブログ翻訳文章は一切AI機能不使用です。
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