【フォーリン・アフェアーズ誌 ガイド(2023年5月・6月号)】掲載論文 の概要紹介(Foreign Affairs 2023年 May/June号 、The Council on Foreign Relation出版)

当月フォーリン・アフェアーズ誌は、半年ぶり(昨年9月・10月号以来)に、特定テーマの特集を組む形式を復活させた。「グローバルサウス」に焦点を当て『何れの陣営にも加担しない世界(The Nonaligned World)』と銘打ち、ブラジル、印度(インド)、アフリカ、亜細亜(アジア)並びに英国から、計5人の識者主張を掲載した。同誌編集部は本企画の意図を序文に明確に述べる。即ち「グローバルサウスが表明する積年の恨みや、彼らを突き動かす諸利益に就いては、世界の指導者達が最早、無関心では居る事は許されない。さもないと、今後数年後、グローバルサウスは、対処するに一層難題化し、無秩序の種となるだろう(ウクライナの行方とは関係なく)」と。日本国民としても各人が本問題への見識を磨き備える必要があるだろう。同特集各論稿の品質は玉石混合の観あるが、「兎に角、彼らの主張に耳を傾ける」ステップを重視した同誌の本企画は時節を得ており評価に値しよう。各論稿主旨は後述を参照されたい。 

 一方、一般論稿論文は当月号に総計8本掲載、その内訳は、ウクライナ関連,国際産業政策,エネルギー問題,米国イラク向け外交策、ルワンダ関連に就いて各一編を収録する。それに加え、今回、特に次の3篇は興味深い。

先ず「“多極軸時代”神話の誤り」(ステファン・ブルックックス、他著)は現在流布する『多極化時代』は諸政府の対策を過たせる不正確な理解であると反論、現実は『“部分的”多極時代』である点が正しく認識されるべきとの主張だ。

又、当月巻頭論文『崖っぷちの大失策』は1962年に米ソの緊張が核戦争突入寸前へエスカレートした“キューバ・ミサイル危機”を扱う。既に人口に膾炙されたこの話題が何故今更焦点が当たるか読者は訝しく感じるだろう。理由は、露西亜(ロシア)側で現在も当時機密情報が逐次公開され、尚も新事実が発掘される為だ。今般の新発見は、ソヴィエトの同計画の「杜撰」ぶりだ。キューバへの核設置は「密集した椰子の木により、ミサイル基地は上空から遮蔽される」との現地調査報告をクレムリンは信用したが、いざ機材搬入段階になり、先の報は出鱈目で椰子森林は疎らだと判明、しかし既に上層部の決定事項を覆す事が憚られ、現場からは報告は上がらず、同基地建設は米国偵察機によって正に見つかるべくして発見され、その後のよく知られた両国間緊張の展開へと至る。不都合な情報が遮断される環境下、拙速な計画を性急に強行してフルシチョフ体制が招いた80年前の危機と、プーチンが実施した今般ウクライナ侵攻作戦とは極めてよく符合する点は興味深い。

 一方、嘗て、作家の村上春樹氏がノーベル賞に最も近いと目されていた頃、彼がイスラエルからある文学賞を贈呈された際、エルサレムでの式典で「固い壁と柔らかい卵との争いがあれば、私は常に弱い側に付く」と、同国のパレスチナ問題に関し気骨のある発言したのを記憶に留める人は多いだろう。以来、既に十数年の歳月が流れた。その後、同氏が如何なる主張、見解を維持するか、訳者は知らぬが、現在、同問題は著しく悪化の一途を辿っている。『イスラエルの“一国制度”が実現しつつある』は、同国内でイスラエルとパレスチナとの共存を目指した“二国制度”は、殊、強硬右派のネタヤフが首相に返り咲いた後、実現性が略消失し、イスラエル一国制度へ向け、同国在住パレスチナ人を圧迫しつつ、急速に展開する環境を分析する。ジョージタウン大学始め、4名の教授達による共著で、圧倒的な熱量を感じさせる論稿だ。

【特集記事】『何れの陣営にも加担しない世界(The Nonaligned World)』識者5人による論稿概要(Foreign Affairs, 2023年5月・6月号 P8-43)

(1)『旗幟不鮮明策を守る国々 ~彼らの危険回避思考を理解しない西側陣営~』(In Defense of the Fence Sitters ~What the West Gets Wrong About Heding~

 グローバルサウス代表として先ずブラジルが登場する。著者マティアス・スペクターは国際関係の大学教授(在サンパウロ、ジェトロウルリオ・ヴァルガス財団私立大学。更に米プリンストン大学客員教授)及び米カーネギー国際平和基金の非常勤学者だ。

 彼の分析に依れば、所謂グローバルサウスが現在採用する策は、“保険”としての危険回避戦略で、第二次大戦後、旧植民地から独立した力の弱い、二等諸国家等に於いて事例が多く、保身の観点からは一理在る。一方、曖昧姿勢を保つ事により何れの陣営へも融通的に加担可能な反面、双方から反故にされる危険も含む。現在、西欧陣が米国一強体制を重んじるのに対し、グローバルサウスは多極化を選好し対立を生んでいる。著者が提言する両陣営の関係とは、全面一致は不可能乍ら、「可能な分野に於いて、“部分的”連携」を結ぶ事である。この結論の背景は、グローバルサウスは世界の課題解決に欠かせない人々である故、「彼らの声に耳を傾ける」必要を説き、彼らの不満の原因が「西欧のダブルスタンダートの偽善」(“俺達の云う事をきけ、しかし俺達がやる真似はするな”と云う見下し)であるからには、西欧陣も「掲げる価値観と自身の行動の一致」と云う高い徳義に向け努力し、グローバルサウスの気候変動問題等の深刻な諸懸念事案に寄り添って、関係改善を図るべしとの考えだ。

 又、グローバルサウスと中国との接近と云う、現在の世界潮流下、中国とグローバルサウス諸国との友情には早晩限界が見えて来ると予想され、米国がこれら諸国との関係改善を行うには好機到来と指摘する。斯く同教授は、経歴の通り米国にも軸足を置く立場から、西欧とグローバルサウスの橋渡しに腐心する論調である。

 尚、再認識すべき重要な諸統計数字も提示されている。

(2)『大国間競争の中での利点 ~印度が強大国へ成長を遂げる機会~』 (The Upside of Rivalry ~India’s Great-Power Opportunity~)

 次なる登場は、印度(インド)を代表し、ニルパマ・ラオだ。彼女は元印度外務次官(在任2009-11年)で、印度大使として2004年から2013年迄の間に、スリランカ、中国、及び米国に駐在歴任、正に、印度経済が急拡大を遂げる時期に政府内部で活躍した人物だ。

印度は今や経済躍進し世界第二位の人口を擁する大国である。彼女は、「中立」重視による同国独自策を真っ向肯定する立場だ(換言すれば、同策は彼女自身云う通り「自国優先主義」)。そして、印度は「多国間主義」の旗頭として、グローバルサウスと西欧陣営との橋渡しに名乗りを挙げる。これは、同国モディー首相が掲げたスローガン「一つの地球、人類皆兄弟、共通の未来」(同国が今年G20ホスト国として発表したが、西欧側高官の反応は冷淡)に基づき、気候変動等に一致して当たろうとの思想に基づくもので、実際の同国外交策、米、露、中何れとも関係を築きつつ競争と協調を両立させる「全方位」策だ。

彼女の主張の拠所は、印度初代首相ネルー(1947-64年在任)の採った「非同盟・中立」外交の成功事例だ。同首相の云う「我が国は親露でも親米でもない、親印度主義」は奏功し、同国が冷戦中如何なる代理戦争にも巻き込まれる事なく、途上国世界での発展の下地を築いた。今や、印度は、若い人口も武器に(人口の年齢中央値は28歳で、今後30年間の経済成長が約束)、経済的地位を高め、医薬品(世界第三位)を始め、デジタル、原子力、宇宙開発等高技術の発達と周辺国への技術供与・協力(含むコロナワクチン提供)も担う立場に変じたとする。

そして、彼女の結論は、欧米のダブルスタンダードを枚挙し非難の上、そのお返しに印度は欧州や米国からの指図は無用とし、独自路線を突き進むのだ、とする。即ち、米国、中国、露西亜とも貿易を盛んにし、「果実を自ら捥いで喰え」とばかり商業と外交網で存在感増進を図る、と大変威勢が良い。一方、懸案事項は「印度式外交が危険な綱渡り」である一面を彼女自身は認め、諸要因を列挙。好戦化した中国が印度に踏み絵を迫る、ウクライナ戦争長期化が露西亜と中国との二者接近を招き印度に不利(印度は露西亜から主要武器購入を依存する事情)、印度自身の経済成長限界、等々。それでも彼女は、第二次世界大戦後の混乱期にネルー首相が“自国利益重視外交”で上手く立ち回った成功体験を根拠に、今回も諸問題克服可能であると結ぶ。気合は十分だが論理として聊か心許ないと読者は感じよう。

然し、西欧が享受するダブルスタンダードを是正する策として、国連やIMFの国際機構に於ける制度改革を実施し、グローバルサウスの意見がより繁栄される体制を造るべき、との彼女の提案は正論だろう。

(3)『大国間競争を生き抜く策 ~微妙な均衡を追求する東南アジアの行動~』(How to Survive a Great-Power Competition ~Southeast Asia’s Precarious Balancing Act~

 その次は、東南亜細亜代表として、フォン・レ・トゥーが登場。彼女は、西豪州大学内所在のパース米国亜細亜センター主任研究員で、米シンクタンクCSIS(戦略国際研究所)非常勤研究員だが、自身5ケ国語を自在に操り亜細亜諸国に精通する人物だ。

 先ず、現状認識として、米中両大国間の緊張状態(貿易戦争、双方軍備拡大、台湾衝突懸念)が悪化した場合、最も影響を受けるのは、人口7億人を擁する東南亜細亜である。同地域は、過去、米ソ冷戦下に分断され内戦や戦争、共産主義との対立による国家の組織的弾圧等により何百万人が殺された歴史を持つのだ。然し、それらの経緯を経て、東南亜細亜は大国間競争を生き抜く為に、絶妙な均衡を保つ業を会得した。

 即ち、嘗ては域内の共産勢力牽制を目的とし、非共産諸国で創立(1967年)したASEANは、冷戦後に、より広範な政治・経済団体へ脱皮し、域内安全保障に寄与すると共に、安定した国際体制下に各国が経済成長により大なる平和の配当を得た。この際の秘訣が「何れの陣営にも肩入れしない外交策」で「意思に基づく中立と多重的協定」追求だ。つまり、ASEANを梃とし更に多国間諸機構を設立し独立性を維持し、中国による経済支配は回避しつつ、米国による中国封じ込め策に加担せず、謂わば米中対立すらも自らの経済便宜に利し、大国をも転がしながら繁栄を維持する巨人の如き地位を手にしたのだ。

 一方、東南亜細亜として西欧陣営に対し、以下に物申し非難する。即ち、ウクライナ問題に対する「民主主義振興」は、ベトナム戦争時のスローガンと変わる処なく、又、中国排除(デカップリング)策に就いては、二者択一を強要する点に於いて、中国が影響力を押し売りする策と同様に、「友を失う」策であると非難する。

 問題は、上述均衡策が今後も持続可能か否かだ。「米中対立先鋭化により、何れどちらかの陣営への所属を迫られるのは不可避だ」と懸念する説(2018年ASEAN会議上、シンガポール、リー首相発言)がある一方、筆者は飽く迄、楽観的立場を取る。根拠は、冷戦時に特定体制への参画を“受け身”的に避けたのとは異なり、今や自領域の経済拡大を梃に一層多国間との関係ネットワークを増進させ、積極的な多軸友好関係化構築により、大国からの圧力防御が可能だと目論む。この際に鍵となるのが、諸大国と東南亜細亜との経済格差が今後縮小するとの見通しだ。大国が諸問題(中国の人口減少や米国内分断等)に苦悩するのを尻目に、東南亜細亜が、特にベトナムとインドネシア(それぞれ世界三位と一位の人口大国。20年後には高額所得国にランク見込み)を核に、世界の成長エンジンの機能を担い、大国に対し存在感が高まると期待する。そして、大国間の紛争に巻き込まれず、自らも覇権国として振舞わない、模範を世界に示すのだ、と結んでいる。

4)『ウクライナ戦争を越えた世界 ~民主主義の存続は、その他世界の要請へ如何に対処するかに懸かる~』(The World Beyond Ukraine ~The Survival of the West and Demands of the Rest~

 印度(インド)と東南アジアから大風呂敷が広げられ、収拾が付きにくくなった処で、締め括(くく)りには、英国からデイヴィッド・ミリバンドが登場する。彼は英国ブラウン政権下に外務大臣を務め(史上最年少就任、2007-10年在職)、2013年政界引退後は“国際救済委員会”(IRC:ニューヨーク本部の人道支援団体)代表を務める人物だ。彼の論文主張は、客観的分析に基づき、説得力を持つ。

 ゼレンスキー大統領は、開戦一周年の演説で「ウクライナ戦争が世界を一つにした」と称えたものの、現実は「西欧は一つに結束したが、世界は分された」と云うのが先ず筆者の見立てだ。そして、所謂グローバルサウスと西側陣営とに横たわる溝に関し、その根源の分析なくして事態は一層悪化すると問題提起する。彼我隔たりの源は、冷戦終結後に、西欧主導で実施した「国際化」に於いて、自身はお咎めなしにルール違反を犯し、地球規模の諸問題に著しい対応誤りを重ねたた結果、グローバルサウスには欲求不満が蓄積し、今や彼らの怒りが爆発寸前なのだ。其処で、彼は、今後世界が気候変動を含む甚大な諸危機に直面する中、双方の溝を解消するのが新たな秩序構築の為には不可欠。彼らに真摯に向き合い早急な対応が必要と主張する。

 その対策は、相手側の賛同を得るには「規範遵守 VS 無秩序世界」(民主主義 対 独裁主義ではなく)を対抗軸として強調すべきと提言。又、現実に不満を解消するには、各国が各自ダブルスタンダードを正すのに加え、国際機関に於いて、グローバルサウス関連の約束事の履行と、彼らの意見が聞き届けられるよう公平化に向けた改革を前進させる事が必要と説く。後者は、具体的には、特に国連安保理常任理事国の拒否権の扱いの改革だ。(一歩前進した実績として、安保理で拒否権発動された事案には、総会が自動的に招集され、協議を行う“拒否権イニシアチブ”が、2022年に採択された事例に言及)。更に現在進行中なのは、大量殺戮の事案に就いての拒否権不行使、乃至制限を掛ける案だ。正論と云えるだろう。

 尚、同論稿には興味深い背景や数字が示されている。

(5)『抑圧によって造られた現行秩序 ~新しい国際制度の探求を続けるアフリカ~』(Order of Oppression ~Africa’s Quest for a New International System~

 もう一人の識者は、アフリカ代表のティム・ムリティだ。彼は、南アフリカの大学教授(ケープタウン大学、及びステンボス大学)及び、同国シンクタンク“公正・調停機構(IJR)”の平和構築推進支援委員長を務める。 “過去も今も西欧から搾取を被る”アフリカの立場から、西欧の力の論理によって築かれた現行国際秩序の改善要望を訴える、彼の論稿は傾聴に値する。 

 先ず、世界が直面した事実として、昨年、国連では、ウクライナ侵攻した露西亜に対する非難決議に於いて、アフリカ17ケ国が棄権した。そしてそれらの多くの国々は、西側陣営が制裁強化する中、露西亜との経済と貿易関係を従来通り維持したのだった。そして、西欧諸国は、仏国マクロン大統領を始め、先にアフリカ諸国が取った中立維持行為は「自由主義を守る原則」への裏切り行為だと強く非難した。

 然し、筆者は以下に主張する。つまり、西欧の謳う「規範に基づく国際秩序」は、アフリカの利益にこれ迄貢献しなかった。それ処か、西側も東側も権力を有する国々が、グローバルサウス諸国に対し支配的地位を維持する為の枷として、それら秩序が機能したに過ぎない、と。その上で、彼が読者に再認識を迫るのはアフリカ迫害の歴史だ。

 即ち、同地域は過去500年間に亘り西欧から搾取され続けた。一千万人以上の住民が、亜米利加大陸へ奴隷として売り飛ばされ強制就労に置かれ、欧米は替わりに巨万の富を得た。加えて西欧諸国による植民地主義と人種差別政策(アパルヘイト)による残酷且つ非人道的処遇を被った。更に、植民地から独立後も、西欧諸国は、暴力に代え、今度は優位な取引条件を以って資源搾取を行い、それらは屡々アフリカ政府高官汚職を伴い、国を蝕んだ。旧仏国領の西・中央アフリカ14ケ国の現行通貨である“CFAフラン”は、植民地時代の遺産で、これを見るにつけ、アフリカ人達にとり搾取の歴史は、尚、今日も忘れようにも忘れる事が出来ないのだ。

 事態はそれ丈に止まらない。アフリカ諸国民に直接利害が及ぶ、自身の域内問題に就いてもアフリカは国際的な発言力が与えられぬ儘、諸大国が自己都合による介入を行い、その混乱のツケが幾度もアフリカに回る繰り返しなのだ。対イラク、英米有志軍侵攻(2003年)、及び対シリア、米英仏軍攻撃(2014年)等の中東軍事介入は地域不安定化とアルカイダを含む過激派台頭を生み、テロ行為は恰もウィルスの如く、アフリカ中に拡散した。又、リビア内戦に就いては、AU(アフリカ連合)が自力で外交解決の尽力中であるに拘わらず、国連が飛行禁止区域設定を決議し、NATO軍がリビア空爆し介入(2011年)、その混乱の結果、アフリカの東岸及び西岸の双方諸国に過激イスラム主義が輸入され、テロの温床と化した。

 斯かる苦難の経緯を以ってすれば、アフリカが「徳義上の信認を得るに」相応しい国であると筆者は訴える。それは、南アフリカに於いて、植民地支配者達が引き揚げる際に、彼らに報復行為をしなかった点でも、アフリカは社会と加害者との「調停者の見本」と評されるべきなのだ、と。翻って、国連に於けるアフリカの位置付けは、開催される会議の50%、及び平和維持軍(PKO)派遣の実行先は70%が同地域事案であるにも拘わらず、アフリカの発言権がない。

 現行国連の集団安全保障制度は、世界人口の大多数の人々を除外し、幾つかの最強権力を有するメンバーに意思決定が占有され、筆者の見立てでは、放置すれば同制度は緩やかに死に向かう。一方、ウクライナ戦争を契機に、状況の変曲点を迎える今こそ、「多国間関係主義」の重要性を再構想し、悪しき「力による支配」から「自主決定、世界結束、公正と調停」の原則に基づく制度の実現を目指し、国連始め「諸国際機関の再設計」の必要を説く。そして、先ずは国連の制度改革に就いて下記具体的提言を行うのが当論稿の主眼だ。

 即ち、国連憲章第109条に定める、同憲章改変の為の審議招集の実現に向けた準備着手である。同条には、国連総会の2/3多数を以って、斯かる会議の開催手続きが定められ、その際の投票は一国が平等にそれぞれ1票である。如何なる修正を目指すかは、無論、同会議による具体的協議を待たざるを得ないが、著者が目するのは、拒否権の制限とアフリカの民意が届くような仕組みだ。無論、これを実現するにはハードルは極めて高いが、諸領域(各国政府、市民社会、学会、業界)と協力し、今から行動準備の着手を訴える。更に、著者が最終的な理想像として胸に抱くのは、国連総会に類似した、所謂「世界会議」の設定で、其処では、権限が諸国家のみならずAU、EU、及びASEAN等の超国家体にも配分され、国際法廷の判断(イデオロギーに基づく勢力ではなく)により正義を補強する仕組みだ。尚、AU(アフリカ連合)は”AGENDA 2063”(2063年構想)の下、同年までに同地域を強力な経済圏化への成長実現を目指している。

 (訳者コメント)

今から30年程前、歌手の八神純子が最も尊敬する人物は誰かと聞かれて、南アフリカのマンデラ氏だと答えたインタビュー記事があった。至当な見解である。我々一般人は、天候不順だ、コロナだ、やれ物価高による生活困窮だ、で中々遠くのアフリカを思う余裕がない。一方、人類史を紐解けば、人はアフリカに発祥し、我々の祖先と目される、300万年前の最初の女性猿人(ルーシー)が同地で発見されている。人類は其処から分散する内に、気候順応や突然変異で肌の色を変えつつ、世界中で命を繋いで、今日がある。謂わば、アフリカは人類の故郷であり、アフリカ人は、子供達が両親や祖父母を自然に敬うように、本来世界中から敬意を表されるべき対象の筈だが、彼らが辿った歴史は、上記論稿の通り、全く逆の待遇であった。 グローバルサウスの問題を考えるには、矢張り、まずは相手の言い分に耳を傾け、相手を知る事が重要だ。現在日本国は、債務、環境、少子化、道徳低下等の問題山積で、自ら頭の上の蠅も追えない状態ではあるものの、かと言って世界に無関心で居る事は許されない。日本は勤勉な国民達のお陰で、辛うじて未だ世界に影響力を与え得る位置に留まっているが、国の行方を国民一人一人は厳しくチェックする義務があるのだ。グローバルサウス問題を、単に対立陣営間で“はないちもんめ”を繰り広げ、勢力獲得ゲームを展開するのでは喰い足りず、大きな「あるべき世界観」を描く事を、日本国民は忘れてはならぬだろう。 

【投稿論文】一覧(興味深い論稿は、幾編か選び、別途全訳掲載予定)。

1)『崖っぷちでの大失策 ~キューバ・ミサイル危機の教訓

を学ばぬ露西亜~』

   (Blundering on the Brink ~The Secret History and Unlearned Lesson of the Cuban Missile Crisis~)

2)『帝国主義後の欧州の姿 ~ウクライナ戦争により変遷する欧州~』

(Postimperial Empire  ~How the War in Ukraine Is Transforming Europe~)

3)『“多極軸世界”と云う神話(~米国の力は未だ衰えていない真実~)』

(The Myth of Multipolarity  ~American Power’s Staying Power~)

4)『危機に直面する新産業政策(~法人税引き下げの国際競争回避の策~)』

(The Perils of the New Industrial Policy ~How to Stop a Global Race to the Bottom~)

5)『エネルギー供給不安の時代(~地政学は資源争奪により重大な影響を被る~)』(

6)『イスラエル“一国制度”が現実化しつつある ~“二国制度”に替わる策が必要な事態~)』

(Israel’s One-State Reality ~It’s Time to Give Up on the Two-State Solution~)

7)『イラクと大国の野望と云う病気 ~戦争を惹き起こす、誤った理論は米国に根強く残る~』

(Iraq and the Pathologies of Primacy ~The Flawed Logic That Produced the War Is Alive and Well~)

8)『カガメの復讐 ~ルワンダの指導者達がコンゴに混乱の種を撒く理由~』

(Kagame’s Revenge ~Why Rwanda’s Leader Is Sowing Chaos in Congo~)

(了)

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