【フォーリンアフェアーズ誌 ガイド(2023年9月・10月号)掲載論文の概要紹介】 (Foreign Affairs 2023年 September/October号 、The Council on Foreign Relation出版)

 当月号表紙は「死に物狂いの独裁者達」(The Desperation of the Dictators)と題し、露西亜のプーチンと中国の習を取り扱う諸稿を花形論文に据えた。プーチンに就いては、同体制分析と今後の展開を占う論『混沌たるプーチン時代 ~無秩序な露西亜が齎(もたら)す危険の数々~』(タチアナ・スタノファーヤ著)及び、侵略政策の根源に潜む歴史観(露西亜思想)を紐解く論『露西亜思想の終焉 ~プーチン政権掌握力のアキレス腱~』(アンドレイ・コレスニコフ著)の計2篇を掲載。又、習近平の中国に関しては、米中対立は不可避にして永続し、両国緊張緩和は幻影に過ぎぬと諭す論(当月号巻頭を飾る)『緊張緩和と云う幻想 ~米中競合関係は永続する理由~』(マイケル・ベックリー著)、並びに現在の中国経済不振下、同国が取る鎖国的政策の分析論『習が直面する景気不振の時代 ~中国の大鎖国政策~』(イアン・ジョンソン著)、更に、同国成長減速に付け入り米国戦略展開を提言する『中国の奇跡的経済成長の終焉~北京が悪戦苦闘する隙に米国が付け入る諸策~』(アダムS.ポーセン著)、最後に一帯一路策の不首尾な現実を暴く論『中国一帯一路策は廃墟へ至る道か? ~北京の一帯一路策の実際のコスト~』(マイケル・べノン、フランシス・フクヤマ共著)、計4本を収録する。尚、露西亜に関する上述諸論稿は、プリゴジンの8月下旬墜落死の前に書かれたものだが、何れも骨太の分析に基づき展開される文脈に影響なく、実に示唆に富む主張である。

 次に焦点を当てたのがAI普及に関連する問題だ。イアン・ブレマーとムスタファ・シュリーマン共著による投稿『人工知能が持つ矛盾した権能力~手遅れになる前に、米国は有効なAI管理手法を習得出来るか?~』は、従来より巨大テクノロジー企業を注視して来たブレマーとAI企業経営前線に自ら立つシュリーマンからの危機感迫る提言だ。我が国のAI対応は、常に後追いで欧米に遥か及ばぬが、国民各位が政界や学会に先駆け基本的見識と覚悟を持つべく必読の論である。

 更に、当月書評欄でも本問題を取り上げた。こちらは、『商業界の怪物~東印度会社が如何に近代世界を形造ったのか~』と題し、今から400年以上も前に英国に設立された企業に纏わる話だが、その視点は、東印度会社が絶大な権力をバックに植民地支配した姿を、現在のテクノ巨大企業に重ねるものだ。当時、和蘭(オランダ)東印度会社の資産総額は、現代の物価換算で7兆9千億ドル(今の為替レートなら昨年の日本国一国のGDPの2倍以上の規模)で、論評中に紹介される比喩―巨大ITを始め名だたる巨人企業を全て束ねた時価総額(アルファベット、アマゾン、アップル、フェイスブック、アリババ、エクソンモービル、Visa、ジョンソンジョンソン、マクドナルド、サムソン、ネットフリックス、等々)よりもそれは大きかった点―は興味深い。

評者はキャロライン・エルキンズ(ハーバード大学教授)。対象図書はフィリップ・スターン著『歴史上最強の帝国にして株式会社、東印度会社の真実 ~東印度会社が大英帝国植民主義を成立させた~』。 

 それ以外の投稿トピックスは、国際経済、ウクライナ戦争を舞台とする軍事技術論、欧州政治経済の復権提言、及び、対トルコ、エルドガン政権に対する米国外交策提言が各一篇、総計、11本を含む。各論の目次と概要は以下の通り。興味深い論稿は、邦訳を当ブログに順次掲載しますのでご参照下さい。

【掲載論文11篇及び書評】

1)『緊張緩和と云う幻想 ~米中競合関係は永続する理由~』マイケル・ベックリー著(Delusions of Detante ~Why America and China Will Be Enduring Rivals~ , by MICHAEL BECKLEY)著者はタフツ大学准教授(政治科学)、及び米シンクタンク“アメリカン・エンタープライズ研究所”非常勤上級研究員 

2)『人工知能が持つ矛盾した権能力 ~手遅れになる前に、米国は有効なAI管理手法を習得出来るか?~』イアン・ブレマー、ムスタファ・シュリーマン共著(The AI Power Paradox ~ Can States Learn to Govern Artificial Intelligence―Before It’s Too Late ? ~, by IAN BREMMER and MUSTAFA SULEYMAN)。著者達は、前者はユーラシアグループ(ニューヨーク本社の政治コンサル企業)と同下部所属会社 GZERO Media) 創設兼代表者。後者は今を時めく、AIスタートアップ企業のインフェクションAI社(Inflection AI)のCEO兼共同設立者(彼は嘗てDeepMind社を共同創業したが、その後、同社を現在のAlphabet社-旧Googleへ身売りした)。

3)『混沌たるプーチン時代 ~無秩序な露西亜が齎(もたら)す危険の数々~』タチアナ・スタノファーヤ著 (Putin’s Age of Chaos ~The Dengers of Russian Disorder~, by TATIANA STANOVAYA)著者はカーネギー平和財団、ロシア・ユーラシアセンター上級研究員。及び「R.Politik」社(政治分析企業)創設者兼CEO。

4)『露西亜思想の終焉 ~プーチン政権掌握力のアキレス腱~』 アンドレイ・コレスニコフ著(The End of the Russian Idea ~What It Will Take to Break Putinism’s Grip~, by ANDREI KOLESNIKOV)著者はカーネギー ロシア・ユーラシアセンター上級研究員。     

5)『習が直面する景気不振の時代 ~中国の大鎖国政策~』 イアン・ジョンソン著。(Xi’s Age of Stagnation ~The Great Walling-Off of China~ by JAN JOHNSON)著者は外交問題評議会所属、中国問題上席研究員。

6)『中国の奇跡的経済成長の終焉 ~北京が悪戦苦闘する隙に米国が付け入る諸策~』アダムS.ポーセン著(The End of China’s Economic Mircle ~How Beijing’s Struggles Could Be an Opportunity for Washington~, by ADAM S. POSEN)。著者はピーターソン国際経済研究所 社長。

7)『危機に対し脆弱である代償 ~国際経済はやがて来る衝撃に備えが足りない理由~』クリスタリナ・ゲオルギエヴァ著(The Price of Fragmentation ~Why the Global Economy Isn’t Ready for the Shocks~, by KRISTALINA GEORGIEVA)。著者はIMF 専務理事。

8)『中国一帯一路策は廃墟へ至る道か? ~北京の一帯一路策の実際のコスト~』マイケル・べノン、フランシス・フクヤマ共著(China’s Roach to Ruin ~The Real Toll of Beijin’s Belt and Road~、by MICHAEL BENNON and FRANCIS FUKUYAMA)著者達は、それぞれスタンフォード大学所内、フリーマン・スポルギー国際関係研究所調査研究員、兼国際インフラ調査計画主任、並びに同上研究所上席研究員。

9)『塹壕に立て籠る戦い ~技術革新もウクライナでの戦闘遂行を変容できなかった事情~』ステファン・ビドル著(Back in the Trenches ~Why New Technology Hasn’t Revolutionized Warfare in Ukrane~, by STEPHEN BIDDLE)著者はコロンビア大学教授(国際公共学部)。

10)『欧州による地勢経済革命 ~EUが真の権力行使を如何に学んだのか~』マアイアス・マチス、ソフィー・ムニエ共著(Europe’s Geoeconimic Revolution ~How the EU Learned to Wield Its Real Power~, by MATTHIAS MATTHIS, and SOPHIE MEUNIER )著者達は、それぞれ、ジョン・ホプキンス大学教授(政治経済)及びプリンストン大学上席研究員。

11)『権力闘争を勝ち残ったその男、エルドガン ~トルコ国最高位に座す、筋書きを持たぬ即興人に対し、米国は新しい対応手法が必要だ~』ヘンリ・J・バルケイ著(Erdogan the Survivor  ~Washington Needs a New Approach to Turkey’s Improviser in Chief~, by Henri J. Barkey) 著者は米国リーハイ大学教授(国際関係)。

【書評】

 『商業界の怪物 ~東印度会社が如何に近代世界を形造ったのか~』(The Merchant’s Leviathan ~How the East India Company Made the Modern World~)

評者/肩書: キャロライン・エルキンズ(CAROLINE ELKINS)/ ハーバード大学歴史学教授、ハーバードビジネススクール教授。近著「暴政の遺産 ~大英帝国の歴史~」の著者(Legacy of Violence ~A History of the British Empire~)。

対象書籍:『歴史上最強の帝国にして株式会社、東印度会社の真実 ~東印度会社が大英帝国植民主義を成立させた~』 フィリップ・スターン著(Empire, Incorporated ~The Corporations That Built British Colonialism~, by PHILILP STERN)

2023年5月出版

(了)

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