【フォーリンアフェアーズ誌 ガイド / 2025年3月・4月号 掲載論文の概要紹介】 (Foreign Affairs 2025年 March/April号、The Council on Foreign Relation出版)

 今月号は、始動したトランプ第二政権の振る舞いを危惧し、『世界の中心が崩れ行く時 ~国際秩序は斯くして終わる~』と云う視点から、識者論評を幾編か集録する。トランプ政権登場により中国、露西亜(ロシア)に米国も加わり、世界が独裁主義政権化の潮流にあるとの見解(マイケル・キィメイジ)、或いはトランプの無茶な権力行使で世界秩序が崩れ、各国はその衝撃に備えよ(ハル・ブランズ)とする論が展開される。又、トランプ大統領の下、現職政権が国家権力乱用することにより米国民主主義は崩壊し独裁化に向かう危機を指摘するのはスティーブン・レヴィツキーだ。

 一方、経済面から二人の論者が分析。マリアナ・マッツカートは、トランプは米国経済の問題点を突いて第二政権を発足させたものの、その諸解決策は的外(まとはず)れであるのみならず、「効率と利益本位の民営事業」と「公共責任を負う政府施策」とを混同するイーロン・マスクの手法を手厳しく非難する。一方、ジェイソン・ファーマンは、抑々(そもそも)トランプ第二政権誕生の伏線となった、バイデン政権の経済政策失敗に焦点を当て分析、俊逸な論を提示する。

 又、対中国政策に関し、トランプ第二期政権への提言として、二人の専門家――それぞれ中国強硬派と完全融和派――からの極端な寄稿が紹介されている。鮮やかな迄の「台湾切り捨て論」を展開するのはジェニファー・カバナー。要は「米国は台湾に武器を売れるだけ売りつけるが、中国との直接交戦を回避することが米国の至上命題であり、事が起これば台湾は中国に呉れてやり」、それ以降は、米国対中国防衛策を、所謂、第二列島線(*後注)迄、守備を後退させても亜細亜(アジア)戦略上全く問題ない、と中国に日和(ひよ)る献策だ。

一方、ステファン・ブルックスは、台湾武力侵攻等、中国が有事を引き起こした際に、同国を国際経済からデカプリングし徹底孤立化させる強硬策の準備を提言。同策実施の場合、両者が被る経済的痛みの非対称性がミソで、中国側の被害が米国に比べ10倍大きい。但し、中国のデカプリングを有効たらしめるには、同盟諸国の連携を大前提とし、その際、米国より大きいな影響を受ける同盟諸国の協力取付けが必要だ(試算では、各国被害は、米国のそれに比べ、独逸、日本、豪州、及び韓国が、それぞれ、2倍、3倍、5倍、及び7倍大きい)。

扨、それぞれ献策の練度、効果は検証を要しようが、戦略を主導する当の米国指導者に抑々(そもそも)信が置けない場合には、如何なる作戦も所詮、画餅に帰すのは間違いない。各国は自身の身の振りと覚悟を真剣に考える必要がある。

(*注 第二列島線:著者が提言する防衛線は、サイパン、グアム、パプアニューギニアを連ねる所謂“第二列島線”を基礎としつつ、日本列島に関しては、南の小笠原諸島ではなく、北部米軍基地を境界線とする。)

<一般論稿>

 トランプ・リスクを離れ、当月号一般論稿で注目すべきは、“気候変動”問題を扱った、ダニエル・ヤーギンの寄稿『エネルギー転換と云う難題』である。本来、全人類が最優先で真剣に取り組むべき気候変動対策は、今やお先真っ暗な状態だ。“2050年に温室ガス排出ゼロ”の削減目標は最早、確実に達成不可能、寧ろ、AI普及に伴う電力需要に応えるべく各国の電源増産計画が目白押しだ。そんな中、現状を検証し、再度現実的な方策を検証・提言する著者等の姿勢は評価出来る。森林火災はブラジルやカリフォルニアの遠い出来事と勘違いしていた我々日本人も国土が焼け尽くす前に研究必須の喫緊事案だ。

又、マシュー・スローターの『生産性こそが経済成長の鍵』は、30年間どん底経済を這う、我々日本人へも示唆する処が大である。“我々の子供や孫の世代がより豊かに暮らす為には、国民一人当たりの労働生産性を向上させる”しか術がないと云う、当たり前の真理を述べた秀作にして必読の論だ。

 これら以外の一般論稿は、中東関係と、ウクライナ戦争関係が各一篇。自身レバノン内戦の最中に出生、特に中東人権問題を専門とするマハ・ヤヒヤは、ガザ、シリアを含む中東地域紛争を真に平定するには、透明にして公正な政治的機構を創出し、政治対立の根本を議して和する作業が重要で、これこそが復興資金や策略的諸協約締結に優先すると説く。 一方、ナタリア・グメニュク(ウクライナ人女性ジャーナリスト)の論稿は、露西亜プーチンにウクライナ占領を許すくらいなら「我々ウクライナ人は死ぬまで戦い続ける!」と愛国心に裏打ちされた悲壮な叫びだ。

以上、特集論文、一般論稿合わせて、計11本が当月掲載された。

諸論稿の要約は以下の通り。興味深い論稿は逐次翻訳しお届けする予定です。

[当月号 掲載論稿]

<特集記事> 

1)『トランプが望む世界~新しい国家主義時代に於ける米国権力~』

著者:マイケル・キィメイジ (ウィルソン・センター ケナン研究所 理事) 

(The World Trump Wants ~American Power in the New Age of Nationalism~  By MICHAEL KIMMAGE, P8-21)

 2010年代以降、世界に国家主義が台頭、プーチン大統領、習首席、モディー首相、エルドアン大統領に加え、今般、第二期トランプ政権の登場を以って、独裁的諸政権が現状国際秩序に異を唱える潮流が定着した、と云うのが筆者見解だ。嘗てサムエル・ハンチントンが、民族と宗教による世界分断と紛争を予言した『文明の衝突』とは様相が異なり、今や、独裁的諸国家が自己都合に沿い、各々が現行秩序の修正を求め合う特徴を持つ。その結果、国際社会に於いて対抗軸となる断層線は、複雑且つ流動的で千変万華するのだ。この不安定な状況下、世界平和維持の為に必要なものとして求められるのは、「今回のトランプ政権が柔軟な外交政策と即断実行力、及び同盟国との連携をなす」ことだと、筆者は期待表明する。然し、実態は、それとは裏腹なのは、既に衆目の一致する処だろう。

2)『世界秩序の変節 ~品位を欠くトランプの米国権力行使~』

著者:ハル・ブランズ (ジョンズ・ホプキンス大学特別教授兼 アメリカン・エンタープライズ研究所上席研究員)

(The Renegade Order ~How Tramp Wield American Power~, By HAL BRANDS, P22-35)

 トランプ第二期政権始動によって、今後、国際秩序の変節が免れ得ない。トランプ流の米国権力行使は、果たして吉と出るか凶と出るか? 筆者は事態好転への微かな期待も残しつつも、結局、十中八九期待が外れ、「トランプは世界を闇に陥れるので、自由主義秩序に賛同する人々は、その衝撃に備えよ!」と云うのが結論だ。

「強権なくして世界秩序は維持できない」と誰しもが忘れつつあった事実を、直観であぶり出した点に於いて、トランプは評価できる。一方、「個人的不平と地政学的政策を平気で混同するその男が、然も、世界最大の権力を手にしたその絶頂時に、“最も俊逸で、均整の取れた国際感覚と最高度に精通した外交手腕を持つ大統領像”に近づくことこそが、国際秩序が生き残る為の必要条件」であるのだが、所詮それは白日夢に等しいだろうと云うのが当稿の主旨だ。

著者の冷徹な観察は、トランプの掲げる国内政策が「国防費拡大、減税、そして財政赤字削減」と抑々(そもそも)相互背反し、並び立ち得ない矛盾を含み、且つ彼の自賛する国際指導力に就いても、同盟諸国がトランプ流保守主義に唯々諾々と従い、又、競合国の独裁者達がトランプ式ディール外交に簡単に絡め取られると楽観するのは禁物だと看破する。

3)『独裁主義の道を歩む米国 ~民主主義崩壊後の米国の姿~』

著者:スティーブン・レヴィツキー(ハーバード大学教授、兼外交問題評議会上席研究員)、他

(The Path to American Authoritarianism ~What Comes After Democratic Breakdown~, By STEVEN LEVITSKY & LUCAN A.WAY, P36-51)

 トランプ第二政権により、米国は「競合野党が存在する環境下に“独裁主義”」を歩み始めたと云うのが筆者達の危惧だ。これは、一党独裁支配の専制主義国家に比べれば、自由度があるものの、民主主義崩壊の始まりなのだ。即ち、現職政党が国家機関と権力を我が身の保身に駆使し、政権内外の政敵、メディア、実業界、学会、更に一般市民をも圧迫し、反対の声を封じ対抗勢力を弱体化させる世界が具現する(FBI、米国内歳入庁、及びその他諸国権を利用しアメと鞭を使い分け、訴追、免税特権・追徴税、事業許認可、政府契約等を加減し、自陣は優遇し反対者を牽制する手法だ)。これにより、国民は、トランプ政権のやりたい放題にも沈黙(見て見ぬふり)を余儀なくされ、斯くして民主主義の腐敗は進行する。

現に、ワシントンポスト紙、ロサンゼルスタイム紙は、実業への悪影響を避けたいオーナーがトランプに忖度し、先の大統領選挙運動時、対抗のカマラ・ハリスの支援記事掲載を中止。又、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフト、及びトヨタはトランプ第二政権の発足時に、こぞって一期目に倍する寄付金を実施している。

4)『壊れた経済秩序 ~トランプ時代に抗し国際システムを再構築する策~』

著者:マリアナ・マッツカート (英ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授)

(The Broken Economic Order ~How to Rewrite the International System in the Age of Trump ~、By MARIANA  MAZZUCATO, P121-132)

5)『ポスト新自由主義者達が抱いた幻影 ~バイデノミクスの悲劇的失敗の分析~』

著者:ジェイソン・ファーマン (ハーバード大学教授。オバマ政権下に大統領経済諮問委員会議長勤務)

(The Post-Neoliberal Delusion, By JASON FURMAN, P133-147)

6)『中国に対するトランプの切り札 ~強硬なデカプリング(絶縁)策を論じる~』

著者: ステファン・G.ブルックス(ダートマス大学教授)、他

(The Real China Trump Card ~The Hawk’s Case Against Decoupling~, by STEPHEN G. BROOKS & BEN A. VAGLE, P76-89)

7)『台湾政策変更の提言 ~米国が勝利できない対中国戦争を回避すべき理由~』

著者:ジェニファー・カバナー(シンクタンク、ディフェンス・プライオリティー財団上席研究員兼理事、及びジョージタウン大学大学院客員教授)、他

(The Taiwan Fixation ~American Strategy Shouldn’t Hinge on an Unwinnable War~, by JENNIFER KAVANAGH & STEPHEN WERTHEIM, P90-105)

<一般論稿>

8)『エネルギー転換と云う難題 ~現実的な目標修正への提言~』

著者:ダニエル・ヤーギン(S&Pグローバル社副社長)、他

(The Troubled Energy Transition ~How to Find a Pragmatic Path Forward~, by DANIEL YERGIN, PETER ORSZAG & ATUL ARYA,  P106-120)

 コロナ感染蔓延下に経済活動が停滞した2021年当時、温室ガス排出削減目標“2050年に排出ゼロ”に手が届くと、世界が錯覚した。この甘い期待に、筆者は頭から冷水を浴びせる。同目標は幻と消え(中国の2060年、印度の2070年目標も共に没す)、今やその挽回策の目途もない。そんな中、エネルギー問題の第一人者のヤーギンは、目標達成が如何に難題であるか理路整然と説き、現実的対策として既存エネルギーを維持しつつ(クリーンエネルギーへの完全代替ではなく)長期的な移行体制の正当性を訴える。

 電力需要は、先進諸国で予想外に増加が見込まれ、米国総電力需要は2050年迄に倍増(2030年迄に同国総電力の10%をAIが喰うに至り、その他、半導体製造、及びEV等のクリーン電源向けに増加)、一方、途上国も人口増に加え生活向上に伴う一人当たり電力需要が膨張する。

 抑々(そもそも)、2050年排出ゼロ実現に向けたクリーンエネルギー転換は莫大な投資費用を要し、世界全体で要する資金は年間7兆ドルに上り、南北諸国家が均等負担する場合は各国GDPの5%に相当、もし北側先進諸国が途上国分を背負う場合には倍の10%のインパクトになるが、その解決策は見い出されていない。その上、排出大国の中国、印度、サウジアラビア及びナイジェリア(これらで全体排出量の45%を占める)は依然化石燃料発電への大なる依存は変わらず、更に、資源・エネルギー安全保障上、各国でレアアースを含む資源採掘も進む(2030年迄に世界の銅需要は倍増)等の、現実が説明される。EUが導入開始した炭素関税へ筆者は賛同していない。

扨、エネルギー業界に太いパイプを持つ著者ヤーギンが、「掘って掘って掘りまくれ」のトランプとは一線を画すのか否か不明だが、「地球環境の健全性を何に於いても最優先する」と云う、人類として必要かもしれない一つの選択肢(極端に云えば、AIの使用制限、或いは電力需要を制限し生活水準低下を我慢)も、その得失を合わせ比較検討する必要があるだろう。

9)『生産性こそが経済成長の鍵 ~米国経済政策は最も肝心な問題を見過ごしている~』

著者:マシュー・スローター (ダートマス大学国際ビジネスタック校教授。大統領経済諮問委員会メンバーとして2005-2007年勤務)、他

(Productivity Is Everything ~Why Economic Policy Misses What Really Matters~, by MATTHEW J. SLAUGHER & DAVID WESSEL、P148-161)

 物価、成長、雇用、及び所得格差等の経済諸課題は山積するが、国民の暮らしを豊かにする一番の大本は、一人当たりの労働生産性向上にある。米国が過去、第二次世界大戦後から1973年の間に黄金時代を築いたのには、年率2.8%と極めて高い同値の寄与があった。1996年から2005年に掛け、情報業界一択がブームに沸いた恩恵から、その間、同値は年率3%に達するも、その後、今日に至るまで17年間、米国の労働生産性は1.5%に低迷する状態だ。

労働生産性を向上させる3大要素は「労働者一人当たりへの資本投下の増加」、「技術向上」、そして近年一層その重要性を増す「新発明」だ。更に、これら諸要素を育む上に重要な3大施策が「研究開発費(R&D)増加」、「人材への投資(*)」、そして「国際化の維持」だ。

筆者は、国策として高い労働生産性を目標に掲げるべきと論ずる(米議会予算局による2024年から2054年迄の同予想値年率1.4%は、低すぎると異を唱える)。彼の提言は、公的R&D支出を米国黄金時代並みのGDP比2.2%へ増加させることだ(現行実績0.7%)。

一方、問題点として、財政規律復活を主張、浅墓(あさはか)な減税策を非難しつつ、連邦政府債務を圧縮し金利負担を削減し、寧ろR&D予算確保を訴える。又、AIを含む技術革新による弱者救済の安全ネットを提言(世界中のコールセンター・オペレーターは、今後一年内にAIに代替され、全員失業)。何れも正論である。

(*注)筆者は学術研究結果を引用し、特に、子供早期教育(特に5歳以下への教育)への投資が重要で、投じた費用の7倍の効果が得られるとする。

10)『新しい中東秩序構築に際し、欠如している致命的観点とは ~政治紛争の根本解決を処さぬ限り、ガザ、シリアを含む中東地域に平和は訪れない~』

著者:マハ・ヤヒヤ (カーネギー・中東センター理事)

(The Fatal Flaw of the New Middle East ~Gaza, Syria, and the Region’s Next Crisis~, by MAHA YAHYA, P52-61)

11)『プーチンのウクライナ併合計画 ~露西亜による占領と云う形態の戦争終結は断固拒否する~ 』

著者:ナタリア・グメニュク (ウクライナ人 ジャーナリスト)

(Putin’s Ukraine ~The End of War and the Price of Russian Occupation~, by NATALIYA GUMENYUK, P62-75)

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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