著者:ロバート・A.ぺイプ(ROBERT A. PAPE)
肩書:シカゴ大学教授(政治科学)、兼、同大学内「安全保障と脅威の研究協会」代表。
(論稿主旨)
この10年の内に、暴力が米国の政治世相に於いて日常化したのは実に嘆かわしいことだ。2017年、極左過激主義者が下院多数党院内総務のスティーヴ・スカリス共和党議員を銃撃し当人に重傷を負わせた上4名を巻き込んだ。2021年には、右派の暴徒達が群衆を成し、米国議会に乱入、選挙で選ばれた民主党ジョー・バイデン大統領の就任を阻止しようと図った。そして、今年の大統領選挙キャンペーン中には、本稿執筆時点に於いて、共和党ドナルド・トランプ候補者に対し二度に亘る暗殺が画されるも阻止された事案が発生、これらと共に、制御困難な多くの脅威が怒涛の如き勢いで、党派を問わず、あらゆる立場の政治家達を標的とし押し寄せている。この11月に来る大統領選挙は、現代米国史上、最重要な岐路を決するに止まらず、実に、最も危険に溢れたものとして名を刻む可能性がある状況だ。
この様な事態に直面し、当然、我々は失望著しいものの、一方、斯かる事件発生の頻度が急増すること自体は、米国人、或いは、世界の観察者達にとり驚くには当たらぬ事だった。と云うのも、「暴力を急増させ兼ねない実に多くの諸要因が存在している」点は、既に専門家達が指摘し久しいからだ。即ち、ある者達は、民主主義の重要基幹諸機関が継続的に弱体化を辿り、これに関連し、生活困窮下に孤立した白人保守層が、反民主主義化する傾向をその理由に挙げていた。他の者達は、党派の自己本位な党略と二極化による対立が過激化した影響を指摘、又、より多くの者達はソーシャル・メディアや武装組織の存在を強調する一方、大勢の評論家達がトランプこそがその原因として難詰して来たのだった。
これら諸要因が、何れも米国政治を一層論争に満ちたものへと助長するのは間違いない。但し、これら諸分析は全て、実は「新しい暴力の時代」を推進する重大な支配力を有する構造的変化を見過ごしている。つまり、米国を本源的に脅かす正体は、制御不能になった何らかの革新技術でもなく、民衆による武装組織でもない。又、経済的不平を種として民衆が荒れ狂うのでもない。又、増してやトランプ自体が真の脅威ではなく、その一因ではあるものの、寧ろ彼は、米国に齎(もたら)されている弊害を象徴する、一種の“現象”に過ぎないのだ。
その代わり、最大の危機の根源とは、米国の素性認識(アイデンティティー)の本質を巡る、文化の衝突に存在する。そして、これらを牽引する主役は、社会から疎外された過激主義者達ではない。国民の大勢を占める、極一般の米国人達なのだ。シカゴ大学の我がチームが実施した最新調査によると、民主党員、共和党員、若しくは無所属派の隔てなく、何千万人と云う米国市民が「政治的暴力は容認可能である」と信じている。彼らの多くは、皆、 中流乃至上層階級の出身で、大卒の高学歴で立派な自宅を構える人々だ。
国家アイデンティティーを巡る米国内衝突は、多次元構造で複雑な性格を持つ。但し、最も深刻な問題は人口構成比の変化に起因するものだ。つまり、1990年に米国人口の76%を白人が占めたが、2023年の米国勢調査局発表では、その数字は58%強へと減少。そして、2035年迄に、同国人口に白人の占める比率が54%へ低下し、更に10年後に50%を割り込む見通しだ。これら諸変化が保守層の間に怒りの感情を強め、彼らの内で多くは「民族多様化の進行により、自身の生活様式が、その存在自体を脅かされる」と捉えているのだ。これらの人々は投票行動でトランプと彼の国家主義的運動を支持したのは、それらが白人比率減少の軌道に歯止めを掛ける約束を謳っていたからだ。一方、トランプの排他的諸政策とそれを壮語する演説は、自由主義者達の激しい怒りの反撃を惹き起こした。彼らは、人口構成変化を受け入れる立場か――或いは、保守派が勢い付けば、数多(あまた)犠牲を払った上に手に入れた米国自由主義が損なわれる事態を少なくとも危惧する人々だった。
両陣営の怒りは、過去の歴史的諸事象に密接に関わる。又、「社会変容と人口構成変化は、暴力を強力に助長する要因」と云うのが学者達による従来からの定説だ。そして、他所に於いても、暴力化する米国の傾向は、基本的にポピュリストの性質を備えるものだ。暴力を支持する何百万人に上る米国人達は、同国のエリート達はとことん腐敗し、民主主義が完全崩壊している故に、その現状に鑑みれば、暴動、政治家の暗殺、及び反対派への暴力的攻撃は、「人々が享受すべき、本来の純粋なる民主主義を実現する為には、許容可能のみならず、寧ろ必要なものである」と結論付けるのである。この種の思考は、怒りに燃えた人々が、政治指導者、政党、或いは、所謂、既存体制の権力者達を付け狙い襲撃を画する、あらゆる種類のポピュリスト運動に特有のものなのだ。
遺憾ながら、今後数年間は、暴力を伴うポピュリズムが一層顕著化するだろう。政治的暴力行為が多くの民衆から支持を受ける社会は、歴史的に見ても、現実により頻繁に暴動が惹き起こされる。米国の人口構成変化を喰い止める策はなく、仮にもしあったとしても、その策を進めるのは誤りだ。何故なら、斯かる国民の多様性こそが我が国の強みなのだ。一部予想に取り沙汰されるような、米国が大規模内戦の瀬戸際にある、と迄は云えぬかも知れない。然し乍ら、この国が、極めて深刻な闘争の時代――政治的動機による暴動、少数派に対する襲撃、及び暗殺すら横行する――に入りつつある点は間違いない。
(次章以下順次翻訳)
文責:日向陸生
*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。
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