【フォーリンアフェアーズ誌ガイド 2025年11月・12月号概要】 (原書:Foreign Affairs, 2025年November/December号、the Council on Foreign Relations出版)

 当月号サブタイトルは、通商が政治の武器と化する昨今潮流を踏まえ、「権力行使の新しい道具」と付された。エネルギー資源を人質にとる地政学の歴史と現状、これへの対抗策としてサプライチェーン強化策、及び新たな国力尺度と云えるAIの開発競争に関する論稿を掲載した(それぞれ、『エネルギー武器化策の復活』、『米国の危ういサプライチェーン』、及び『AI大競争時代』)。

一方、米国最大の競争相手に位置付けられる中国を分析した論稿、『中国対中国』と『中国経済モデルの致命的欠陥』の二論を紹介。後者は過剰生産が解消されない仕組みを指摘、一方、前者は習政権のしぶとさを分析したもので、当月最も興味深い論稿だ(バイデン政権下国家安全保障会議元メンバーの中国通による執筆)。

 また、今年6月核施設爆撃を被ったイランに関し、同国行方を予想する『アヤトラ・ハメネイ政権の黄昏』は、同国消息への注目度が本邦で不十分な中、日本人として今後の展望に対し心積りを持つ意味で参考とすべき必読の論だ。

 当月巻頭を飾るのは、マイケル・ベックリー(タフツ大学准教授)による『沈滞する世界秩序 ~新興国家の台頭なき世~』。彼が予見する、勃興国が出現しない世界は、明るい未来ではない。力のある国は勝手し放題する中、米国は相互主義に傾斜し、生存に必死な国は軍備増強に走り、過剰債務と人口老齢化を抱える脆弱国は没落すると云う近未来図だ。せめての“慰み”は、既存勢力と新興勢力間の抗争が生じない分、過去に比し暴力が減じると筆者は予想するが、果たしてどうだろう? 賛否を呼ぶ論だ。

 一方、『ユーラシアの新秩序 ~大西洋と太平洋の戦略連関が必要だ~』は、中・露・北鮮による共謀が進む情勢下、米国は同盟国を重視し、亜細亜-欧州の同盟結束を強化し共に脅威に当たれと、現行トランプ政策の軌道修正を主張する。

 それ以外には『相互主義こそが大戦略だ~米国本位の経済秩序を作る法~』(著者:オーレン・キャス)と『露西亜の復活 ~ウクライナ戦争から学んだクレムリン政府~』の2編を収録。前者は、現行トランプ政権礼賛論で、グローバリズム批判と相互主義に基づく経済と安全保障のブロック化の提唱。後者は、露西亜が開戦初期の失敗から学ぶ能力を発揮したことが、今般ウクライナ軍の苦戦を招く結果となり、中期的に露軍がウクライナを一層圧迫し優勢が続くとの主張だ。露西亜の学習成果として、兵器不良率改善、ドローン導入充実化、兵士訓練向上、前線指揮系統を中央集権型から分散型への変換等が列挙される。

以上10篇が今月の掲載論稿だ。

 又、当月書評欄は『習近平の父、習仲勲 ~共産党に捧げた生涯~』(ジョゼフ・トリジアン著、2025年6月出版)に対し、オーヴィル・シェルが加えた論評が、非常に興味深い。評者は、当伝記に描かれる、反共産分子の烙印を押された父に連座し、習の幼年期に一家に加えられた社会的虐待が、その後、彼の政治思想と手法にどう影響したかを『習近平が体験した誤った教育 ~権力抗争に翻弄された父から学んだ権力の代償~』と題し読み解いて行く、俊逸な評だ。

上記、諸論に就き興味深いものに関し更に概要を補記し以下にお届けします。又、幾編かを選定し、別途逐語訳を掲載する予定です。 

【当月論文の概要】

<一般論稿>

1)

『中国対中国 ~同国が遂げた成果の副作用に難渋する習近平~』(原典:『China Against China  ~Xi Jinping Confronts the Downsides of Success~』, 当月号P122-133)

著者: ジョナサン・A. チン(Jonathan A. Czin) 

肩書:現ブルキングズ研究所 中国センター研究員。バイデン政権下NSC国家安全保障会議中国部長(2021-23年)。元CIA在籍上級分析官在籍。

 米中競合の観点に於いて、中国勢力評価は未だ諸説定まらず、従い米側対応策もそれに連れ振れ続けた経緯がある。そんな中、「中国侮り難し」と筆者は結論する。40年の開放経済下に急成長を謳歌した結果、今、中国がその副作用に呻吟する姿が見られる。然し、習近平はそれら弱点を認識の上、克服する強靭性を備える、と云うのが当論稿主旨だ。現に、今年4月、トランプ政権は関税圧力策を仕掛けたが、中国から対米レアアース輸出規制のカードで反撃され忽ち敗北、米国が“張り子の虎”(毛沢東が嘗て米国を揶揄した表現)ぶりを露呈したことは記憶に新しい。

 筆者の分析する習の強靭性は、体制を権力分散型から彼個人の一点集権制へ転換を成し遂げ権力掌握した点にある。抑々、中国が鄧小平政権以降静かに推進して来た「目立たずに時間を稼ぐ」策を脱ぎ捨て、「堂々大手を振って進む」政策転換した転機は、2008年世界金融危機で他国が沈む中、中国が経済を引っ張り、自信を深めたことに在った。習が国家主席就任の翌年、2013年に南志那海南沙諸島12平方キロメートルの領有を主張、このキャンペーンにより軍、外交、内政の不満を封じ、決定的に権力掌握、又、習自身も偉大な中華帝国復権を自覚し始めた。彼は、内に汚職摘発、治安部隊を活用し国内統制強化、反西欧主義を掲げ、海外からの影響を排除し自国を絶縁化した。

一方、経済に就いては二重循環策(内需活性化と輸出振興)を推進、成長副作用の不動産バブル崩壊をも自信を以って静観し容認、国家主導でハイテク産業を牽引し、グリーンエネルギー大国を実現。レアアースを武器にトランプ関税戦争に勝利し、経済減速回避と輸出産業防衛に成功したのだ。

 筆者は、権力集中した習政権の命脈も分析。政権禅譲に際し、後任者に権力移譲しつつ自身は害されない状況を造れるか堂かが問題で、次回、2027年に開催の党大会でポスト習へ布石を打つ動きが出るかが注目点だ。次の指導者は、軍を十分掌握出来なければ短命に終わる。跡目争いで揉めれば国が乱れるのは旧ソ連邦に見た通りだ。但し、万一それが拗れても「中国崩壊に繋がる事態には至らない」と筆者は見解。その理由は、史上稀に見る事態緊迫を見た文化革命や天安門事件ですらも政権維持し乗り切った底力を中国共産党は保持する為だ、と。

 そして、筆者は「米国の分断と政治混乱は習を利する丈だ」と米国政府へ物申す。トランプ式行政集中統治の弊害が既に発出する中、米国は内部から弱体化する一方、習の独裁が益々増強されよう。米国は防衛基礎産業整備とサプライチェーン構築に尽力すべきで、政府高官達に対し「難題から逃げるな!」と発破を掛け論は結ばれる。

(訳者補注)

1.

 論稿表題「中国対中国」は、中国共産党員王扈寧(Wang Huning)が1989年に著した「美国対美国(アメリカ対アメリカ)」のタイトルを模したものだ。同書は米国内面に、麻薬、人種、貧富格差等の諸問題が存在し、「強さ」の中の「弱さ」と云う根本矛盾を孕み、国民は精神支柱を欠き、若者の無教育な状況を指摘した。著者の王はその後、党幹部に昇進すると共に、彼の史観が江沢民、胡錦涛時代の重要理論(科学発展観)に反映された。当論稿中に、習近平は「美国対美国」の主旨を継承し、米国の弱点が、物質主義、個人主義、及び精神性欠如にあると認識した、とある。

余談乍ら、1980年代を映して著された同書には、米国を猛追し日の出の勢いで経済成長を遂げる当時の日本に関する叙述がある。即ち、米式個人主義に比し、日本式集団主義の有利と挑戦を賞賛し、日本に更に続いて、米国に対抗し追撃の射程距離に収める国々の出現を暗示しつつ、王は期待を込めたのだった。それから35年経た今、当の中国自身が米国を追い、ジャパン・アズ・ナンバーワンの誉高かった日本は低迷する皮肉な事態だ。決して歴史の偶然でなく、我が国は政治と経済政策の検証と反省なくして、これからの前進はない。

2.

 論稿中、著者は米法学者カール・ミンズナーによる2018年の著作『中国改革時代の終わり ~独裁制復活が同国成長を阻害する~』に言及。(原書『End of an Era : How China ‘s Authoritarian Revival is Undermining its Rise』By Carl Minzner)。同書主旨は1980年代以降、共産党一党支配下に経済急成長を遂げた中国は、副作用として様々矛盾発生、富の集中、都会と地方の格差、失業が拡大し、革命発生のバロメーターでもあるGINI係数(富の分配偏在度を測る指数)は世界最大の危険水準に到達。習近平はこれらを抑え込むべく、鄧小平の敷いた自由解放改革路線に反撃、同書はこれを習による『反・改革の時代』到来と称し、恰も19世紀、露西亜の皇帝による“反革命運動”との類似を指摘し、騒擾発生を呼び最悪政権転覆の可能性をも示唆した。論稿著者は同見解を否定し、寧ろ習政権のしぶとさを主張する。

3 .

 当論終盤、筆者が惰眠を貪るが如く、安穏とする米国政治家達に喝を入れる件は痛快であると同時に、我が日本国を顧みれば身に絆(つま)される。曰く、「米国がこれ迄、手痛い失策を繰り返したにも拘わらず、尚も超大国の地位を守っているのは、一重に過去から引き継いだ遺産がふんだんにあるお陰だ。まるで放蕩息子のように親の財産を蕩尽しても米国だから持っているようなものの、これが他の国ならとうに潰れている!」と。(訳者補注了)

2)

『アヤトラ・ハメネイ政権の黄昏 ~イランに来る変化~』(原典:The Autumn of the Ayatollahs  ~What Kind of Change Is Coming to Iran?~, 当月号P84-98)

著者: カリム・サジャドプール(Karim Sadjadpour)

肩書:カーネギー平和財団上席研究員

 1979年のイスラム革命政権発足以来、イランは最大の危機に直面する。今年、同国都市と軍事施設がイスラエルから攻撃を受け、6月には米軍から核施設破壊攻撃を被り、その弱体ぶりを露呈。最早、周辺地域への影響力は削がれ、自国領空の防衛力もなく、更に国内抗議運動を制御する能力も減じた。35年間、国家最高指導者として君臨したアヤトラ・ハメネイ師は既に御年86歳、彼が世を去った後にイランに生じ得るシナリオを筆者は以下に分析する。

a)体制崩壊後は、露西亜プーチン型の専制国家に変貌する、b)毛沢東政権後の中国のように、現実主義へ舵を切る、c)北朝鮮方式の内政抑圧と対外孤立化へ走る、d)パキスタン型の軍事政権へ移行、但し宗教色が薄まる。或いは、e)トルコ型、即ち、エルドガンのように選挙実施しつつ徐々に独裁化。但し、イランでこれを為すには選挙や民主手続きの完全な制度変更を伴う。その結果、ポピュリズム指導者が台頭、中央集権下に汚職蔓延する中、尚も宗教をシンボルとする“混合型”国家となる公算が大きい。

更に、これ以外の可能性は、g)革命時亡命したパーレビ国王の子息(レザ・パーレビ)の復権、然し半世紀母国を留守にしたハンディ大きい、h)旧ユーゴスラビアがソ連崩壊後、民族居住地域に沿って結局6ケ国に分離、各々独立したと類似の道を歩む。但し、ユーゴと異なり、イランは歴史民族や言語の一体感が強い為、このシナリオ実現確率は低い。

 イランは2,500年の歴史と広い国土に人口9千2百万人を擁する石油資源大国だ。それにも拘わらず、現国情は、制裁下に世界経済から隔絶し、自国通貨は最脆弱、同国パスポートは世に最も通用せず、国民は極度の大気汚染環境の中に断水と停電に暮らす。彼らの多くは「イスラエルと米国に死を」の国是に最早賛同せず、「普通の生活をよこせ」と訴えている。

 筆者は、以上、諸事可能性を示唆しつつも、重要なのは変化自体ではなく、その先に来るのは「冬か春か」が問題と云う。更に、イラン革命政権治世を、国民にとり「失われた50年」と表現。この間、多くの他諸国が発展し生活水準を向上させた中、イラン政権は自国の人と資源を無為に浪費した点に反省が必要と指摘する。

 以上が論者の主旨だ。イランの辿った道筋は国民自身の選択によるもので、無論、今後の進路も彼らが決める話だ。他国の話はさて置き、我が国は、アベノミクスを含む失われた30年間の総括こそが必要だろう。

3)

『沈滞する世界秩序 ~新興国家の台頭なき世~』(原典:『The Stagnant Order  ~And the End of Rising Power~』, 当月号P8-17)

著者:マイケル・ベックリー (Michael Beckley)

肩書:タフツ大学准教授、兼シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所上席研究員

 筆者は、歴史の潮流を汲んで興味深い仮説を提示する。即ち、過去250年、振興国の勃興と既存勢力の対立から幾度も戦禍に晒されて来た世界は、今後は停滞、謂わば老成期入りし、争いの少ない穏やかな世の到来を予想する。つまり、人口と国力老年化により世界の覇権競争は減退し、活発さを欠くものの、より安全で平穏になる。現に、全世界の中間年齢は、第一大戦時の20才から今日は40才迄老齢化した。そして、世界は今後、経済的利便性と健康、及び教育水準に於ける向上を享受し、移民問題への対処は要するものの、国際労働と資本は途上国と富裕国間を還流、平準化され世界全体が成長する、と云うものだ。この見立ては、産業革命後に英国、米国、独逸、日本、そして露西亜、と次々新興国が勃興し、その都度、既存勢力との衝突を経て権力シフトを惹き起こした傾向が終わり、中国の躍進を最後に、今後、歴史上新たな台頭国家が出現しないことを基調としている。

 尤も、同予想は将来のアップサイドを探った結果で、寧ろ筆者は、現状世界が「第二次世界大戦前夜に類似した」困難な状況と認識。それは、国際諸機構が機能不全、軍縮は破綻、経済国家主義が蔓延し、米国は自己利益重視で国際社会から後退、民主主義が内部から劣化する事態だ。従い、筆者の描く平穏な将来像は、世界がこの危険な状態を管理し切り抜けた後に展開する景色だ。

 論稿中に筆者の興味深い見解が複数ある。例えば、プーチンや習近平の独裁者に関し指摘するのは、彼らは政権が倒壊するトラウマに捕らわれ「一般には自殺行為のような選択肢も、彼らは運命と見做す」危険がある点。又、19世紀の勢力変遷を、露西亜や中国の債務過剰の大帝国が、独逸、日本、英国の効率的小国に負かされたと要約する下りからは、国家衰亡の共通症状に「過大債務」がある点が読み取れる。今の日本は肝に銘ずべきだろう。

又、過去10年、“全要素生産性”(*)の向上を遂げたのは、米と印度のみで、その他諸国は全て低落、特に日本の減退を特記する。

 筆者は、今後飛翔を続け得る可能性のある唯一の国が中国であるとしつつ、その強みと弱みは相半ばし、行く先予断を許さぬと見解。尚、印度が台頭国として飛翔しない理由は、若手労働者の9割が読み書・算術の必須能力を今も欠き、優秀人材・頭脳は海外流出、更に、労働者の8割は課税対象外の地下経済に就労する事情による。

(*訳者注)全要素生産性:労働、資本の投入量以外の、技術革新やスキルアップによる生産性向上を測る尺度。

<特集論文 3篇> ~ 権力行使の新しい道具 ~

1)『エネルギー武器化策の復活 ~古来の戦法が齎す新たな危険~』(原典:『The Return of the Energy Weapon  ~An Old Tool Creating New Dangers~』、当月号P56-71)

著者:ジェイソン・ボードフ、メーガン・サリバン共著

肩書:前者はコロンビア大学教授、後者はハーバード・ケネディースクール教授

 筆者は、今般のエネルギーを武器化する動きは、近代史上4回目と振り返る。第一次大戦の英国による対独石油輸出封鎖、第二次大戦のソ連による対独コーカサス油田占領阻止、そして1972年、石油カルテルが油価を3倍値上げした所謂オイルショック、と過去に3回生じた。然し、その後50年間、価格支配力が薄れ平穏化したのは、各国が省力と代替対策に注力したことに加え、米国シェールオイル・ガス供給開始により需給緩和した為だ。

 処が、この認識が崩れた。ウクライナ戦争を契機に露西亜が、欧州向けガス供給停止したのを皮切りに、中国のレアアース輸出規制、更に関税戦争下にカナダが対米電力輸出を規制する等、環境は変化。長らく静かに潜伏したエネルギー武器化の手段が復活し、各国は更にその刃を研ぎ澄ます事態に今日至ったのだ。

 著者の見通しでは、今後、同手段は大国間競争に利用されるのみならず、エネルギー分野の技術発展が更なる武器化利用の余地を拡大させ、この結果、小国は益々圧迫される世界に向かう。これへの対抗策は、「ゼロカーボン社会への移行」であり、サプライチェーン強化と連携推進させ、悪影響の軽減が可能と説く。

2)『米国の危ういサプライチェーン ~米国要塞化策は安全ではない~』(原典:『The New Supply Chain Insecurity ~Fortress America Is Not a Safer America~』、当月号P44-55)

著者:シャノン・K.オニール

肩書:米外交問題評議会役員

 国際自由経済推奨派の筆者が、トランプ関税を批判する論だ。同策導入により、現在、米国の平均輸入関税率は18%に達し、過去百年間で最高水準だ。同政権が謳う関税策の効用、即ち「関税が国内産業再生の起爆となり、雇用を創出し、貿易赤字を黒字に転じ、戦略物資と一般財共に敵対国からの輸入に頼らずに済む」との理論は働かず、寧ろ現実には反対に、国内製造コストが上昇し、品質は低下し、経済成長と国際競争力は制約を受けると指摘。

その影響は、要の防衛産業へも及び、製造コスト上昇から米国の武器輸出競争力を損なうのみならず、EUの同盟諸国による兵器や防空システムの自国生産、並びに欧州と日本との兵器技術協力を加速させ、米国離れが進む。

 彼女の提言は、同盟諸国を尊重し、友好国へ課した関税を撤廃し、産業保護は最小限の特定分野に限定することだ。さもないと、米国自身の経済が弱まる丈でなく、他諸国は2018年発効した、TTP協定(日本を含む太平洋諸国が加盟し、メンバー諸国は現在世界GDPの15%を構成)は今後、英国、中国の参画も得て拡大する可能性があり、そうなれば米国が取り残される危険を指摘する。

3)『AI大競争時代 ~開発競争勝利の為に、米国が必要なこと~』(原典:『The AI Grand Bargain ~What America Needs to Win the Innovation Race~』、当月号P72-83)

著者:ベン・ブキャナン、タンタム・コリンズ共著

肩書:前者は、ジョンホプキンズ大学准教授、後者は元米国国家安全保障会議メンバー

 前バイデン政権に仕えた高官達が、昨今の米中競争の環境下にあるべきAI政策を提言する。

AIは、政府が開発管理する核兵器や宇宙開発とは異なり、民間に委ねられるべき分野だが、政府の関与が不可欠であり、目指す姿を譬えるなら、1800年代、米国大陸の鉄道普及に際し、政府がルール制定し安全確保し、民間企業主導で敷設拡大させた如くの官民協調型だ。

 対中競合の観点では、同国は米国に倍する電力供給能力を有し、軍との連携と諜報面での利用価値から政府がAI企業を支援する強味があるのに対し、半導体生産能力不足が弱味だ。これらを踏まえ、米国が留意すべきは、電力拡充と人材確保、そして対中情報漏洩防止策だ。現トランプ政権の「誤った政策」として、対中AI半導体輸出に就いてバイデンが強化した規制を見す見す緩和し敵に塩を送ったこと、反移民政策によってAIに必要な人材が流出すること、更にバイデン政権下に推進したグリーンエネルギー発電能力拡大と配電網拡充計画をトランプが骨抜きにし頓挫させたこと、を挙げる。政府は、AI分野の長期投資を押し、世界の検閲標準規格の覇権争いを制するべきと指摘。

 一方、AIの重大な特性に鑑み、AIが秘める甚大な危険性(病原菌創造、アルゴリズムの暴走、雇用の大量喪失、貧富格差拡大等)と効用利便性とのトレードオフを勘案し、その開発速度を推進すべきか、安全確保にブレーキを踏むか、塩梅し対策することこそが政府の果たすべき役割だと主張する。

 真っ当な論である。一方、我が国に於いては本質的議論を全く斯く儘にAIブームに流されている。AIは電力を喰うのだ。人間の頭脳並みのコンピューターの稼働には、10畳敷の部屋を埋めるサーバーを要し、その電力代丈で月2千万円だと聞いた。これに比べて、生身の脳みそは、何と安上がりではないか。そっちの活用をもっと真剣に考えた方がいい。トランプが「うんこ」のお絵描きをするように、全国民が作画、写真改ざんに熱中すること程、電気の無駄使いはない。AIの用途は緊急・必須分野に制限されるべだろう。電力の乏しい日本が、野放図な原発再稼働に舵を切るのは、全く“脳みそを使わない”安直な決断だ。

<その他>

1)『中国経済モデルの致命的欠陥 ~過剰生産が解消されない訳~』(原典:『The China Model’s Fatal Flaw  ~Why Beijing Can’t Overcome Overcapacity~』、当月号P134-145)

著者:リジィー・リー

肩書:亜細亜地域政策研究センター研究員

 中国は常態的に過剰生産を抱えて来たが、2020年以、深刻度は各段に増し今や構造問題と化した。背景は、先ず同国マクロ経済要因として、元来国内消費が弱く、成長持続に外需を求め大規模製造業の輸出ドライブが必須なのだ(同国は世界一の節約大国で家計預金残高と粗貯蓄額合計規模はGDP比43%)。加え、地方政府を過剰設備に走らせるインセンティブが構造的に存在。共産党が地方幹部の人事評点で重視するのが「成長、雇用、税収」の3項目だ。昇進を目指し各地方政府責任者は、国家が計画に掲げる重点奨励分野に対し、質よりスピード、技術革新より規模拡大、収益性よりも投資規模を優先させ、手っ取り速く促成に傾注、その結果、同国主力は、玩具からEVへと品は変遷しても、依然「製造業」依存体質を脱皮しない。更に、税収の基礎たる同国付加価値税は、一般と異なり、消費地でなく“生産地”課税方式であるが故に一層、地方間で競うように製造業育成に走る。過当競争により企業経営は赤字化するが、地方政府は成績を維持する為、中央政府から資金借入れし、銀行経由資金提供を継続、不採算企業は金利のみを返済し倒産せず延命、これがゾンビ企業群を形成する。

 一方、政府系資金を得られないヴェンチャーキャピタル企業は、バイトダンス(Byte Dance)の育て親である紅杉(HongShan)を始め米国国株式市場に上場を果たし、2020年時点で中国企業時価総額が2兆2万ドルに達する活況を呈した。然し、同年末に中国政府がアント・グループを始めテック企業弾圧方針を明確化した結果、以降、中国スタートアップ企業が外資を惹き付ける可能性は消えた。

筆者は、これら構造的病巣にメスが入らぬ限り、事態改善しないと説く。尚、知的財産窃盗行為に定評ある同国習性は、国内過当競争に加え、企業の税・福祉費用負担が他国より重い(利益に対する賦課率は米国37%に対し中国59%)点が拍車を掛ける一因との言及がある。

2)『ユーラシアの新秩序 ~大西洋と太平洋の戦略連関が必要だ~』(原典:『The Eurasian Order  ~America must Link Its Atlantic and Pacific Strategies~』、当月号P99-109)

著者: ジュリアン・スミス、リンジィー・フォード共著

肩書: 前者はNATO米国議会代表、後者は米国家安全保障会議メンバー

 ― 補記なし ―

3) 『相互主義こそが大戦略だ~米国本位の経済秩序を作る法~』(原典:『A Grand Strategy of Reciprocity ~How to Build an Economic and Security Order That Works for America~』、当月号P28-43)

著者:オーレン・キャス

肩書:「アメリカン・コンパス」紙 経済担当主筆

 ― 補記なし ―

4)『露西亜の復活 ~ウクライナ戦争から学んだクレムリン政府~』(原典:『How Russia Recovered ~What the Kremlin Is Learning From the War in Ukraine~』、当月号P110-121)

著者:ダラ・マシコット

肩書:カーネギー平和財団上席研究員

 ― 補記なし ―

【書評】

『習近平が体験した誤った教育 ~権力抗争に翻弄された父から学んだ権力の代償~』(原典:『The Miseducation of Xi Jinping ~How a Father’s Struggle Revealed the Price of Power ~』、当月号P146-154)

評者:オーヴィル・シェル (Orville Schell)

肩書:亜細亜ソサエティ(the Asia Society)米中関係センター所長。元カルフォルニア大学バークレー校大学院(ジャーナリズム)学部長。

対象図書: 『習近平の父、習仲勲 ~共産党に捧げた生涯~』

著者:ジョゼフ・トリジアン(Joseph Torigian) 

2025年6月、スタンフォード大学出版 718ページ (原題『The Party’s Interests Come First: The Life of Xi Zhongxun, Farther of Xi Jinping』)

 対象図書は、習近平の父、習仲勲の生涯を追う長編伝記(718ページ)だ。毛沢東の信頼厚く共産党幹部へ登用された彼は、1962年中ソ対立化の綾から“濡れ衣”的に「反共産分子」の烙印を押され失脚。追放された一家は、その後16年もの間、精神と肉体への集団制裁を加え続けられた。1978年、文革終了後、鄧小平が権力掌握し、父親は復権、再度要職を得て中国開放経済推進に貢献。彼は2002年死去。その10年後、息子の習近平が国家主席に就任、と云うのが習一族の波乱に満ちた履歴だ。

但し、評者が注目するのは、父親に連座し一家は16年間も社会から迫害され、特に習近平が多感な9歳から25歳の間に周囲から受けた蔑みと虐待の体験が、後に国家最高指導者となる彼自身に与えた影響を読み解ける点だ。

 習近平は父が再婚した若い後妻の子だ。父の失脚の影響は容赦なく家庭へ及び、反共産分子の家族は、最下層民として常に反省を強要され周囲から批判と暴行を受ける対象だった。母親の顔はいつも痣だらけで、ある時、集団虐待を受けた際、彼女は傍らにいた習近平を指さし「私でなく、この子をぶって!」と繰り返し叫んだ。更に、ある夜、余りのひもじさから、習が寄宿学校を逃げ出し母の家に行き食べ物を無心すると、母親は即刻密告し習を当局へ引き渡した。つまり、万国の母親が我が身に代えて我が子を庇うに比し、習は全く逆の境遇に生育した。習は15歳になると収監され尋問を受け、拘置所で酷く体調を崩しその際は死も覚悟した。18歳で「青年農村開拓団」として陝西省の寒村へ送られ、7年間の肉体労働を強いられるが、この環境は彼にとり寧ろ救いだった。

 この壮絶な体験がどう影響したか。評者は習自身の発言に言及しつつ、彼が身に付けた四つの特徴を指摘する。先ず、「真実を語るなかれ」。習は父から常々「人を迫害するな、真実を語れ」との訓戒を受けたが、前者は守れても、後者の実行は無理な相談だと自身は語る。次は「愚鈍なふりをし、不正直であるのが生き残る手段だ」。更に、「周囲を警戒しつつ、寡黙であれ」。そして、最後に最も重要なのは「紅より更に紅に」だ。これは、共産党に生涯忠誠を誓っていたにも拘わらず父の受けた不遇から学んだと同時に、習近平自身が周囲からの批判を回避する為に自身の骨の髄まで染みた処世訓なのだ。

 習は、父が復権後に進めた開放路線を踏襲することなく、寧ろ逆に保守化した。彼の中には、自身の一家が受けた虐待や1989年の天安門事件に代表されるレーニン体制主義による政治迫害思想が、決して総括されることない儘、尚も底流に流れ続ける。“逆境の学園”は根性を鍛錬し聖人の揺り籠ともなり得るが、結局、習一族の場合は、親子共々心底叩き込まれた紅の共産主義思想は一層強化されたのだった。

当書評を一覧すれば、習の尋常ならぬ生い立ちと権力闘争で形成された複雑な内面が窺い知れる。金と女と虚栄心の三つのツボを押さえれば事足りる、単純なトランプとは役者が違う。政府も高市首相も、明らかに油断し下手を打った。

【訳者所感】

『ストップ・ザ・高市 ~高市氏の首相としての資質を問う~』

 今月は、日中関係を巡り世間が大きく揺れた。関連記事が来る日も来る日も報じられ、それを巡って専門家や評論家達が事態を浅読み・深読みし憶測、その諸見解は更に議論を呼び未だ収束を見ない。本来、全く無用な筈の摩擦と時間と手間と実害が世界レベルで発生した。

 然し、事の本質は至ってシンプルだ。「戦後憲政史上、最大の失言が、戦後憲政史上、最も資質を欠く総理の口から出た」丈の至極当然な話である。(厳密には、女性問題から在任69日で退任した宇野宗佑氏に次ぎ2番目に資質を欠く総理)

 幸い、外交高官達の努力により今般「日本ウナギの資源管理」案を国際会議で否決することに成功した。高市総理はこの唯一の成果を花道に即座に退陣すべきだ。

詳細は後日に譲るが、同政権の財政、金融、外交諸施策は方向違いで、同政権が一日延命すれば、日本が一歩亡国へ向かう筋のものだ。

又、高支持率を頼みとする政権とそれを殊更煽るマスコミは問題だ。若年層に政権支持者が多いとのことだが、狂った鯉の住む池に釣り糸を垂れても、狂った鯉しか釣れない。池ごと浚えて、土壌も水も餌もすっかり変えて、改良し、長い年月を掛けて真っ当な鯉を育てるしかないであろう。

 中国に関し私見すれば、確実に云えるのは、百年後に習近平はこの世に居ない。元来が商売上手な人々だから、今後二百年の先、彼らが尚も共産主義の軛(くびき)に服している姿は想像し難い。恐らく、どこかの時点で自由化し、然も剛腕の習なき後は、広大な国家を一人で統べる人物は登場せず、多分、三つか四つの国に分かれる公算が高い。よその国に日本が口出しすべきではない。目指すべきは「唯、ひたすら日本を良い国にする」ことだ。今日でも、中国から日本へ移り住む人々が居る。伯夷叔斉の例を引く迄もなく、古来、仁政が布かれ良く治まった国には、その庇護を求め民衆が集まるのだ。その為には見識に優れた政治実現と、日本人として美徳を磨くと共に、先祖代々引き継がれた国土は物理的に無傷で子孫に渡すことが必要最低条件だ。無用なリニアで地下を穴だらけにしたり、ゴミの始末も出来ぬ原子力に依存し、ましてや使用済核を地中に埋めるとでもなれば、祖霊に申し訳が立たぬことだ。

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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