【フォーリンアフェアーズ誌 ガイド / 2024年11月・12月号 掲載論文の概要紹介】 (Foreign Affairs 2024年 November/December号、The Council on Foreign Relation出版)

 当月の同誌は、衝撃的な論稿を複数掲載する。先ず『人口減少の時代 ~シルバー化する世界を生きる~』(ニコラス・エバーシュタット著)は、黒死病による人口減少を経験して以来、700年ぶりに人類は遂に世界人口が純減する入り口に立ったことを訴える。今世紀後半に間違いなく地球は人口減少に突入すると云う。予想に多少幅があるが、早ければ2053年、遅くとも2080年代に人類が減少し始めるのが不可避だ。女性生涯出生率は世界規模で低下傾向が止まらず、出生数が死亡数を下回るのが定常化する。欧米、及び日本を含む亜細亜では既に再生産率(2.0)を大きく割り込むが、移民国家の米国ですらも2080年には総人口が純減し始めると見込まれる。人口が縮む社会とは、老齢化と働き手不足が具現し、社会保障制度、経済、軍事に甚大な影響が及ぶ。

背景は「子供を持ちたくない」と云う核家族化傾向が全世界に定着する為で、著者見解によれば、諸国政府が如何に諸事尽力したとて、この強大な潮流を最早押し戻す術はなく、為すべきはこの縮む国家に備え対策せよと云う事だ。日本の国策も、目先の児童手当や学費免除の些事でなく、人口減少を前提にどのような国家を目指すかのvisionを描く必要がある事は確かだ。

 次に、中国の脅威に関し、嘗て3年前、同誌に中国の台湾侵攻を予告する論文『台湾併合への誘惑』で誌上論争を巻き起こした、オリアナ・スカイラー・マストロが再登場。今回は中国、露西亜、イラン、北鮮の4国提携により、米国にとり地政学的危険が一層高じた旨を主張する『中国の代理人達が混沌を惹き起こす』を発表した。

説得論文が上手な彼女の畳みかけるような論を読み進めれば、誰もが顔色を失うだろう。当時ですら、台湾有事で米中交戦を試算した図上演習は、中国有利が取り沙汰された。処が、今回、著者が言明するのは、もしも、中国と露西亜が共同して台湾有事に当たれば、米国に勝ち目が全くないと云う点だ。又、現実には中国と当該3国の同盟関係は曖昧ではあるが、それは却って、一地点で統一的行動を取らずとも、もしこれら諸国が自国周辺で各々紛争を発した場合、とても米国で押さえきれるものではない。又、核抑止の観点では、従来の米国対露西亜の1対1方式から、今後、米国は中国と露西亜の2者を相手せねばならず、当事国が3つに増える中の均衡は、所謂物理学の3体問題と同様、著しく不安定なものとなる。

この極めて憂慮すべき事態に対し、著者提言は、中国と当該3ケ国へは、個別対応や各国間の離間を画するのは逆効果で、寧ろ、飽くまで4国をひと塊と見做し、その親玉としての中国に対し一層強硬な姿勢で臨んで圧力を掛け、同国を通じ当該3国へ間接圧力を掛ける策だ(中国は3国との提携義務は敢えて曖昧に保ち、自国だけはグローバル経済から恩恵を得ようとする同国戦略の弱点を突く策)。

扨て、トランプ新政権が、果たしてどれ程、米国国外の国際秩序の問題に関与するかは不透明だが、我が国は自身の身の振りを真剣に検討する必要があるだろう。

 一方、サウジとイランの二国対立に焦点を当てた『中東の新対立 ~サウジとイラン政治構想の衝突~』(カリム・サジャドプール著)は、両国の来し方と力学を詳細に分析した秀作で、中東情勢は断片的情報しか耳に入らない我々一般人にとって、示唆する処が大きい。中東紛争に介入し何かと悪名を馳せるイラン、一方ジャーナリストを惨殺した若い王子が統治するサウジ、何れも徳性に於き物議を醸すが、両国を合わせた天然資源埋蔵量は、石油が全世界の1/3、天然ガスが同1/5を占める重要地域である。

抑々(そもそも)イランとサウジはそれぞれイスラム教シーア派とスンニ派と云う宗教上の違いを持つ。然し、著者視点は、対立軸が今や、双方の国家構想というイデオロギーに於いて決定的に衝突する展開に在ることだ。つまり、イランは「1979年」の半世紀前の保守的イスラム革命の精神を未だに護持、革命体制維持と国民抑制を国内政策とする。一方、サウジは、正統派イスラム教宗主を任じつつ、脱炭素社会を含め近代化と自由化への転換を目標に「2030年構想」を掲げる。つまり、相互背反する1979年構想と2030年構想の衝突で、換言すれば、破壊思想と創造思想の対立だ。更に、外交策では、イランは反米・反イスラエルに対し、サウジは米国安保体制に組み入れられ、対イスラエル国交正常化も一時模索した。イスラエルは両国対立の結節地であり、事態は中東地域に於ける中国の行動と露西亜の影響力により複雑化が避けられない。

両国共に、将来、国内政変が生ずる不安材料をそれぞれ抱える。即ち、イランは現状過激派から穏当派へ、サウジは現状自由派から過激派へ転換する可能性が少なからずある。世界情勢安定の観点から望ましいのは、穏健化したイランと自由化推進するサウジで、一方、最悪な事態はイランが過激路線を保持する中、サウジ迄も過激化するシナリオだ。

 ロバート・ぺイプは『米国に内在する最大の敵 ~米国政治の暴力化傾向~』と題し、同国有権者達が暴力を容認する傾向を指摘し、警鐘を発する。

 又、イスラエル・ガザ問題に関し、ダリア・シェインドリンは『新しいイスラエルの構築に向けて ~自国の民主主義整備が戦争終結と平和の近道~』と題する論稿を寄稿。著者は一貫し、イスラエル民主化、パレスチナ人の権利平等確保を求め、イスラエルの違法入植拡大を非難して来た。2009年にネタニヤフが首相に返り咲いて以降、同国が急速に右傾化、民主主義を抑圧する現行政治体制こそがパレスチナ弾圧と同根に在り、「憲法もなければ国境も定まらぬ」嘆かわしい状態のイスラエルに対し民主改革が必要だと彼女は訴える。

 更に、ラリー・ダイヤモンドによる『民主主義後退に歯止めを掛けるには ~専制主義国家に対抗する新マニュアル~』は、この20年間で世界的に非自由主義国家が拡大する傾向を指摘し分析する論だ。尚、論稿中、1960年代以降の国際権力の長期推移を述べる箇所で、嘗て米国は世界経済GDPの4割を占める地位から、中国の台頭を受け、1990年、そして今日と同比率を25%に落としつつもその水準を尚も維持。一方、日本はと云うと、90年に世界GDPの2割近くを占めた地位は、今や僅か3%に甘んじるとの事態を筆者に指摘されれば、読者は改め愕然とするだろう。国際情勢を憂慮するのも大切だが、先ずは自国存在感が世界から消えぬ心配をする必要がある。尤も、統計比較は当然USドル建に換算されるので、政府と日銀癒着による放漫財政と金融無政策による異常円安は更に我が国規模を縮小させる宿痾と云える。

これら、興味深い論稿は、逐次内容翻訳しお届けする予定。

 尚、当月号の全体構成はと云うと、「戦争に満ちた世界」と題する特集の下に4篇集録、更に「民主主義の後退懸念」をテーマとする関連論稿を3篇ま纏めた。そして、それ以外の一般論稿4篇、合計11本の構成だ。

前者「戦争に満ちた世界」の特集では、その内の一つが上述オリアナ・スカイラー・マストロによる鋭い中国脅威論だ。その他3篇は、一つは『精密兵器の大量導入』と題し、現在のウクライナ戦争やイスラエルとイランの戦火に見る、戦争兵器の変化(ドローン等安価な精密機器を大量動員する攻撃の有効性)を述べた論、又、もう一つは現代戦争の特徴は、戦闘当事者が下から上まで勢揃いした戦争であるとする『全面戦争への回帰』だ(つまり、下はハマス、ヒズボラ、ホーチス等の非国家軍事勢力から、中間はウクライナ等の一般国、加えて、上は露西亜等核保有大国が全て戦争参加する事態を指す)。最後に、国家間戦争開始に至るまでの抑制諸策を説く『戦争は偶然に起こらない』は、理路整然とした論稿だが、内容に一切新味がなく、出来のよい学生のレジュメのような論稿。

 一方、後者の特集、米国が直面する民主主義劣化のテーマでは、上記紹介した『米国に内在する最大の敵』、『民主主義後退に歯止めを掛けるには』の2篇に加え、『大衆主義政治家の亡霊』の一篇を掲載する。

同誌は民主党の大統領選勝利を予想したのであろうか、当月、アントニー・ブリンケン国務長官の直接投稿『米国戦略の見直し ~新世界のリーダーシップを再構築する~』を掲載したが、トランプが勝利した今となっては、同稿は負け犬の遠吠え処か、負け犬の骸(むくろ)と化してしまったのは残念だ。

当月掲載の論稿全11篇の一覧は下記の通り。

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

【当月の同誌掲載論稿一覧】

(投稿論稿)

1)『人口減少の時代 ~シルバー化する世界を生きる~』(The Age of Depopulation ~Surviving a world Gone Gray~,P42-61)

著者:ニコラス・エバーシュタット(NICHOLAS EBERSTAD)

肩書:シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所、政治経済部議長。

2)『中国の代理人達が混沌を惹き起こす ~協力関係を拡大させる中国の軍事理論~』(China’s Agents of Chaos ~The Military Logic of Beijing’s Growing Partnership~,P26-33)

著者:オリアナ・スカイラー・マストロ(ORIANA  SLYLAR  MASTRO)

肩書:スタンフォード大学、国際関係部、フリーマン・スポウグリ協会研究員

3)『中東の新対立 ~サウジとイラン政治構想の衝突~』(The New Battle for the Middle East ~Saudi Arabia and Iran’s Clash of Vision~, P77-91)

著者:カリム・サジャドプール(KARIM  SADJADPOUR)

肩書:シンクタンク、カーネギー国際平和基金、上席研究員

4)『米国に内在する最大の敵 ~米国政治の暴力化傾向~』(Our Own Worst Enemies ~The Violent Style in American Politics~, P141-151)

著者:ロバート・A.ぺイプ(ROBERT A. PAPE)

肩書:シカゴ大学教授(政治科学)、兼、同大学内「安全保障と脅威の研究協会」代表。

5)『新しいイスラエルの構築に向けて ~自国の民主主義整備が戦争終結と平和の近道~』(The Fight for a New Israel ~To End the War and Build a Lasting Peace, the Country Must Reinvest Its Own Democracy~, P92-107)

著者:ダリア・シェインドリン(DAHLIA SCHEINDLIN)

肩書:センチュリー・ファンデーション(米国所在、人権擁護シンクタンク)傘下の研究機関センチュリー・インターナショナルの政策研究員。彼女はテルアビブ在住で、イスラエルの新聞「ハアレツ(Haarets)紙」のコラムニストでもある。

6)『民主主義後退に歯止めを掛けるには ~専制主義国家に対抗する新マニュアル~』(How to End the Democratic Recession ~The Fight Against Autocracy Needs a New Playbook~, P126-140)

著者:ラリー・ダイヤモンド(LARRY DIAMOND)

肩書:フーバー研究所上席研究員、兼、フリーマン・スポウグリ協会上席研究員

7)『大衆主義政治家の亡霊 ~民主主義への脅威は上から始まる~』(The Populist Phantom ~Threats to Democracy Starts at the top~, 108-125)

著者:ラリー・バーテルズ(LARRY M. BARTELS)

肩書:ヴァンダービルト大学教授(政治科学・法学)  

8)『精密兵器の大量導入 ~新技術により変貌する戦争―米国が立ち遅れぬ為に~』(Battles of Precise Mass ~Technology Is Remaking War―and America Must Adapt~, P34-41)

著者:マイケル・C. ホルヴォツ(MICHAEL C. HORWOTZ)

肩書:ペンシルバニア大学教授(国際関係)。彼は米国国防次官補(戦力・先端能力開発担当)として勤務(就任期間2021年-24年)

9)『全面戦争への回帰 ~広範囲な戦闘の新時代到来を理解し備えよ~』(The Return of Total War ~Understanding―and Preparing for―a New Era Comprehensive Conflict~, P8―19)

著者:マーラー・カーリン(MARA KARLIN)

肩書:ジョンズ・ホプキンズ大学教授(先端国際関係)、ブルッキングス研究所客員研究員。尚、彼女は米国国防次官補(国防戦略・計画・能力担当)として勤務(就任期間2021-23年)。

10)『戦争は偶然に起こらない ~火種拡大に直面した際の危機管理法~』(Wars Are Not Accidents ~Managing Risks in the Face of Escalation~, P20-25)

著者:エリック リン-グリーンバーグ(ERIK  LIN-GREENBERG)

肩書:マサチューセッツ工科大学 政治科学准教授

11)『新しい米国戦略 ~新世界の為に米国指導力を再構築する策~』(America’s Strategy of Renewal ~Rebuilding Leadership for a New World~, P62-76)

著者:アントニー・J.ブリンケン(ANTONY J. BLINKEN)

肩書:米国務長官

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