【一般論稿】『核脅威の時代を生き抜く ~核拡散と核使用自制劣化の進む世界に追求すべき国家安全保障策を考察する~』(原典:How to Survive the New Nuclear Age ~National Security in a World of Proliferating Risks and Eroding Constraints~, Foreign Affairs 2025, July/August 号、P122-139)

筆者:ヴィピン・ナロン、プラネイ・ヴァーディ共著 (Vipin Narang & Pranay Vaddi)

肩書: 前者は、マサチューセッツ工科大学教授(政治科学、核安全保障)、兼、同学内核安全保障政策センター部長。又、バイデン政権内で国防次官補(宇宙政策)勤務。後者は、核安全保障政策センター(マサチューセッツ工科大学内)上席研究員。国家安全保障会議メンバー(軍事力管理、軍縮、核不拡散問題)勤務(2022-25年)。

(論稿主旨)

 2009年に米国大統領バラック・オバマが執務開始した頃、核兵器は過剰に存在しているとの現実が次第に見え始めた。冷戦が歴史の中に埋もれ行くに従い、世界の二大核超大国の露西亜と米国は互いの軍縮協議に長年従事していた。

同時に、アフガニスタンやイラク、更に広範な「テロとの戦争」に於ける通常兵器戦争が長年尾を曳いた結果、米国防衛関係の有力者達は、テロ対策と反乱鎮圧作戦で手一杯となり、“核戦略”や“大国との競争”に時間を割く余裕がなかった。

更に「どこかの国が、露西亜と米国に均衡し得る規模の核配備に向かう」との見解は、いよいよ非現実的になり、これを以って渡りに舟とばかりに米国指導者達は、高額を要する兵器修繕計画を喜んで延期した。 

核兵器が前時代の遺物であるとの合意は大層強固なものとなり、嘗ての米国高官のトップだった4人、ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ウィリアム・ペリー及びサム・ナン――この内、ハト派は一人もいない――全員が「“核兵器が世界の脅威”になる時代は終わった」と挙(こぞ)って公式宣言した。

  然し、それから15年後、環境は想像を絶する変化を遂げた。つまり、現在、米国はカテゴリー5のハリケーンに相当する核の脅威に直面しているのだ。

米国が数十年間、核能力を最小限度に維持する間に、中国は、2019年時点の保有核弾頭数300発を2035年迄に略(ほぼ)4倍にするペースで増産中、露西亜と米国に伍する兵器数を獲得する野望の追求途上にある。

露西亜は、嘗ての米国の“軍縮協議のパートナー”から程遠い存在になり果て、今日、ウクライナ侵攻の盾として、核兵器使用を威嚇に利用する。

一方、北朝鮮は兵器開発を継続し、今や、ミサイルは米国本土をも射程に捉える。イランは核兵器製造へ嘗て例のない程近づいている。そして、今年5月、共に核保有する、印度とパキスタンが、テロ襲撃を発端に、互いが本土を通常兵器攻撃する事態に発展したのを世界は目撃した。この衝突自体が既に前例を見なかったのに加え、この紛争が核戦争へエスカレートしたとしても不思議はなかったのだ。

 上述した拡大する諸脅威は、核戦略を米国防上の重大事案に再度格上げしたに止まらない。これにより新たな問題が生じている。つまり、核武装した多数の競合諸大国からの脅威に対し、然もこれらを同時に抑止して同盟諸国を防衛すると云う芸当は、米国自身も過去に例を見ない未知の領域なのだ。

露西亜に倣い、中国と北朝鮮両国が共に核戦力を攻撃計画に織り込んで、非核周辺諸国に対し核の威嚇を背景に通常兵器による侵攻実施を容易化させる可能性が大いにある。

加え、2ケ国又はそれ以上の核保有国――例えば中国と露西亜、或いは北朝鮮と露西亜――が彼らの周辺国に対し同時軍事侵攻を試みる可能性が高じる局面に対処するには、米国の現有核抑止力の限度を越えた延伸を余儀なくされる。

止めをさすように、これ迄核兵器に対するガードレールとして機能した、外交戦略の結晶とも云うべき「核拡散を抑制し、米国の核傘下に数十カ国を擁して、安全保障を数十年間に亘り提供して来た枠組み」が今や急速に腐食化し、これが亜細亜や欧州の同盟国陣営の複数国をして、自前の核兵器取得の検討へと向かわせるだろう。

更に、上述一連の事態が、よりによってこの時、即ち、米国が保持する核兵器が修繕不能な迄に老朽化する中、目下進行中の兵器近代化計画は長年度重なる遅延を繰り返し、予算超過が制御不能な迄に蔓延すると云う、最悪な状況下に発出しているのだ。

 

 今、我が国に接近しつつある「核の台風」は、これ迄体験したことがない程に、広範囲に及び諸難題を突き付けるものだ。これに対処する為に、ワシントン政府は、冷戦終焉以降で初となる、より大掛かりで、従来とは異なり、そしてより優れた核戦備能力の増強が必要な時局に立たされている。

この問題の計り知れない重大性に鑑みれば、核脅威への懸念は最早、隙間(ニッチ)事案として小規模な専門家集団に対処を任せるのは誤りだ。政府の最高レベルの高官達が、米国の死活的利益に関わる主な諸脅威に対し、先述の諸懸念への対策を「防衛政策の要(かなめ)」に統合し纏め上げる必要があるだろう。即ち、欧州、印度太平洋、そして中東地域を網羅する核戦略だ。

同時に、議会は、眼前の脅威のみならず、将来のそれへも対処可能なよう、米国軍備の修繕努力をかなりの予算規模を以って、且つ本件を緊急的優先案件とし加速させるべく支援する必要があろう。

然し、何よりも重要なのは、世界の核秩序が極めて急激に変化する中、米国が有効に対処して行く為に、「核問題を米国基本戦略の中心部に改めて再度位置づけすること」を重ね強調し提言したい。

(第一章 了)

次章以降の翻訳は順次掲載予定。

文責:日向陸生

*当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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