【特集論文】『大国間競争の勃興と衰退の考察 ~トランプ政権が醸し出す新世界~』(原典:『The Rise and Fall of Great-Power Competition ~ Trump’s New Spheres of Influence~』, Foreign Affairs 2025年May/June号、P8-23)

著者:ステイシー・E. ゴダード(STACIE E. GODDARD)

肩書:ウェズリー大学、政治科学教授

(論稿主旨)

 「前世紀の遺物とし放念されていた現象、“大国間の競争時代”が戻ってきた!」

2017年、ドナルド・トランプ大統領の公表した『国家安全保障戦略』は、こう宣言した。これは、米国外交政策立案者達が過去十年間、政権内にそして世界に発信して来た内容を1行に要約したものだ。

冷戦終焉後の時代、米国は一般的に、可能な場合には何時でも、他の諸大国に協力し、米国が主導する世界秩序の中へ彼らを組み入れる方向を目指した。

然(しか)し、2010年代中盤、新しい合意が定着した。即ち、協調の時代は終わり、米国戦略は「如何に中国、露西亜と云う主要競合国とワシントン政府が競って行くか」に焦点を当てざるを得なくなった。米国外交政策に於ける当時の最優先事項は明白で、「彼らより優位に位置せよ」だった。

 「ワシントン政府と対峙する競合諸国は、米国の地政学上利益に挑み掛かり、彼らに都合良く国際秩序書き換えを画策している」と2017年のトランプ政権内文書に明記された。これを受け、翌年、彼の公表した『米国防戦略』は、諸国家間の戦略競合が“国家安全保障上の最重要課題”となった旨を論じた。

トランプと激しく争った政敵、ジョー・バイデンが2021年に大統領就任すると、米国外交方針は一部劇的変化を生じた。それでも、「大国間競争」を中心思想とする点は不変だった。2022年、バイデンによる『国家安全保障戦略』は「我々の構想に対し最も差し迫った戦略上の脅威は、修正主義外交を掲げ独裁主義的統治を織りなす諸大国に由来する」と警告を発した。そして、其処(そこ)から唯一結論付けられたのが「中国との競争に“勝利”し、好戦的な露西亜を封じ込める」ことだった。

 一部の者達は、この大国間競合の合意を賛美し、他の者達はそれを憂えた。然し、露西亜はウクライナ攻撃を強化し、中国が台湾併呑方針を明確化し、更に、この独裁主義二大国が相互関係を深め、米国が競合する他諸国とも連携を密接化させる環境下、ワシントン政府が外交の道標とし掲げて来た、“大国との競合”策をよもや放棄しようなど、予想する向きは極めて少数だった。即ち、2025年、トランプのホワイトハウス復帰に際し、当時のフォーリンアフェアーズ誌掲載の、ある論稿表題が「トランプーバイデンートランプ外交方針」と名付けた如く、多くの批評家達が外交政策の継続性を期待した。

 そして、トランプ第二期政権発足後、2ケ月経過。トランプは、自身もその構築に助力した諸合意を驚くべきスピードで粉砕してしまった。更に、中国と露西亜に対し、今回、トランプは協調を求め、彼の一期目に於いて明らかに国益に反したであろう類の諸取引実施を模索しているのだ。そして、トランプはウクライナ戦争の迅速な終結支援を優先し、その為なら、ウクライナ指導者達を公然と侮辱し、一方、露西亜を賞賛し、同国による広範なウクライナ領土の占領すら容認を辞さぬ姿勢が如実となった。

 中国とは依然緊張関係にあり、特にトランプ関税実施に対し、中国側報復関税の発動が近づくに連れ一層緊迫化した。それでも、トランプは、習近平国家主席へ広範に亘る合意を協議したい旨の秋波を送ったのだ。

トランプ助言チームのある匿名者がニューヨーク・タイムズ紙に語った処によれば、トランプが望んだのは、習近平と腹を割って膝詰め談判し、貿易、投資、及び核軍備を統治する諸条件に就いて取り決めることだった。    

他方、トランプは、欧州内の米国同盟諸国とカナダに対し経済圧力を強め(カナダへは米国の“51番目の州”になるべきだと強要)、そして、グリーンランドやパナマ運河を獲得すると脅し上げた。斯くして、一夜明けた途端、米国は攻撃的な敵対諸国と競争する国家から、温厚な同盟諸国を脅す国へと変貌した。

 批評家達が破天荒なトランプ行動を何とか解明しようと試み、一部識者は、彼の諸政策を過去の典型的“大国間の競争策”に厳密に当て嵌めて解釈した。即ち、同見解では、露西亜大統領ウラジミール・プーチンに接近する行動も、実は、露中協力体制を離間させるべく精緻に設計された――嘗てキッシンジャーが米中接近でソ連の孤立を図った策の逆張りを行く、大国間競争策なのだ、と。

又、他の者達は、習近平やプーチンを初め、印度のナレンドラ・モディ、ハンガリーのヴィクトル・オルバーンらが取る行動と同様に、トランプも又、大国同士が競合する情勢下、単に国家主義的な姿勢を以前に増し追求しているに過ぎない、と評した。

 これら諸説は、今年1月の時点では、そう解釈する余地もまだ残っていた。処が、今やトランプが描く世界観は「大国間競争」ではなく「大国談合体制」であるのが明白だ。即ち、それは19世紀の欧州を席巻した“欧州協調”体制に酷似するものだ。

結局、トランプが望むのは、強権を振う諸大国が談合――常に協調し合う訳ではないが、彼らの共有する秩序構想を、自分たち以外の国々に対し強要する目的に於いて、常に一致する――世界だ。

これは、中国や露西亜との競争を米国がすっかり止めることを意味しない。大国間競合は国際政治に必ず付随し、霧消するものではない。但し、“大国間競争の時代”を銘打ち、米国が一時、組織立て国家外交原則に掲げた策は、結局、内容が実に軽薄で且つ短命に終わった。然し、それでは、今般トランプの打ち出す新たな手法が、その替わりに機能し得るのかと云えば、彼のあらゆる行動を歴史に照らせば、全ては不幸に終わる類のものであることが判る。

( 第一章 了 )

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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