【投稿論文】『中国を見縊ってはならない ~北京の飽くなき冒険主義に抗するには、同盟諸国と合力し規模の優位を保て~』(原典:『Underestimating China ~Why America needs a New Strategy of Allied Scale to Offset Beijing’s Enduring Advantages~』, Foreign Affairs 2025年May/June号、P66-81)

著者:カート・M.キャンベル、ラッシュ・ドーシ共著(KURRT M.CAMBELL & RUSH DOSHI)

肩書:前者はバイデン政権下に国務副長官、及び国家安全保障会議印度太平洋担当官勤務。後者は、ジョージタウン大学助教授、及び外交問題評議会中国戦略部長。バイデン政権下の国家安全保障会議メンバー(中国、台湾問題上級補佐官)。

(論稿主旨)

 大国間競争に於いて優位に立つには、綿密にして感情に左右されない、総合的な戦略評価が欠かせない。処(ところ)が、中国に関する米国分析は、これ迄、一極から他の一極へと急激に揺れ動いて来た。

米国は、数十年間に亘り、急速な経済成長、国際貿易の支配、及び地政学的野心の拡大を達成した。その結果、「米国が中国に抜き去られる日は、米国が戦略的に滅裂し政治的に麻痺した国家へと堕さぬ限りは訪れることはない」と米国人達は考えるに至った。

そして、2008年金融危機の後、又は、特にコロナ感染症が猛威を振るった最中には、多くの批評家達が「遂にその日が来た」と信じて疑わなかった。

然し、その振り子が真反対へと振れたのは、中国政府が「ゼロ・コロナ策」の放棄を以ってしても成長回復に失敗した、その僅か数年の後のことである。

北京政府が、不吉を告げる年齢別人口構成比や、嘗ては想像も出来なかった若年層の高失業率、及びスタグフレーションの進行に悩まされる一方、米国は同盟諸国との関係強化を図り、AIや他の技術分野では誇るべき大飛躍を遂げ、歴史的な低失業率と史上最高値の株式市場を伴う経済活況を享受した。

 

 斯くして、新しい合意が形成される。「人口老齢化が進行し、経済成長が減速し、次第に機敏性を失いつつある中国は、上昇を続ける米国を追い抜くことが出来ない」と。ワシントン政府は悲観論から自信過剰へと一変した。然し、過去の一時、敗北主義に病んだのが見当違いであったと同様、今日の如く勝ち誇った態度を取るのも又、誤りだ。何故なら、それは中国の目に見えない力と現実の力の双方共を過小評価すると云う危険な誤謬に陥る恐れがある為だ。特に、同国は米国GDPの70%を越える経済規模を有する、この百年で唯一の競合国たることを忘れてはならない。寧ろ、重要な諸尺度に於いて、中国は既に米国に優っているのだ。即ち、経済面では、米国に二倍する製造能力を有し、技術面では、電気自動車から第四世代原子炉迄、全ての製品を支配し、今や、出願特許件数、及び最も引用される科学出版物の数に於いて、毎年第一位を占めている。

軍事面に於いては、同国は世界最大の海軍力を誇り、米国比200倍の造船能力がそれを支える。加え、米国を遥かに凌ぐミサイル在庫数と、更に世界最先端の極超音速技術を保持する。これらは全て、歴史上に類を見ない、急激な軍備近代化を成し遂げた結果だ。従い、譬(たと)え、中国の経済成長が減速し同国体制が多少揺らいだとて、依然戦略上の難敵であることに変わりないのだ。

 

 冷戦時代にソヴィエトの指導者達は「量こそが、それ自体、結局は品質をも凌駕する」とよく主張した。各国の生産性が均等化した後には、より大きい人口と、地理的により広範な領土、及びより強い経済主導権を有する国家が増幅し、やがて最早自身よりも小さくなった先行諸国を支配する。このダイナミズムは歴史の至る局面で発出した。

当の米国も20世紀にこの恩恵を被ったのだ。つまり、欧州各国の産業化の波に追いつき、その後、自国の大陸規模と擁した大きな人口とを梃子にして、英国、独逸(ドイツ)、及び日本を追い越し、遂にはソヴィエト連邦を凌いだ。

今日、この動態による便益を享受するのが中国で、片や、米国は技術水準で追いつかれ、経済面では産業が後退し、更に軍事的には、その競合国により規模と生産能力で大きく水を空けられ敗退している。

 

 時は今や、再び大規模展開を画する者達に戦略上の優位が生まれる時代に戻ったのだ。中国は規模の利を有するが、米国は少なく共、自国丈(だけ)ではそれを持たない。今日の複雑な国際競争環境下では、他諸国と協調を図ることが唯一可能な道であるにも拘わらず、ワシントン政府が一国でそれを乗り切ろうとするのは賢明でない。もし、米国が西半球の勢力圏に引き籠れば、米国はその他世界を、国際的関与を強める中国に譲り渡すことになるだろう。

 「同盟諸国や盟友達が重要」と再認識することが、先ずは我が国の出発点になる。それを最終目的として目指すようでは手遅れだ。何故なら、同盟諸国に対する従来の米国対応は既に時代遅れで、最早通用しないからだ。

元来この対応は、冷戦時代の諸前提に根差し、その後80年間も、怠慢により脈々と続けられた結果、米国は嘗ての盟友諸国を「依存者達」と見做すようになった。即ち、米国にとって彼らは「権力を共に構築して行く盟友」ではなく「専ら保護の受益者」と云う訳だ。米国は、同盟諸国からの協力提供を屡々(しばしば)多としたものの、一方、これら諸国が米国には往々に負担となり障害化した。要は、この形態は最早時代にそぐわなくなったのだ。

従い、ワシントン政府が「規模の利」を獲得する為には、同盟構築に際し、「二国間関係維持の集合物」であった従来方式を改めなければならない。それに替えて、各領域を統合し且つ各国能力を増強及び共同保有する方式、謂わば「一大プラットフォーム型」へと移行する必要がある。つまり、軍事、経済、及び技術の各分野へと対象領域を拡大し、具体的には、日本と韓国が米国艦船を建造し、台湾が米国半導体工場を建設する一方、米国は見返りに同盟諸国へ軍事最高技術を供与し、全ての盟友諸国は市場を互いにプールしつつ、中国に対しては一致し関税や諸規制を以って壁を築くこと、を目標とすべきなのだ。

斯くして、米国をその核とし、一致団結して域内相互運営する“ブロック方式”を以ってこそ、中国一国では対抗を許さぬ、総合的な諸優勢点を生み出すことが可能になる。

 

 しかし、この手法を進めるには、指揮統制を目的とした旧来の外交方式を一変させ、物量能力を重視する新たな政治手腕へと移行すべく、根本的な構造改革作業が必要だ。殊(こと)、今や、どの一国も他を圧倒する規模の優位性を持たない世界に於いては、米国が十分に自身の権力を蓄え、そしてそれを行使する為に、斯かる抜本的転換を為し遂げることが必須だ。時間と規模を味方にする中国に対し、米国と同盟諸国は、団結力と集団的梃子力とを頼みとする以外に道はない。

現状が既に警戒を要する事態であることを、我々に怠りなく再認識させてくれるのは、嘗てベンジャミン・フランクリンが「独立宣言」署名時に発した次の言葉であろう。曰く「全員で団結することが肝要だ、さもないと、一人づつ絞首台で吊るされるのがオチだ」と。(*訳者後注)

( 第1章 了 )

(訳者後注)

*米国建国の父と云われる、ベンジャミン・フランクリンの語録。原文「we must “hang together”, or we will all “hang” separately.」(hangの二重の意味に掛けた洒落)。

文責:日向陸生

*尚、当ブログ翻訳文章は生成AI機能一切不使用です。

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