【一般論稿】『エネルギー転換と云う難題 ~現実的な目標修正への提言~』(原典:『The Troubled Energy Transition ~How to Find a Pragmatic Path Forward~』, Foreign Affairs 2025, March/April号 P106-120)

著者:ダニエル・ヤーギン、ピーター・オルザグ、及びトゥール・アリヤ共著(DANIEL YERGIN, PETER ORSZAG, & ATUL ARYA)

肩書:ヤーギンは、S&Pグローバル社副社長。

オルザグは、投資銀行ラザード社(Lazard)CEO兼会長。又、オバマ政権時の元行政管理予算局長。 又、アリヤは、S&Pグローバル社、主席エネルギー・ストラテジスト。

尚、ヤーギンに以下代表著作ある:邦訳『石油の世紀 ~支配者達の興亡~』(1991年出版)、及び『新しい世界の資源地図~エネルギー・気候変動・国家の衝突~』(2022年出版)(原題それぞれ、『The Prize ~The Epic Quest for Oil, Money and Power~』、『The New Map ~ ~Energy, Climate, and the Clash of Nations~』)

(論稿主旨)

 2024年、世界の風力と太陽光発電は記録的水準に達したが、斯かる快挙は不可能だと誰しも思ったのは、そう遠い昔ではない。この15年間、嘗て実質ゼロだった風力と太陽光発電は、今や全世界発電量の15%を占めるに至り、この間、太陽光パネル価格は90%も低減した。これら発達は、所謂“エネルギー転換”――現行の炭化水素を主流とするエネルギー構成から再生可能エネルギー主体の低炭素組合わせへの移行に向け、如実な進捗を象徴するものだ。

 然し、一方、2024年は又、別の意味で記録的な年だった。つまり、石油と石炭から生み出されたエネルギー量も過去最高だったのだ。尤(もっと)も、1990年から今日迄、30数年の長期間でみると、世界主要エネルギー内訳に占める炭化水素燃料割合は85%から80%へと、実は殆ど変化がない。

 換言すれば、これ迄の展開は「エネルギー転換」と云うよりは、寧ろ「追加的エネルギー源確保」の意味合いが強い。つまり、再生可能エネルギーの増加は、通常エネルギーの代替策ではなく、それら諸源の追加的手段として登場して来たと見るべきだ。

更に、ドナルド・トランプが米国大統領に復帰したことにより、事の優先順位は「通常エネルギー生産」と同政権が「エネルギー支配」と呼ぶ諸政策へ再度集中シフトされるだろう。

 これは、本来、描かれたエネルギー転換の進展図とは似つかないものだ。

気候変動に対する大きな懸念は、炭素系エネルギーから早急なる脱却の期待を高める効果を持った。然し、その期待は、国際エネルギー・システムが内包する様々な現実の壁により挫かれた。何故なら、その転換――石油、ガス、及び石炭を主とした仕組みから、その大半を風力、太陽光、蓄電池、水力、並びにバイオ燃料を基礎とする仕組へ――は、当初予想を遥かに超え、より困難で、費用も嵩み、且つ複雑であることが判明したからだ。

一方、我々が過去のエネルギー転換の歴史を振り返れば、これは驚くには当たらない事象だ。即ち、それらは常に「追加的なエネルギー源」として既存の諸エネルギーを補足するもので、決して“代替”と見なされるべきではないのだ。

 斯くして、2050年迄に「排出量実質ゼロ」と云う、屡々(しばしば)掲げられて来た目標――即ち、新たに発生する排出には、それと等量の排出を大気中から除去、相殺し均衡を保つ――を実現する軌道から、世界は遠く外れてしまった。それにも拘わらず、「軌道に再度復帰する為の明確な計画もなければ、又、その為に必要な投資規模と影響度に関する情報提供もない」と云う、今や情けない状態にあるのだ。

2021年当時のIEA予想は、世界が2050年目標値を達成する為に、2020年時点の温室ガス排出実績量33.9ギガ・トンから、2030年には21.2ギガ・トンへ減らすことを必要とした。然し、現実は、2023年実績は37.4ギガ・トンへと逆に増加(此処から目標達成に必要な削減量を逆算すると、残り僅か7年間で40%もの削減が不可欠となるものの、斯かる大幅な数値達成が殆ど非現実的だ、と片付けてしまうのは未だ早計である)。

又、その他分野でも、エネルギー転換転換は容易でないことを物語る。

バイデン政権は、2030年迄に、米国新車販売の内、電気自動車比率を50%とする目標を設定。然し、現実は現在、僅か10%に止まり、一方、自動車メーカー各社は数十億ドルの損失を抱える中、電気自動車への投資削減を余儀なくされている。

又、米国洋上風力の発電量は、2030年迄に30ギガ・ワットの目標値に対し、現実には同年に13ギガ・ワットの生産に到達するのが精一杯の状況だ。更に、トランプ政権の政策変更により、この乖離幅は更に拡大するだろう。

 目標未達の背景にあるのは、先ず“莫大な費用”だ。即ち、何兆ドルもの資金が、誰が負担するかその大議論の先行きが全く読めない中で、必要になると云う状況だ。更に問題の一因は、「気候変動の諸目標が、それ単独で、他の諸要因を無視しては成立し得ない」と云う“事の本質”を、抑々(そもそも)関係者達が十分弁(わきま)えていないことにある。つまり、これら諸目標が他の様々な目標値と共存する関係――例えば、GDP成長や経済発展から、エネルギー安全保障問題、更には各国内の環境汚染軽減に至るまで――にあり、その上、国際社会の緊張すらも東西間、南北間の双方で高じる結果、その実現は一層複雑化するのが避けられない。

又、もうひとつの問題は、エネルギー転換の推進に関し、政治家、実業界指導者、専門家、及び活動家達がこれ迄に描いた構想、及びそれに基づき立案、形成された諸計画、それら自体に起因する。(平たく云えば、これらが抑々度外れていたのだ)。

 今や明らかなのは、少なくとも「国際的エネルギー・システム転換は直線的、 或いは一定速度で単純には進行しない」と云うことだ。現実は寧ろ、より複雑な多次元――世界の異なる地域で、異なる進捗率、及び技術や燃料の異なる混合率の下に、相互背反的な諸課題に列せられる優先順位、並びに政府や企業が推進する、それぞれ独自設定した諸道程の状況による制約を受けつつ、これらが全て相俟って展開して行くのだ。

この入り組んだ実態に確(しか)と目を向け、諸政策と投資を再考する態度が求められる。何故なら、エネルギー転換は、単にエネルギー問題に止まらず、世界経済全体を、丸ごと組み換え且つ再構築する試みだからだ。

この再考作業に当たり、我々が真っ先に着手すべきは、問題の転換計画の背景に在った、重要な諸前提が何故期待を裏切る結果となったのか、その理由を徹底解明し理解することだ。具体的には、地政学、経済、政治上、そして更に物質的観点で我々が直面する、様々な制約や二律背反関係に関し、これらを先延べし遠ざけるのでなく、がっぷり四つに組み真剣に検討し、判断し行動することが必要だ。

(了)

次章以下の翻訳は順次掲載予定

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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